なぜ長友佑都をスタメンで起用するのか? 森保監督の頭の中を読み解く

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第155回

なぜ長友佑都をスタメンで起用するのか? 森保監督の頭の中を読み解く

By 清水 英斗 ・ 2022.1.31

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カタールワールドカップ・アジア最終予選の中国戦が行われ、日本は2-0で勝利を収めた。次戦はサウジアラビア、3月末に迎える次次戦はアウェーでオーストラリアと、決戦が続く。


そんな中、日本人史上初の4大会連続ワールドカップ出場を目指す、長友佑都を問う声が喧しい。それに関しては筆者も中国戦で、小さくない違和感を持つ場面があった。


後半11分、左サイドで守田英正が中継点になって相手を引きつけ、高い位置を取った長友へボールを展開した場面だ。


クロスからフィニッシュを狙う、絶好の機会だった。中国DFが1人対峙しに来たが、間合いは浅い。少しずらせば、簡単にクロスは入りそう。また、守田もインナーラップして深く突き崩すオプションを長友に与えようとしている。


ところが前を向いた長友は、クロスを上げることなく、ゴールへ向かうことなく、後ろへボールを下げてしまった。日本は再び後方からつなぎ直し、反対の右サイドへ展開すると、最後は伊東純也の仕掛けから大迫勇也がシュート。ボールは枠を外れた。


何となくフィニッシュまでたどり着いたシーンではあるが、長友の消極的な判断には「?」が残った。インナーラップした守田も後ろへ下げられたボールを見て、がっかりした様子だった。筆者も記者席でずっこけた。


左サイドの攻撃が停滞


その2分後、大迫→前田大然と共に、長友も中山雄太への交代が告げられた。タイミング的には上記の場面を受けての采配では無い。


ただし、前半から長友は1対1で仕掛け切れなかったり、クロスの精度を欠いたり、あるいはフワフワのクロスで全く可能性を感じさせなかったりと、左サイドの攻撃を詰まらせる一因になった。


躍動感あふれる頃の長友なら、1対1で対峙すれば縦へ、マイナス気味に持ち出して相手との間合いを作り、強烈な腰の回転でゴール前へ左足でクロスを蹴り込んでいた。


それは2011年のアジアカップ辺りで確立した、彼の代名詞のようなプレーだが、近年は影を潜めている。元々ビルドアップを含め、あまり攻撃が得意な選手ではないが、一芸のクロスや爆発的なランニングでは違いを見せたのに、それが失われているため、攻撃のブレーキ感が強かった。


もう一つ、対戦相手も見る必要がある。後半は中国の右サイドハーフ、ウー・レイが最終ラインの守備に下がらなくなったので、左サイドバックの長友が上がれば、フリーでボールを受けられる。中国側の変化もあった。


しかし、日本はそこまでボールを展開出来ているのに、有効なチャンスにならない。長友の箇所で詰まる。それが、左サイドバックに中山が入った3分後に彼のクロスで得点に至ったのも、状況的には必然というか、攻撃のピースが埋まった感じはあった。


左利きの中山が入ると、今回のクロスに限らず、広角なパス出し、スルーパスや1トップへのクサビなど、攻撃は大きく質が変わる。それは中国戦に限らず、他の試合でも見られた現象だった。


中山投入でゴールは生まれたが


一方、中山が入ったら入ったで、今度は彼の粗も見え始める。


この試合、日本は激しいプレッシングで中国に圧力をかけ、高い位置で早期に処理。中国に攻撃の持ち味を発揮させないよう、アグレッシブな守備を展開した。


もちろん、途中から投入された中山もその枠組みへ入るわけだが、長友に比べると寄せは浅い。眼前の敵、背中を向けた敵に強く寄せきれず、余裕を与えがちだった。アジリティー(敏捷性)やスピードの差もある。


その点で長友は、1対1の寄せが深く、相手を嫌がらせる。プレスで潰すときは、ハッキリと潰した。前半に長友からファウルぎりぎりの接触を受けた中国の選手が、レフェリーの笛に頼ろうとする様子も印象に残っている。


「日本の選手は、球際で激しく当たられるのを嫌がる」と、過去にアジアで対戦した監督が語るのを、何度か耳にしてきた。今は遠藤航のようなデュエルお化けもいるが、一昔前は顕著な傾向だったと思う。


だが、長友に関しては、ずっと球際が好物。「日本人は球際を嫌がる」セオリーは、彼には通用しない。


そうした相手側から見た日本の印象を踏まえつつ、長友と中山の違いを見ると、采配が理にかなう部分はある。


長友のスタメンでプレス強度を確保し、試合全体を支配する。相手にプレーをさせない。そしてスペースが空き始める後半、中国戦では実際にウー・レイの守備に変化があったが、そうしたタイミングで中山を送り出し、攻撃のクオリティーを上げる。


元々、中山はボランチやセンターバックが主戦場だ。近年は左サイドバックの経験を積んでいるが、今季は所属のズヴォレでも、途中から3バックの真ん中でリベロを務めている。


サイドの守備は彼の長所とは言えない。リトリートした状況なら、自陣ゴール近くで高さを生かすなど長友以上の能力も出せるが、プレッシング主体の展開でサイドバックを務めるのは、本来得意ではないはず。


サイドバックに求める守備の強度


長友の粗は目立つ。だが、中山も完璧ではない。


おそらく森保監督は、長友以外の左サイドバック候補に、守備強度の不安を感じているのだと思う。2次予選では招集されていた左利きの小川諒也も、最終予選では声がかからなくなった。理由はやはり強度だろう。中山でぎりぎり、それ以下はアウト。


できれば左利きで攻撃面のクオリティーを持ちつつ、許容レベルの強度を備えていてほしい。だが、この条件をクリアする人材が乏しいため、今も長友に頼り、佐々木翔にも頼り続けている。


実際、あまり居ないと思う。


若い選手の中には、長く試せば可能性を感じる選手もいるが、時間はない。個人的には昨季、左サイドバックにコンバートされた浦和の明本考浩は面白いと思ったが、W杯は今年の冬だ。


コンバートがもう1年早ければわからなかったが、国内合宿に呼ばなかった時点でラージグループにすら入っていないことは想像が付く。


そうやって選手の幻想を求め続けるより、長友と中山の両方を起用したほうが確実。少なくとも最終予選の最中は、そう考えているのではないか。


とはいえ、いつも後半15分辺りで、長友→中山、長友→中山と、そんな采配が何試合も続けば、観る側が不審に思うのは当然だ。判で押したように、DFが交代カードの1枚目になる采配など普通ではない。


その判は、長友への失格の烙印ではないか。そう受け取られても仕方がないし、受け取られることを監督は想像したほうがいい。


いっそのこと、森保監督はこう言い切ってはどうだろうか。


「日本代表に完璧な選手はいない。前半に帯を使い、後半にたすきを使う。これが、5人交代時代の新スタンダードである」と。


最初の交代カードで、いつもDFを同じ人へ交代する。何試合も続ける。こんな普通ではない采配をしておきながら、森保監督、ちょっと説明不足だと思う。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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