今週末の11日(土)から、明治安田生命J1リーグ・セカンドステージが開幕する。そのひとつの見所として、来年1月にカタールで行われるリオ五輪最終予選のメンバー、すなわちU-22世代にも注目が集まっていくだろう。
1日にユアテックスタジアム仙台で行われた、U-22日本代表とU-22コスタリカ代表の親善試合は、2-0で日本が勝利した。
特に頼もしく感じられたのは、今季のJリーグで継続的に試合に出ている選手たちだ。前半36分の先制ゴールは、キャプテンの遠藤航(湘南)が、相手の前線のプレスをはがして持ち上がり、そこからの素早いサイドチェンジが起点となった。
また、1トップに入った浅野拓磨(広島)は自慢のスピードだけでなく、フィジカルの強さを見せ、前線でがっちりとボールをキープした。後半から出場した喜田拓也(横浜FM)も、持ち味とするアグレッシブなボール奪取と、落ち着いたパス出しをこなし、J1の上位チームでポジションをつかんだ選手である事実を見せつけた。
プロになって初めて、海外の選手と対戦した
そして、今回が初招集となった右MFの前田直輝(松本山雅)。右サイドから果敢なドリブル突破に何度もトライした。彼も同じくJ1で試合に出ている選手だが、U-22コスタリカとの対戦については、次のように振り返っている。
「(J1でプレーしている身として、コスタリカをどう感じた?) プロになってから初めて、海外の選手と対戦したような気がするんですよね。11人全員が、海外の選手というのは。面白かったです。『ああ、ここで球際に来るんだ』とか、逆に『ああ、ここは来ないんだ』とか。日本人と外国人の足の出る長さとか、タイミングも違うので面白かったです。いろいろな発見があったので、またやってみたい」
これを聞いて思い出したのは、ブラジルワールドカップ敗退の直後に発した、内田篤人のコメントだ。
「世界は近いけど、広かった」
まるでガガーリンの名言のような内田発言を、筆者はこれからも引用し続けるだろう。それくらいの衝撃を受けたコメントだったが、おそらくは今回の前田も「世界は近いけど、広い」という感覚を得たのだろう。
「5月のJ1月間MVP」不在の喪失感
前田はもともと技術に定評のある、東京ヴェルディの生え抜きレフティーだが、今季はJ1の松本山雅へ期限付き移籍。守備意識が高まったことで、ポジションをつかみとり、そのプレーぶりが、U-22の手倉森誠監督の目にも留まった。
しかし彼自身は、現在のパフォーマンスに慢心する様子を少しも見せていない。
コスタリカ戦の前日練習の後と、試合の後に話を聞いたが、松本山雅でやっているように守備意識を高めて試合に出るべきプレーを果たすことは「ヴェルディでも出来たはず」と、3回も4回も、繰り返し語っていたのが印象的だった。今の自分に自信を持ちながらも、「もっと早く気づくことは出来た」と自分を律する厳しさ、冷静さを持っている。なるほど。手倉森監督が、この選手をチームに呼んだ理由がわかるような気がする。
だが、前田の凛として語る姿を見るにつけ、この場に『5月のJ1月間MVP』が呼ばれていないことの喪失感が、改めて身にしみる。
「コスタリカに対してどの武器を選ぶかで、今回は前田を選んだということ」
最初に21名のメンバーが発表された後、さらに4名が追加招集されたが、関根貴大(浦和)には、ついぞ声がかからなかった。
J1ファーストステージで無敗優勝を果たしたチームのレギュラー選手であろうとも、トップリーグの月間MVPに輝いた選手であろうとも、チーム戦術、あるいは対戦相手との相性が、メンバー選考において優先される。
A代表ならば、それでもいいだろう。アギーレジャパンに宇佐美貴史が招集されなかったように、すべてはチームの方向性次第だ。個人よりも、A代表というチームが最優先だ。
アンダー代表はチーム事情よりも、育成を重視すべき
しかし、そのようなチーム事情による選考基準を、A代表以外、たとえばU-22に適用するのはいかがなものか。今回で言えば、関根ほどの実績を挙げた選手については、チーム事情など一切関係なく、万難を排してまずは呼ぶ。クラブとは違うポジションでも呼ぶ。伸び盛りのタレントを、一切漏らさない。それがアンダー代表の在り方ではないか。
J1を深く貫いた関根が、今度は世界の広さを知る、大切な経験の場だ。前田に与えられた「発見」という刺激は、仮に招集されていれば関根にも起こっていただろう。
その機会を、アンダー世代のチーム事情によって失ったことは、後々のA代表の損失になる。もちろん、関根に限った話ではない。あくまでも一般論として、結果を残しているアンダー世代の“個”は、代表のチーム事情に左右されず、確実に上の世代へ送り込まなければならない、という話だ。
だから筆者は、アギーレが宇佐美を呼ばなかったことは納得するが、手倉森監督が関根を呼ばなかったことには納得していない。これは監督というより、JFAが収めるべき管轄ではあるが。
もちろん、欧州と違って日本人はオリンピックが好きだし、U-22世代が単なるアンダー代表ではなく、五輪代表というもう一つの肩書きを持つことは承知している。だが、そのダブルスタンダードが、日本のサッカーのピラミッドをいびつな形に変えているのではないか。
その視点から、J1月間MVPを招集しなかったU-22は“ナシ”だ。今回に関してはチームの骨子を残しながら、約半分のメンバーを入れ替える構成になったが、少なくとも、もう一人分の席を入れ替えるべきだった。それはU-22代表でチーム戦術的に欠かせない選手であっても、クラブで試合に出なければ、いつでも席は無くなるという、強烈なメッセージでもある。(文・清水英斗)
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