さすがはJリーグを3度制した百戦錬磨の指揮官だ――。U-21日本代表の森保一監督によるトレーニングを観ていると、何度かそう思える場面に出くわしている。AFC U-23選手権、北朝鮮とのグループステージ第3戦を前にした15日の練習もそうだった。
パレスチナとの第1戦、タイとの第2戦を共に1-0のスコアで制していた日本は、この時点でグループステージ突破が確定。第3戦はターンオーバーで、ここまで出番のなかった選手たちが一気に先発出場する機会を得る流れになっていた。試合前日の練習で行われた紅白戦は、控え組に第2戦で先発した選手たちが入る形で実施された。布陣は森保ジャパン本来の形である3-4-2-1のシステムではなく、仮想北朝鮮の4-4-2である。
この紅白戦の立ち上がり、控え組のプレーぶりは芳しいものではなかった。負傷したDF板倉滉に代わり、左サイドバックにスタッフが入っていた影響もあっただろうが、ゆるい守備からあっさりした失点を喫し、GKがシュートを弾いたボールに対してほとんどの選手が棒立ちになっているなど“ゆるさ”があったのは否めない。これでは試合を想定したトレーニングとしても問題だし、次戦での出場機会がない(と思われる)ことで主力が緩んでいるのだとしたら、それもまた問題だ。そんなことを思っていると、指揮官から鋭い声が飛んだ。
「(北朝鮮対策としてだけでなく)これから4バックをやることもあるかもしれないよ。明日の準備は全員でやるんだぞ!」
ここで「お前ら、緩んでるんじゃねーぞ!」と単に叱責の声を飛ばすだけなら、ほとんどの指導者がやるだろう。それが有効なときもある。ただ、森保監督がやったのはそういうことではなく、4-4-2の布陣をこなすことに対して前向きになる目的意識を与えつつ、明日の試合に向けてあらためて「全員でやるんだ」という意識も喚起することだった。
適切なマネジメントで引き締める
また、主力選手たちに甘い顔をしないことは、ここまで出番のなかった選手たちに対してもポジティブな影響を与えるもの。その一声から空気がピリッとしたのは明らかで、紅白戦の密度・強度が向上したのも確かだった。指揮官のコーチング能力の確かさを実感できるワンシーンだ。
この場だけでなく、今後にも効いてくる。たとえば準々決勝の前日練習で「仮想ウズベキスタン」の4-3-3システムを控え組が演じることになった場合。主力組もすでに注意を受けているのだから、控え組が「やらされている感」を出すわけにはいかなくなる。たとえ怒られたとしても納得感はあるだろう。
各大会を取材していて、突破の決まった後に迎えるグループステージ3戦目のマネジメントは意外に難しいものだと感じることが多いのだが、森保監督はキッチリと次戦以降にも繋げられる引き締め方をしてみせた。北朝鮮に3対1で勝ち、試合結果も付いてきたので、チームにとってポジティブな流れになったのは間違いない。
準々決勝はM-150杯のリベンジマッチ
19日の準々決勝で対戦するウズベキスタンは「アジアの中のヨーロッパ」と言うべきチーム。総じて大雑把なサッカーをするチームが多いアジアにあって、戦術的・組織的なレベルの高い好チームだ。この代表にとっては昨年12月にタイで行われたM-150杯の決勝で対戦し、無念のPK負けを喫した相手でもある。
MF神谷優太(愛媛)は「一度負けた相手には負けられない」と力を込める。今大会は必ずしも好調ではないように見えるが、グループステージで苦戦していたチームがノックアウトステージからエンジンを掛けてくるのも、こうした方式の大会ではよくある話。ここから先は別次元の話になると思っておいたほうがいいだろう。
準々決勝を勝てば、悪くとも3位決定戦までは戦えるため「6試合をやりたい」と言っていた指揮官の狙いも達成できる。「とにかく次が大事になる」(DF庄司朋乃也)のは当然だ。トレーニング時間が乏しいのが代表チームの宿命だが、その時間を確保していくためにも次戦の重要度は高い。もちろんチームとしての「成功体験を積み上げていく」(森保監督)ためにも、東京五輪代表は練達の指揮官の下で、まず目の前の一勝を掴みに行く。(文・川端暁彦)
写真提供:川端暁彦