グループの順番が遅い方が、日程的に不利である——。
これはFIFAワールドカップにおける定説だった。つまり、早く開幕するA・B組が決勝戦までのカレンダーを見据えたときに最も有利で、G・H組が最も不利であるというわけだ。
ただ、今大会はどうだろう。欧州主要リーグの終幕から間もなく開幕となったため、むしろ早めのグループに入ったチームは、忙しないスタートとなっている。準備の時間も回復の時間も取れない形だ。
たとえば、日本の初戦が20日だったらどうだったか。現時点でも出場が危ぶまれている守田英正はもちろん、冨安健洋も遠藤航も、そして恐らく三笘薫も出場不能だったに違いない。
この辺りは巡り合わせの妙でもあり、どうも「持ってない」ように思える日本が「持っている」部分である。
大会の基準を知ることができた
大会の様相を観察して備えることができるのも、遅く開幕するグループの特権だろう。
厳密に取られるために、10分超えも当たり前になったアディショナルタイム。新たに導入された半自動オフサイドテクノロジー。VARの介入やイエローカードの基準などを見ることができたことには意味がある。
とりわけ、厳格なアディショナルタイムの採用は、シリアスな問題になる可能性もある。ルール上は同じ90分ゲームであっても、試合の実時間は大幅に増えている格好で、90分ゲームではなく「105分ゲーム」までの想定が必要な大会となっている。
ボールを持たれる立場のチームにとって、これはかなりしんどいルールなので、試合運びについて考える必要もありそうだ。
森保一監督と選手たちが口を揃えているのは、ドイツにボールを支配されるにしても、その割合は削っておきたいということ。
「相手陣内でプレーする時間を増やしたい」と言ったのは田中碧だが、ドイツのプレッシングを、ロングボールで回避する一手だと息切れは必至。どこかで日本がボールを持って、相手を押し込む時間は作る必要がある。
これは東京五輪・準決勝のスペイン戦を振り返っての反省点でもある。
日本の前線には個人での打開力やスピードに秀でた選手が揃っているため、ボールを奪ったときに選手の感覚では「行ける」となることが多い。
つまり、奪ってから縦に加速しがちになるのだ。
もちろん、それで相手を仕留められるなら最高なので、さじ加減は難しいのだが、奪ってから縦へ鋭くの一辺倒では、ボールを再度失う可能性も高く、自然と消耗も大きくなっていく。
「105分ゲーム」を見据えると、これはリスキーだ。強敵相手にそうしたバランスを取れるかどうかは、一つのポイントとなる。
吉田主将の言葉
ビッグトーナメントでは、フィジカル面はもちろん、心理面での準備も欠かせないが、その点に関して過剰な心配はしていない。
ベテラン勢に加えて、久保建英を筆頭に、若くとも経験豊富な選手が揃っている。チームのムードを持って行くところで失敗するとは考えにくい。
それでも心配な人向けに、吉田麻也主将の公式記者会見での宣言を引用しておこう。
「いよいよ始まるなという気持ちです。ここまで良い準備ができていますし、全員揃ってトレーニングができている。あとは明日に向けて、最後の1秒まで良い準備をし、初戦のドイツ戦に全てをぶつけられるように、チーム一丸、そして日本一丸となって頑張りたいと思います」
吉田は静かに語った。その上で、日本サッカー界と縁も深いドイツとの対戦について、こう続ける。
「FIFAワールドカップの舞台で、優勝したことのあるドイツという強豪に対し、自分たちがどれだけやれるのか。興奮と不安の両面があって、すごく個人的には良い状態にある。『どこまでできるのかやってみたいな』と思いますし、もっと言うと、この対戦を機に日本が成長した姿を皆さんにも見せたい。世界に大きなサプライズを起こせたらと思っています」
また流暢な英語で、こうも付け加えた。
「ドイツがどれほどのクオリティを持っているかは知っていますし、何度も言ってきたようにタフな試合になるでしょう。ただ、負けるための試合はしない。サッカーの試合というのは勝たなければいけないもの、勝つべきものであって、負けていい、負けるべき試合なんてないんです。僕たちにもチャンスがあると信じています」
4年間が問われるわけではない
当たり前だが、ドイツは強い。輝かしい歴史を持ち、今大会も優勝候補の一角を担うチームに違いない。ただ、日本も別に弱くはないし、勝機がないとも思わない。
4年に1度のFIFAワールドカップでは「4年間の積み上げ」といった表現がよく使われるが、たった4年間が問われるわけではない。
偉大なドイツ人指導者、デッドマール・クラマーによって日本代表の革新が始まり、全国リーグという試みが生まれ、日本サッカーは夜明け前の蓄積を得ることとなった。
それから半世紀余りを経て迎える、2022年のFIFAワールドカップ。最年長の川島永嗣が生まれたのは39年前で、最年少の久保建英が生まれたのだって21年も前の話だ。
やはり問われるのは「4年間の積み上げ」などではない。この舞台で真に問われるのは、もっと長い年月をかけ、世代を超えて積み重ねてきたモノの力である。(文・川端暁彦)
写真提供:川端暁彦