戦術の幅を狭めた、大迫勇也の不選出。走って守って我慢して、カウンター型への単純化で戦い抜くのか?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第174回

戦術の幅を狭めた、大迫勇也の不選出。走って守って我慢して、カウンター型への単純化で戦い抜くのか?

By 清水 英斗 ・ 2022.11.4

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さあ、答え合わせの時間だ。


前回コラムの『森保殿の26人』は、2人外した。殿の選択は、原口元気→相馬勇紀、大迫勇也→山根視来だった。


相馬も山根も、加える選択肢はもちろんあったが、入れるとしたら誰を外すかが問題。その代わりに原口と大迫を外すことは、浮かびはしたが、避けたい選択肢だった。避けてほしかった。


原口に関しては、最後に柴崎岳との2択になったので、嫌な予感があった。ボランチでは柴崎が特別な信頼を受け、サイドでも本職の相馬、さらに前田大然も守備固めに回せると考えれば、押し出される可能性が上がる。


とはいえ、ワールドカップを戦い抜くのに必要な一体感を生み出す選手として、原口は欠かせないだろうと思っていたので、驚いたというよりは、「いいのか?それで?」というのが率直な感想だ。


大迫選外の影響


大迫は前回コラムでは言及しなかったが、最近の視察動向とコメントを見て、森保監督ならやりかねないかも……と頭によぎってはいた。元々、筆者のプランでも大迫はコスタリカ戦のみ先発のイメージ。ドイツ戦とスペイン戦には入れておらず、プライオリティーはやや低い。


それでも大迫がいないと、前線のバリエーションが減ってしまう。戦略の幅出しとコンディショニングを兼ねたターンオーバーは難しい。


走れるタイプで守ってカウンター、中央の起点は鎌田大地、得点の期待も鎌田大地、攻撃はサイドから個の仕掛け。それで3戦、4戦…。すごく単純なチームになる。やはり筆者的には避けたかった。発表を聞いた瞬間、「やりやがった…」という言葉が口から漏れた。


対戦相手から見ても、大迫がいると、日本のチーム構成を限定しづらかったのではないか。6月と9月はコンディション不良で招集外だっただけに、その大迫が復帰すれば、彼が先発して違うチームに変わる可能性もある。


ドイツ戦はアメリカ戦のメンバーがベースか


だが、大迫がメンバーにいなければ十中八九、いや十発十中、ドイツ戦は9月のアメリカ戦がベースだ。1トップは浅野拓磨か前田大然、走り屋で決定。


もちろん、大迫がいてもそのプランは変わらないだろう。だが、全く違うタイプの大迫がメンバーにいれば、「もしかしたら」と相手の分析を散らし、濁らせる効果はある。


思い出すのは、2017年のFIFAワールドカップ最終予選、出場権を勝ち取ったホームのオーストラリア戦だ。ハリルホジッチ監督は、中盤の3枚にそれまで見せていなかった構成で、井手口陽介、山口蛍、長谷部誠を並べ、オーストラリアのポゼッションを潰してショートカウンターに行く戦略を立てた。それが見事にはまり、日本は2-0で勝利を収めている。


対戦相手の特徴を考えれば、このやり方が有効であることは誰でも思いつくだろう。だが、井手口、山口、長谷部をスタメンに並べるところまで、針を振り切れるだろうか。


「もしかしたら」、オーストラリアはアウェーなのでロングボールを蹴っ飛ばす方向へ変えてくるかもしれない。「もしかしたら」、逆に日本がボールを持たされるかもしれない。


そうなれば、井手口、山口、長谷部の構成では何も出来ない恐れがある。逆にボールロストからカウンターで失点する可能性も。実際ぶっつけ本番の構成だったこともあり、自陣での守備は全く盤石ではなく、結構リスクがあったと思う。


単純化したチーム構成


しかし、ハリルホジッチは100%に委ねた。オーストラリア監督・ポステコグルーの性格、傾向を読み切り、自らの分析を濁らせず、「もしかしたら」を排除してスタメンを決めた。当時も書いたが、あの試合の最も大きなポイントは、針を振り切るか、振り切らないか、そこだったと思う。


相手に「もしかしたら」と思わされたら、分析が濁り、100%でアクセルを踏めなくなる。大迫も同じで、彼がいれば、対戦相手は大迫がいるチーム型への対策「も」頭に入ってくる。


しかし、26人から大迫を外したことで、その可能性は完全に消え、チーム構成は単純になった。戦術の幅が狭いので、相手がやり方を読み切ってキックオフ直後から完璧な準備をかみ合わせてくる恐れがある。まるで、2017年のハリルホジッチのチームが襲いかかってくるかのように。


同じスタメンだとしても、彼がベンチにいるといないでは大違い。


ベテランが醸す期待感もない


もう一つ言えば、途中出場だ。名の知られた大迫がピッチに入れば、スタジアムの雰囲気が変わる。それが試合を決定付けたのが、ブラジルワールドカップのコートジボワール戦だった。さすがにドログバまではいかなくても、途中出場には期待感が欲しい。三笘薫の効果が薄れた頃に、もう一発。


おお、ここで大迫か、前回のコロンビア戦でゴールを決めた奴だ。何だ、急にスタジアム中の日本人が活気づいたぞ! 何だこのゲーフラは! ……やっぱり今でも大迫は入れたほうがいいと思っている。


それでも、森保監督は外した。


4-3-3を用いて戦略の幅を出すことも、可能性として低くなった。大迫以外にあのシステムの守備を機能させられたFWはいないし、インサイドハーフ候補も守田英正、田中碧、柴崎しかいない。


あとは1.5列目系の鎌田や久保建英らを移すかどうかだが、原口と旗手怜央を共に外した以上、インサイドハーフ向きの選手を揃える意思は無さそう。4-2-3-1(守備4-4-2)で、そのまま3戦、4戦を通しそうな雰囲気だ。


サプライズはあるか


9月のアメリカ戦とエクアドル戦の2連戦が典型だが、同じ形、同じ戦術のままなら、選手を入れ替えれば入れ替えるほどチームが劣化する。ターンオーバーはリスクばかり。


ロシアワールドカップを繰り返す流れは避けてほしいが、今のところは似た印象だ。違いと言えば、5バックの守備固めが選択肢に入っていることくらい。ベルギー戦の2-0以降の部分だけが、この4年間のチームの成長だとは思いたくないが。


とはいえ、個人の成長、ステップアップは過去最強だ。その点について、森保監督の若手に対するマネージメントが寄与した功績は大きいと思っている。ただ正直、この26人にはがっかりした。


今のところ、サプライズはない。本当のサプライズがあるとすれば、大会が始まってからだろう。走って守って我慢してカウンター型への単純化、という、この26人への見方を覆す何かを見せられたら、それが本当のサプライズだ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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