初戦のドイツ戦まであと4日。すべてが非公開の練習は、決して“異例”ではない

COLUMN川端暁彦のプレスバック第62回

初戦のドイツ戦まであと4日。すべてが非公開の練習は、決して“異例”ではない

By 川端 暁彦 ・ 2022.11.19

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「なんくるないさー」


おそらく最も有名な沖縄方言は、一般に「なんとかなるさー」と訳される。自然と「なるようになる」という「ケ・セラ・セラ(Que Sera, Sera)」のニュアンスである(完全な余談だが、沖縄で高校サッカーを取材したときに、某監督からこの言葉が出て来たときは静かな感動があった)。


ただ、「なんくるないさー」も元々の出典においては「(やることやってれば)なんとかなるさー」の使い方だったそうで、この場合のニュアンスはケ・セラ・セラ的なものではなく、「人事を尽くして天命を待つ」に近いものとなる。


人間がやれることには限りがあるのだから、やれることやって、後は神様次第といった具合だ。


サッカーの監督が至る境地も、似たようなところがある。経験の浅い監督ほど「こうすれば勝てる」という話をよくするし、敗戦や失敗を「理不尽」なものと捉えて憤りがちで、経験を積んでいくごとにある種の諦観も育っていく。


相次ぐ傷病者


サッカーというスポーツの競技特性として、運不運が絡むのは避けられないし、体をぶつけ合うスポーツゆえのアクシデントも頻発する。


「想定外が来るのも想定している」と言っていたのは東京五輪を前にした森保一監督だが、長年の経験からそうした境地に達するということだろう。


「発表したメンバーがそのまま来ることのほうが珍しい」と自嘲していたこともあるが、そういう意味で11月1日に26名を読み上げたあの時点から、そのとおりの顔触れが揃わないというのは、それこそ「想定内」ではあったのだろう。


中山雄太が離脱したのを皮切りに、日本代表には傷病者が相次いだ。


冨安健洋は何とか間に合いそうだが、遠藤航が脳震盪からの復帰途上。三笘薫が病気で出遅れての合流で調整中。守田英正も負傷から戻ってようやくピッチでボールを触れるようになった段階と、いずれも初戦の出場に関しては危ぶまれている状況だ。


トレーニングパートナーとして帯同する予定のU-19日本代表にも、新型コロナウイルスの陽性者が出てしまったため、練習プランも修正を余儀なくされるかもしれない。


呪われているのではないかと疑いたくなるが、森保監督の態度は「そういうもんですよ」といった感じである。


むしろ板倉滉、浅野拓磨、田中碧といった負傷からの復帰組がカナダ戦に間に合い、調整が進んでいることをポジティブに捉えている様子である。


森保監督はリアリスト


東京五輪のときは三笘と上田綺世がAFCチャンピオンズリーグで負傷した状態で合流し、冨安は大会前日に負傷離脱と最悪のスタートだったことを思えば、むしろマシくらいに思っているのかもしれない。


「まあ、日本だけじゃないですからね」


そう語った言葉も単なる慰めには聞こえなかった。すべてのアクシデントに対して万全の備えをするのも不可能なことなので、起きてから対応していくしかない。そういう割り切りの下で準備を進めているように見える。


当初のプランから若干の変更を強いられていることは認めつつも、最初の26名が都合良く揃うとは元より思っていなかったあたりは、夢見る理想家ではない、リアリストの森保監督らしい。


そもそも日本のFIFAワールドカップ史上、最もタフなグループに入った抽選の時点で、コントロールできる範囲ではない。すでに腹は括っているということだろう。


ドイツ戦までは非公開練習


ドイツ戦までの4日間は、すべて非公開練習となった。「異例」と報じる向きも多いが、現代の代表チームにおいては、そもそもマトモにトレーニングを積める期間が4日連続であるケースが非常にレアなので、言うほど「異例」でもないのが実状である。


選手たちが合流してきた直後の練習はどうしても「調整」が中心になるし、そうでないスパンでトレーニングを積む機会は、代表チームにほぼ存在しない。


親善試合をこなすシリーズでも、大抵は中5日も空かないのである。限定的にそうした時間が生まれたタイミングも過去に数度あるが、大きな大会を控えてということではないから、非公開にする理由もなかった。


今回の代表活動では、そもそも人数が揃っていないので、11対11のような練習を組む機会は絶無。なので、言うほど「異例」でも「特別」でもなく、自然な選択だろう。


直前になって急に非公開になったように報じられているが、これも広報に直前になって言った(ことで、報道陣にも直前に伝わった)というだけの話で、最初からそのつもりだったように思う。


人事を尽くして天命を待つ


当たり前だが、ドイツは強い。「過去の大会において、ドイツが初戦で韓国に敗れたこともあるじゃないか」とも言われるが、逆に言うとそうした反省をフィードバックしてしっかり対策してくるのがドイツである。


常に代表チームに自国人監督とスタッフを揃え、専ら長期政権ばかりという、サッカー界では特異な強化策を前世紀から継続している国に、変な隙を期待するのは無意味だろう。


準備のために残すは4日。急に怪我人が治ることもないし、新たな怪我人や病人が出ないとも限らない。そして、それは日本に限った話でもあない。


ここはコントロール不能の領域だ。「(やることやったので)なんくるないさー」と笑って試合当日を迎えるために、残った時間で人事を尽くし、天命を待つのみである。(文・川端暁彦)


写真提供:getty images

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川端 暁彦

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行

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