サイドアタッカーから“8番”へ。原口元気が語る、プレースタイルの変化と成長

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第153回

サイドアタッカーから“8番”へ。原口元気が語る、プレースタイルの変化と成長

By 清水 英斗 ・ 2021.12.25

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浦和レッズを離れて8年。現在30歳。今回、原口元気選手をインタビューする機会を頂き、目標、戦術、身体、セカンドキャリアなど様々な話を聞かせてもらった。

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全体を通じて感じたのは、「いい年の取り方をしているなあ」ということだ。


たとえば戦術。インタビュー動画で初めて知った人もいるかもしれないが、実はここ2年ほどの間、サイドではほぼプレーしていない。現所属のウニオン・ベルリンなどクラブでは、真ん中のMFとして認識され、出場している。


唯一、森保ジャパンでは通例のようにサイドで起用されているが、実はクラブとは異なるポジションでプレーしている選手の一人だ。


そして動画でも触れられているが、この3年ほどの間、原口はスペイン人の分析官と契約し、身体の向きから視野の取り方、味方へのサポートなど、戦術の向上に取り組んできた。本人曰く、「本当に一からやり直しました」とのこと。


原口に関しては元来、こだわり肌という印象がある。


浦和での若手時代、こだわりの対象は主に技術だった。こうフェイントをかければ相手は引っかかる、こうやってドリブルをすれば効果的になると、練習場でチームメイトと共に、居残り練習に励んだ姿をよく覚えている。


技術→身体→戦術


その後ドイツへ行くと、こだわりの対象は身体的な部分に変わった。筑波大学の谷川聡氏とのスピードトレーニングをはじめ、様々なアプローチを試してきた。


その甲斐あって、今では「自分の身体を客観的に見て、何が必要なのかを決める作業がうまくなった」「コンディショニングは自分の武器、財産」と自信を深めている。


今はそのこだわりの対象が、戦術になった。技術→身体→戦術。選手育成的に言えば、順番についての議論は様々あるかもしれない。


ただ、原口はそれを自らがドイツでプレーする意味と語る、「厳しい生存競争」の中で、実戦的に一つ一つ身につけてきたわけで、そこに正しい順番もくそもない。


サイドアタッカーからインサイドハーフへ


私自身、原口のポジションが変わったことはもちろん知っていたが、インタビューで印象に残ったのは、彼の温度感だった。ドイツで「8番」と呼ばれるインサイドハーフに変化したことについて、


「正直、これまでのキャリアの中で今が一番楽しい。毎試合ワクワクしながらプレーしている」


と言い切った。そこまでポジティブな意志を持っているとは、驚いた。


ハリルジャパンの頃、時折ボランチで出場したのは、指示されて受け身でプレーした部分が大きかったと思う。ロシアW杯の西野ジャパンで右サイド起用されたことも、チームのために、ワールドカップに出るために、との気持ちに支えられた部分が大きかったはず。


しかし、今は全く違うようだ。インサイドハーフでプレーしている自分を、彼は能動的に、それこそ「安くはない、実績のある分析官」を自費で雇って取り組むほど、ハマっている。その「楽しい」と語る温度感は印象的だった。


森保ジャパンで見たい“4人目の動き”


原口は自身が[4-3-3]のインサイドハーフで起用された際のストロングポイントについて、「4人目になれること」を挙げた。3トップ中心の速攻になったとき、中盤が置いて行かれるのではなく、インサイドハーフが4人目として追い越す走力を持っている。ウニオン・ベルリンでも、その形でカウンターに絡んでいるし、確かにそれは原口の大きな魅力だ。


日本代表でも、11月のオマーン戦では、右ウイングの伊東純也が相手に徹底マークされ、持ち味を出せなかった。もし、伊東をマークしてきた相手サイドバックの裏へ飛び出す8番、原口がいれば、伊東周辺で化学反応が起きたかもしれない。


原口ならサイドへ流れる飛び出しをした後、ドリブルで仕掛けることも可能だ。彼自身は「他の選手と比べることは言いたくない」と、代表の細かい部分を語ることを避けたため、上記は筆者の想像であることは申し添えておく。森保監督の考え方とも違うかもしれない。


ただ、ワールドカップ本番を見据えたとき、攻撃的な[4-3-3]が、[5-3-2]等に形を変え、ロングカウンターを狙う展開も十二分にあり得るわけで、原口のインサイドハーフは現実的に持っておきたいオプションだ。


ギラギラ感は衰えていない


また、走力を生かしたプレーに限らず、原口はポゼッション等でも8番としての仕事量を増やすべく、戦術面の向上に取り組んできた。それは森保監督も承知しているはずだが、ぜひこの動画を見て、彼の温度を感じてほしいと思う。


『士別れて8年、刮目して相対すべし』。Jリーグにいたころの原口とは別人だ。


実はインタビュー中、大人になったと感じられる彼に対し、「丸くなったと言われる?」と意地悪な質問も入れてみたのだが、本人は全くピンと来ない様子だった。今が一番楽しいのなら、当然だろう。


ストイックさは全く変わっていない。


「(食事は)必要ないものは極力摂らない。甘いもの、揚げ物を食べないのは当たり前」「(恋しくはならない?)隣で妻が甘いものをガンガン食べて…、食べたくなりますけど、天秤にかけた時にどっちを取るかだと思う。活躍したいんだったら食べるなと、自分に言い聞かせれば大丈夫です」


ギラギラ感は衰えていないようだ。というか、肩の力が抜けたまま、笑って話す原口の様子は、まるで日常から超サイヤ人でいることを会得したゴクウのよう。選手として、人としての成熟を感じさせる。


そんなこんなで、「いい年の取り方をしている」と随所に感じられたインタビューだったが、共感して頂ける部分もあったのではないか。


今が一番楽しい。そう言えるのは、幸せなことだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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