クロアチア戦は、戦術ではなく戦略が求められる試合。『戦術・三笘』を発動するタイミングはいつ?

COLUMN清水英斗の世界基準のジャパン目線 第181回

クロアチア戦は、戦術ではなく戦略が求められる試合。『戦術・三笘』を発動するタイミングはいつ?

By 清水 英斗 ・ 2022.12.4

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ポーランドとフランスで活躍した往年のロシア人チェスプレイヤー、サヴィエリ・タルタコワは、戦略と戦術の違いを次のように表現している。


『戦術とは、することがあるときに、何をすべきかを知ること』

『戦略とは、することがないときに、何をすべきかを知ること』


スペイン戦とドイツ戦は、日本の「すること」を相手が決めてくれる試合だった。彼らのクオリティーを踏まえれば、日本が取り得る選択肢は最初から限られる。その中で何をすべきか。


日本は「すること」が明確にある試合で、何をすべきかを知っていた。スペインやドイツの特徴、パターンを読み切り、ピッチ内の修正も、采配による修正も柔軟に行った。特にスペイン戦は良かった。


だが、次のクロアチア戦は違う。


彼らのグループステージのポゼッション率を見ると、モロッコ戦は62%とボールを握った様子。しかし、続くカナダ戦は47%、ベルギー戦は48%と、クロアチアはボールを握ったわけでも、握られたわけでもなかった。


変幻自在の中盤


実際にクロアチアの試合を見ると、ポゼッションは行うのだが、プレスをかけられればロングボールを蹴るし、それにストレスを感じる様子はない。


また、敵陣にスペースがあれば、縦に速い攻撃でアクセントを付けることも多く、ペリシッチやクラマリッチといった強烈な両翼FWが相手に脅威を与える。


中盤のモドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチの3人は、技術とハードワークを兼ね備えた隙のないクオリティーを誇るが、その立ち位置も変幻自在だ。


基本は逆三角形だが、そこから前線へ飛び出したり、逆に下がったり、あるいは真ん中でパスが詰まったりしそうなら、コバチッチやモドリッチが味方サイドバックの外側まで回って行くこともある。真ん中とサイドとか、その区分けがありそうでない。


また、センターバックの20歳、類まれな能力を持つグバルディオルは、機を見て相手バイタルエリアまで侵入することもある。この攻撃参加も厄介だ。


クロアチアは11人のうち、半数くらいが神出鬼没。この意外性は、スペインやドイツには無かったものだ。彼らは一定の基準をはみ出さないが、クロアチアはその基準がボヤ~と良い具合にぼけている。


システムが重要ではない


クロアチアは前回大会を含めて4-3-3の一貫したシステムを採用してきたが、そのこと自体はあまり意味がない。誰がそこに入るのかが、より重要なチームだ。


選手の個性と、その自主的な判断によって、システムは攻撃的な4-3-3にも、守備的な4-5-1にもなり得る。


一言で言えば、掴みどころがないのだ。このクロアチアというチームは。型があって分析しやすかった、ドイツやスペインとは根本的にチームの作り方が違う。


田中碧は彼独特の感性により、「ちょっと日本に似ている」とクロアチアを評した。筆者も同感だ。どちらも、チームとしての枠組みよりも、選手間の連係をベースとしたチームであり、試合中の対応力に長けている。


厄介な対戦になると思う。


クロアチアは型がはっきりしないので、今回は「すること」が明確に決まらない。だからこそ、自分たちで主体的に戦略を決める必要がある。これは相手の出方が読みづらかった、コスタリカ戦に状況が似ている。


『戦略とは、することがないときに、何をすべきかを知ること』


クロアチア戦は、戦術ではなく戦略が試されるだろう。今はゴールを積極的にねらうべきか、それとも失点のリスクを抑えるべきか。真ん中を攻めるべきか、サイドを攻めるべきか。相手の変幻自在の動きに、ついていくべきか、今は下がってスペースを埋めるべきか。逐一、意志を統一して戦う必要がある。サッカーらしい、複雑な試合になりそうだ。


日本の戦い方は?


このクロアチア戦に際し、森保ジャパンはどんな基本戦略を立てるのか。


試合前はあまり明確にせず、真っ向から4バックで勝負して、戦略のハンドリングと対応力で戦うことは一つの方針だろう。だが、筆者は少し怖いと思っている。グーとグーの殴り合いになると、クロアチアのほうが強い気がする。


逆にあえて5-4-1で守備を固めるなど、振り切った型で入り、要所の1対1を制してクロアチアの硬直化を目論むのも一つの考え方だ。そして今まで通り、前半は我慢して、後半の『戦術・三笘』でアグレッシブに行く……か?


ただし、今回は決勝ラウンド。延長戦があるので、相手も粘り強く戦うだろう。クロアチアの特徴を考えても、簡単にバランスを崩すとは思えない。


『戦術・三笘』を発動するタイミングが早すぎれば、逆に日本が硬直化させられ、カウンターを食らう恐れもある。それってまさにコスタリカ戦。


いやいや、相手が持たせてくれるなら、日本はボールを持ってコントロールしたほうがいいよ。いやいやいや、クロアチアを先に動かして、カウンターをねらったほうがいいよ。いや、それも状況や時間帯によって変えたほうがいい? 答えは無数にある。


「すること」を明確にしづらいクロアチア戦。森保ジャパンの答えはいかに。


戦略スイッチ、君のはどこにあるんだろう。


見つけて、あげられないよ。君だけの戦略スイッチ。(文・清水英斗)


写真提供:getty images

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清水 英斗

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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