スケジュール改正で難易度が跳ね上がった、年代別代表のアジア予選。日本の今後はどうなる?

COLUMN川端暁彦のプレスバック第58回

スケジュール改正で難易度が跳ね上がった、年代別代表のアジア予選。日本の今後はどうなる?

By 川端 暁彦 ・ 2022.10.17

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9月に東南アジアのラオス、10月には中東のヨルダンへと足を運んだ。楽しい慰安旅行……というわけでは、もちろんない。U-19日本代表とU-16日本代表。二つの年代が世界への戦いを始めたのを見届けに行ったのだ。


U-19代表の内田篤人ロールモデルコーチには「ラオスまで来るなんて暇なんですか? おかしいですよね?」と言われてしまったが、言われてみれば確かにちょっとおかしい。ラオスに行くのは3度目だが、過去2度も1次予選だった。しかも年代が全部違ったりする。


ここで言う「1次予選」が何なのかについて、まず説明が必要だろう。男子サッカーの場合、アジアの年代別大会には四十数チームがエントリーしてくるが、これをグループに振り分けて、いわゆる「最終予選」への出場資格を争う大会となる。


A代表と違ってホーム&アウェイ方式を戦う余裕はなく、セントラル開催が基本。ここにラオスはよく立候補しているというわけだ。興行的な旨味は薄いので、手を挙げる国はそう多くなく、開催地争いも非常にゆるい。


年代別の大会も“アジアカップ”に


AFC(アジアサッカー連盟)は最近になって、男子も女子もフットサルもビーチサッカーも各年代別の大会もすべてアジア王者を決める大会の呼称を「アジアカップ」で統一した。同時並行的に各大会のカレンダーも見直しが行われており、ユース年代のスケジュールも様変わりすることとなっている。


かつてAFC U-16選手権、同U-19選手権と呼ばれ、それぞれU-17W杯とU-20W杯の予選を兼ねていた大会は、それぞれU17アジアカップ、U20アジアカップと改名された。年齢制限が一歳ズレた……というわけではなく、開催年が後ろ倒しされて、世界大会と同年開催となったのだ。


U-20W杯への道は従来、主力が高3の年の秋に1次予選を戦い、翌年、主力が高卒1年目を迎える年に最終予選。その翌年に、主力が高卒2年目の年の夏前に世界大会という流れだった。


それが今大会から、最終予選を戦っていたタイミングで1次予選をこなし、翌年春に最終予選、その2カ月後に世界大会という流れになった。平たく言えば、詰め詰めになったわけである。


移動の負担が増える可能性も


合わせて大きな変更点として、これまでアジアの年代別大会は東西でグループを完全に分けて開催して遠征の負担を軽減していたが、このルールが撤廃されて完全抽選制になったことも挙げられる。いきなりサウジアラビアと対戦する。そんなこともあり得る形になったわけだ。


開催地も当然ながら中央アジアや南アジア、そして中東に行く可能性がある。今回はオーストラリアがイラク開催のグループに入り、いったんは参加辞退を表明するという悶着まで起こったが(結局、イラクの隣国クウェートでの開催になった)、これも東西を分けていた時代では考えられなかったことだ。明日は我が身、でもある。


組み合わせも今回いわゆる“死の組”は誕生しなかったものの、可能性は十分あった。1次予選は「北朝鮮さえ引かなければ楽勝」という組み合わせも多かったが、東南アジア勢の勃興という要素もあって、今後はそう楽にいかないだろうという感触がある。


今回のU-16予選ではUAEがマレーシアとインドネシアに競り負ける形で敗退しているが、これも明日は我が身、である。


予選から世界大会へ、準備期間の短縮


日本の場合、コロナ禍によって今年の春になるまで国際試合がまったくできなかったという問題もあったが、そうでなかったとしても別種の難しさがある。従来のスケジュール観の中で、強化のセオリーが確立されていたからだ。


たとえば、現実的に「予選から世界大会への準備期間がほぼなくなった」(冨樫剛一・U-19日本代表監督)ことの影響は大きい。言うまでもなく、アジアと世界ではレベルのギャップがあるし、「対日本」での戦い方にも差がある。地続きの大会ではなく、別種の大会と言ってしまってもいいくらいなのだが、これを続けて戦うとなると簡単ではない。


アジア予選で勝つことを重視すれば世界大会で苦しくなり、世界を見すぎればアジアで足をすくわれる。そんなジレンマが容易に想像できる状態になったわけだ。


また、この年代には特有の難しさもつきまとう。冨樫監督が「(従来1次予選を戦っていた年であれば)ほぼ高校生なので、招集の問題はほとんど起こらなかった」と言うように、高校生が主力の年代から高卒1年目が主力の年代になったことで、1次予選の難易度は跳ね上がった。


秋というタイミングはJリーグにとって難しい。J1からJ3まで佳境にあり、優勝や昇格、あるいは降格の懸かった状況で、試合に出ている選手を手放したがる監督はいない。一応、Jリーグ規約にはユース年代の代表であっても、選手には招集に応じる義務がある旨の記載はあるのだが、何か具体的な罰則があるわけではない。


「どうしても『一次予選なんて楽勝でしょ』という今までの感覚で言ってくるチームが多かった」と指揮官がこぼしたように、呼びたい選手が呼べず、呼んだ選手も負傷で合流せず(あるいは合流後に離脱し)、編成には苦労を重ねた。結局、予備登録ギリギリの選手まで使い切ったというから、戦う前から“ギリギリ”の部分があった。


欧州組の招集は楽観的


その1次予選は苦戦しつつも白星を重ねたが、中東勢のイエメンとの最終戦では大苦戦。マンツーマンの守備と中東勢らしいシンプルながら鋭いロングボールとカウンターをベースとする戦術に戸惑い、前半はシュート0本。後半なんとか1点をもぎ取って勝利も、「アジアは甘くない」ことを痛感させられる内容だった。


来年の最終予選(U-20アジアカップ)は、3月1日に開幕する。Jリーグ開幕直後で選手の“借り受け”も多少は楽になる可能性もありそうだが、今度は準備の機会がない。


「年明けからJリーグのチームはキャンプに入るので、そこで招集するのは現実的に難しい。それぞれのチームでレギュラーを獲ってほしいというのもある」と冨樫監督。どうやら“ぶっつけ本番”に近いことになりそうである。


年明けにバイエルンへ移籍する鳥栖のMF福井太智や、一足早く欧州に渡っているシュツットガルトのDFチェイス・アンリ、バルセロナのDF髙橋センダゴルタ仁胡といった欧州組の選手たちが増えてきているのも懸念材料だが、冨樫監督はこちらについては楽観的だ。


「髙橋からは『もう呼ばないのか? 呼んでほしい』という声が届いている。前回の代表が相当楽しかったみたいで『絶対行きたい』と言ってくれている」と指揮官は笑いつつ、「欧州の各クラブもアジアの最終予選という場に対してリスペクトを持ってくれている」と、下交渉で一定の理解を得られたことを明かしている。


また、冨樫監督が期待するのは、トレーニングパートナーとして帯同することだ。「東京五輪で同様に参加した藤田譲瑠チマや山本理仁とも話したが、本当に意識が変わった、と。同じように、ここで変わる選手が出て来てほしい」と期待を込める。


ラオスであらためてU-19日本代表チームを観た率直な感想は、「このままでは厳しい」ということ。ただ、「このまま」でいる気の選手は一人もいないだろう。


「危機感しかない」と語る指揮官の下、11月には欧州遠征で強豪国とのスパーリングも予定している。来年は集まる機会がほぼないであろうことを思うと、ここが強化のラストチャンス。W杯のトレーニングパートナーとして過ごす日々と合わせ、ブレイクスルーの切っ掛けを掴む選手が出てくることを期待している。(文・川端暁彦)


写真提供:川端暁彦

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川端 暁彦

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行

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