W杯を勝ち抜くため、“川崎セット”と“強度型カウンターセット”の使い分けはどうだろう?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第160回

W杯を勝ち抜くため、“川崎セット”と“強度型カウンターセット”の使い分けはどうだろう?

By 清水 英斗 ・ 2022.4.12

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4月1日に行われたカタールワールドカップ抽選会。その封が切られるとき、NHK解説の福西崇史さんは「嫌ですね」と予言した。日本はグループEに入り、スペイン、ドイツと同組へ。


厳しいグループになった。エイプリルフールでは無いらしい。日本はどう戦えばいいのだろうか。


ひとまず、スペインのことは脇に置いておこう。抽選はどのチームと当たるのかに注目が集まるが、対戦順も重要だ。日本はE4に入ったため、E1のスペインと戦うのは最後になる。


3戦目はゲームプランの変数が多い。仮にスペインが2連勝し、3戦目はメンバーを落としてきた場合、日本は連係的に不慣れなDFに照準を定めたハイプレス、ショートカウンターが有効になるかもしれない。


逆に、スペインが勝ち点を取りこぼし、緊張感を持ってフルメンバーで日本戦に臨んできた場合は、こちらも慎重に戦う必要がある。あるいは双方に、出場停止となる選手が出ているかもしれない。


つまり3戦目は想定されるゲームプランに幅がありすぎて、詳細に書いても大半は無駄になる。ここでは選択と集中で、ドイツ戦+2戦目に絞って話をすすめたい。


アグレッシブなドイツの攻略法は?


ドイツ代表は昨年から元バイエルン・ミュンヘン監督、ハンス=ディーター・フリックが指揮している。彼は2014年まで、ドイツ代表でヨアキム・レーブ監督のアシスタントを務めた人物だ。


フリックが指揮するサッカーは、Jリーグで言えば、横浜F・マリノスに近い。ポゼッションを握りつつ、敵陣へダイナミックに攻め込む。


4-2-3-1の両サイドハーフは中へ入って、5~6枚で中央に厚みを作り、素早くコンビネーション。厚みを生かし、奪われたボールは即時奪回する。敵陣で攻守を完結させるアグレッシブなチームだ。


空いた両サイドにはサイドバックが上がり、1枚で幅を取る。中を厚くして、相手が絞ってきたらサイドへ展開し、クロスで仕留める。セカンドボールにもグッと密集し、「ドイツ人はこう攻める!」と言わんばかりの圧をかけ、グイグイ迫って来る。


システムは4-2-3-1以外にも、相手に応じて3バックなどを使い分けるが、基本的なゲーム戦略は同じだ。


ハッキリ言って、強いと思う。


ドイツ戦は5-3-2が良さそう


カタールワールドカップは移動の負担がなく、気候も過ごしやすい。また、欧洲サッカーはシーズン中でもある。過去の大会に比べて、コンディションは整いやすいだろう。


これらの好条件を踏まえると、アグレッシブに戦うドイツのボールを、アグレッシブに取り上げたり、勇気を持ったパス回しで剥がそうとする正攻法はリスクが高い。最終予選と同じ[4-3-3]で行けば、2014年W杯準決勝でブラジルが喫した、1-7レベルの大量失点もあり得る。


オープンな衝突を避けるなら、3月の親善試合でファン・ハールのオランダ代表が用いた[5-3-2]はありだろう。


ドイツのダイナミックな攻撃に対して、4バックでスライドしても、おそらく間に合わない。ハーフスペース等のすき間から飛び出されたり、サイドチェンジで振り回されたりと、対応が後手に回るのは容易に想像できる。


だったら最初から、相手がねらうスペースに5バックで構えたほうがいい。それでも振り回されるだろうが、4バックよりも消耗を軽減し、相手のスピードを抑えられる。[5-3-2]は一つの選択肢だ。


大迫と古橋の2トップ


もっとも、その場合はアジア最終予選を一旦忘れ、選手起用は再考しなければならない。お尻を低くして構えるので、ベースは強度と走力だ。たとえば田中碧ではなく、原口元気をインサイドハーフに置き、2トップは背後に起点を作れる古橋亨梧を、大迫勇也と組ませる。


大迫が真ん中でセンターバックを引きつけ、古橋がサイドへ流れ、2人の間へ原口が後方から飛び出すイメージだ。両サイドバックが高い位置を取るドイツに対しては、2トップが有効だと思う。


ただし、これが初戦であるのはネック。ファン・ハールのオランダならともかく、日本が、森保ジャパンが、初戦からそんな大人の戦い方を選択するだろうか。しないと思う。だけど、対戦相手もそう思うだろうから、そこに活路があるのではないか。


今回のワールドカップは、直前まで各国リーグが行われるため、直前の準備期間は1週間程度しかない。日本はE組なのでA組やB組に比べると、2日間多く余裕があるが、このわずかな日数でどんな仕上げの準備をするか。それがドイツ戦の鍵だ。


5人交代で戦術の幅が広がる


2戦目の相手はニュージーランド、あるいはコスタリカだ。6月14日の大陸間プレーオフで決定する。


侮れない相手だが、引き分けていい相手でもない。日本からすれば、勝ち点3は絶対だ。どちらも守備が堅いので、どう攻略するか。


2戦目は攻撃に比重を置きたいので、ドイツ戦仕様の[5-3-2]は不向きだ。最終予選の[4-3-3]、それも川崎出身選手を並べた形が良いのではないだろうか。3月のオーストラリア戦で、山根視来、守田英正、三笘薫の3人が敵ゴール前を切り裂いたように。


ワールドカップは、半年かけて各チームが対策を考える特殊な試合だ。ドイツ戦とは大きく異なる戦い方が望まれる。


まだ正式な発表はないが、カタールワールドカップは5人交代の採用が濃厚だ。23人の選手枠が26人に増える可能性もある。そうなった場合、たとえば前半は原口や酒井宏樹らの『強度型カウンターセット』で臨み、後半に田中や三笘、山根らの『川崎セット』へと入れ替え、ゲームプランを大胆に動かすことが可能だ。


逆に川崎セットでスタートし、得点してから強度セットに替えて逃げ切りを図ってもいい。まるで2チーム分を編成するかのように。


強化試合の戦い方に注目


これにより、代表チーム固有の問題も解決されるのではないか。


まずは連係。代表チームはトレーニングや試合の機会が少ないため、選手間の連係が乏しい。だから、クラブや過去の代表で共にプレーしてきた選手をセットで起用し、同時にベンチに下げる。発想としては、フットサルのファーストセット、セカンドセットに近い。


最終予選を通して、森保ジャパンは川崎組がファーストセットに君臨したが、そこにセカンドセットを加える。戦術的なプランを大胆に動かしやすく、コンディション的には出場時間を平均化しやすい。5人交代を生かせば、色々なメリットを出せると思う。


前回のワールドカップでは、VAR導入がセットプレーにトレンドを生み出し、特にイングランドが有効に活用したのが記憶に新しい。5人交代も、ワールドカップの戦い方、代表チームのあり方にトレンドを生み出すのではないか。たとえば「2チーム編成」「セット起用」といった具合に。


もしかすると、森保監督はそれを意識しているのかな、と思えなくもない采配をしているが、はてさて。これは希望的妄想。答えは6月の強化試合4試合と、9月の強化試合2試合で、ある程度見えるかもしれない。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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