アメリカ戦とエクアドル戦で、森保一監督はスタメン11人の総入れ替え、フル・ターンオーバーを敢行した。
その是非は正直、よくわからない。起用が広くなるメリットも、積み上げが甘くなるデメリットもある。監督の仕事は“決めること”だ。
日本の対戦国であるドイツとスペインはこの9月、スタメンは半数、あるいは半数強を入れ替えつつ2試合を行った。共にたくさんの選手を起用したが、日本ほどのフル・ターンオーバーまでは行っていない。
彼らの場合はUEFAネーションズリーグの規定でベンチ入りが23人であるため、招集人数が24名と少なく、総入れ替え自体が難しかった面はある。
ただ、スペインのルイス・エンリケ監督はユーロ2020同様、カタールワールドカップでも26人の登録枠をフルに使わず、24人のメンバーで臨む可能性を示唆しているので、規定の制約がある無しにかかわらず、フル・ターンオーバーは行わなかったかもしれない。
一方、韓国やウズベキスタンと親善試合を行ったコスタリカは、日本と同じくフル・ターンオーバーを行った。ただし招集人数は30名ではなく、ワールドカップと同じ26名としている。
各々の状況により、程度に多少の差はあるが、どの国もワールドカップではターンオーバーが鍵を握ると考えているのは間違いない。
特に今大会は中3日の連戦と、通常よりも試合間隔が1日短く、その中で5人交代が可能であるため、スタメン、交代を含めて多くの選手を起用することが、これまで以上に大きなポイントになる。
今回、森保監督が行った総入れ替えは驚きを与えたが、他国の傾向を見る限り、すごく奇異なことをやったわけでは無さそうだ。
難しかったエクアドル戦
システムを固定したことも評価できる。人を大きく変える中で、型まで変えてしまうと、選手の混乱が大きくなる。4-2-3-1(守備4-4-2)でスタートし、ずれを連係で補正しながら、最後の15分間は5バックへ。試合の大筋を固定したことで、選手は各々の連係に集中することができた。これも一つのマネージメントだ。
ただ、エクアドル戦のメンバーにとっては、災難が多かっただろう。
アメリカ戦を経て日本のやり方を晒した上で、エクアドル戦も「同じシステムで行く」と森保監督が宣言したため、エクアドルはキックオフ直後から3-1-4-2への可変を行い、日本の4-4-2の守備に対するズレを作ってきた。
一糸乱れぬ可変はその後も繰り返されており、間違いなく準備されたものだった。森保監督はそうした日本対策を歓迎し、わざわざ宣言したと思われる。
とはいえ、サブ組中心のメンバーが、その洗礼を受けるのは酷だった。主力中心のアメリカ戦メンバーが、2戦目として臨むのならともかく、サブ組は連係が育っていない。その上、そもそもが合わない選手ばかりだった。
三笘の守備面
三笘薫と長友佑都は得意なレーンが共に大外であり、場所がかぶる。長友は前半、ハーフレーンに立ち位置を取ったが、むしろ三笘のドリブルコースを阻んでいた。
1対1なら三笘に任せて後ろでサポートしておけばいいし、三笘にマークが集中しそうになったとき、インナーラップで出て行けばいい。三笘の生かし方は、中山雄太や伊藤洋輝のほうが上手だ。
もちろん、長友は守備時に三笘の背後をカバーし、素早く潰せるので、良い面もあるが、三笘の長所にブレーキをかけた感は否めなかった。
また、その三笘自身も低調だった。
自陣でボールを奪われる危ないプレーは、彼の場合、そこでひっくり返す能力もあるので、一旦言及は避ける。それ以上に気になるのは、プレッシングの連動だ。
エクアドルが3枚回しを行う中では、2トップの古橋と南野のプレスに、いかにMFが連動するかが焦点になる。
しかし、三笘は2トップが相手を追い込めていないタイミングで、フラフラと前へ出て自分のサイドへ展開されたり、逆に2トップが追い込んでいるのに、ボランチと横並びで待ってしまったりと、味方との連動が機能していなかった。
ジョーカー起用が濃厚か
彼はウイングだ。ウイングハーフであろうと、ウイングバックであろうと、基本的に「ウイング」だ。サイドハーフとは似て非なるポジション。
ウイングの場合は中盤の真ん中に3人のMFがいるため、自分は大外の相手を見ておけばいい。味方の動きはさほど気にしなくても、バランスを取ってもらえる。
しかし、サイドハーフではそうもいかない。ボランチや2トップと共に、意志を鎖のようにつないで立ち位置を動かさなければ、守備が機能しない。三笘はサイドハーフとしての戦術理解、実践力が薄く感じられる。
近頃はジョーカー起用で固まりつつある三笘だが、筆者もそれに賛成だ。ただ、その理由は相手が疲れた後半に持ち味が出やすいことだけでなく、守備から入る試合を考えたとき、三笘のプレス連動では心もとないことも、大きな理由だ。
主力組に入った久保
その意味では、アメリカ戦の久保建英のほうが信頼に足る守備をした。彼のプレスは周囲に連動している。また、攻撃の流れで鎌田大地が左サイドへ出たとき、そのまま久保が2トップの守備に入るなど、柔軟さを違和感なく出せるのも魅力だった。
主力組のアメリカ戦に久保、サブ組のエクアドル戦に三笘だったことは、ジョーカー云々を除いても納得できる。
この辺りは三笘自身の課題だ。あるいはより一層ウイングとして突き抜け、彼に合わせたシステム、サイドハーフのいないシステムを監督に選ばせるか。後者はとてもワクワクする未来だが、とりあえず今回のワールドカップはジョーカーだろう。
そうした個人の課題で済むことは、いい。災難というわけではないし、未来も感じさせる。だが今回、一番の災難だったのは古橋亨梧ではないか。
柴崎岳から、山根視来から、田中碧から、谷口彰悟から、いろいろな選手からスルーパスやロングボールが出て来たが、その多くは浅野拓磨仕様だった。
どうやら浅野も古橋も前田大然も、まるっとスピードスターでくくられているが、浅野や前田が、ラフなボールに対して身体能力を生かすのが得意であるのに対し、古橋は判断の早さや動き出しで裏を取り、流れる隼のようにフィニッシュに行くタイプだ。
重戦車のスピードと、鳥のスピードは似て非なるもの。しかし、味方から繰り出される大雑把なロングボールを見る限り、アサノとフルハシとマエダの区別はつけられていない。
噛み合わなかった古橋と南野
浅野の場合は、大雑把なロングボールにもぐちゃっと身体を当て、跳ね返されそうなボールをこぼれ球にしたり、相手DFのヘディングの距離を短くさせたりできるが、古橋の場合は裏を取り切ろうと走っているので、駆け引きのない単純なロングボールは屈強なDFに跳ね返されるだけ。
南野拓実との組み合わせも、お互いの特徴を殺し合った。古橋が単騎で背後へ走り、三笘と堂安律がサイドで幅を取った結果、南野は広いスペースで縦パスを受けることが多くなり、エクアドルの身体能力の餌食になった。
鎌田ならそこでボールを収め、時間を作ることができる。古橋は相手DFの意識が鎌田へ向いたタイミングで、飛び出すすきを伺うことも有効だろう。しかし、古橋と南野の組み合わせではそうもいかない。お互いがお互いを、苦手な状況へと追い込んだ。
後半は一転、上田綺世が入って前線にターゲットができたことで、南野は前向きにボールを受けてスピードを上げられるようになり、プレスバックで潰される回数が減った。
また、堂安や三笘が中へ寄る回数を増やしたことも、距離感を近くし、プレーを容易にしたはず。後半の南野は良かった。周囲が合わせてくれたからだ。
だが、そうなるとますます、古橋が不憫でならない。南野だけでなく古橋もまた、上田や堂安のサポートを近くで受けながらプレーしたかったはず。
古橋と南野は共に、上田や鎌田、大迫勇也などの起点になれる選手、相手の眼を引きつけてくれる選手との相性が良い。今回は同極の2人を組み合わせた結果、反発してしまった。
浮かび上がったスタメンの序列
相性の悪い並びで、さらに手の内を晒した上で、強いエクアドルにサブ組が挑む。なかなかに酷な試合だった。ただ、いくつかの不遇や不公平はあったとしても、この、守備に重きを置いた4-2-3-1におけるスタメンの序列は、はっきりした。
いや、はっきりしすぎたかもしれない。ターンオーバーが大事と言っても、入れ替えた結果、チームのパフォーマンスが大幅に下がるのなら、疲れた選手を並べたほうがマシ。それでは意味がない。
ドイツ戦とスペイン戦は守備に重きを置くとしても、2戦目のコスタリカ戦をどう考えるか。相手を想定しつつ、入れ替える選手に合った戦略、配置を用意できれば、ターンオーバーは単なるコンディション管理ではなく、戦い方の幅をも提供することになる。
そこまで行けるか、あるいは時間切れか。(文・清水英斗)
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