ついに迎えるドイツとの初戦。問われるのは、世代を超えて積み重ねてきたモノの力

COLUMN川端暁彦のプレスバック第63回

ついに迎えるドイツとの初戦。問われるのは、世代を超えて積み重ねてきたモノの力

By 川端 暁彦 ・ 2022.11.23

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グループの順番が遅い方が、日程的に不利である——。


これはFIFAワールドカップにおける定説だった。つまり、早く開幕するA・B組が決勝戦までのカレンダーを見据えたときに最も有利で、G・H組が最も不利であるというわけだ。


ただ、今大会はどうだろう。欧州主要リーグの終幕から間もなく開幕となったため、むしろ早めのグループに入ったチームは、忙しないスタートとなっている。準備の時間も回復の時間も取れない形だ。


たとえば、日本の初戦が20日だったらどうだったか。現時点でも出場が危ぶまれている守田英正はもちろん、冨安健洋も遠藤航も、そして恐らく三笘薫も出場不能だったに違いない。


この辺りは巡り合わせの妙でもあり、どうも「持ってない」ように思える日本が「持っている」部分である。


大会の基準を知ることができた


大会の様相を観察して備えることができるのも、遅く開幕するグループの特権だろう。


厳密に取られるために、10分超えも当たり前になったアディショナルタイム。新たに導入された半自動オフサイドテクノロジー。VARの介入やイエローカードの基準などを見ることができたことには意味がある。


とりわけ、厳格なアディショナルタイムの採用は、シリアスな問題になる可能性もある。ルール上は同じ90分ゲームであっても、試合の実時間は大幅に増えている格好で、90分ゲームではなく「105分ゲーム」までの想定が必要な大会となっている。


ボールを持たれる立場のチームにとって、これはかなりしんどいルールなので、試合運びについて考える必要もありそうだ。


森保一監督と選手たちが口を揃えているのは、ドイツにボールを支配されるにしても、その割合は削っておきたいということ。


「相手陣内でプレーする時間を増やしたい」と言ったのは田中碧だが、ドイツのプレッシングを、ロングボールで回避する一手だと息切れは必至。どこかで日本がボールを持って、相手を押し込む時間は作る必要がある。


これは東京五輪・準決勝のスペイン戦を振り返っての反省点でもある。


日本の前線には個人での打開力やスピードに秀でた選手が揃っているため、ボールを奪ったときに選手の感覚では「行ける」となることが多い。


つまり、奪ってから縦に加速しがちになるのだ。


もちろん、それで相手を仕留められるなら最高なので、さじ加減は難しいのだが、奪ってから縦へ鋭くの一辺倒では、ボールを再度失う可能性も高く、自然と消耗も大きくなっていく。


「105分ゲーム」を見据えると、これはリスキーだ。強敵相手にそうしたバランスを取れるかどうかは、一つのポイントとなる。


吉田主将の言葉


ビッグトーナメントでは、フィジカル面はもちろん、心理面での準備も欠かせないが、その点に関して過剰な心配はしていない。


ベテラン勢に加えて、久保建英を筆頭に、若くとも経験豊富な選手が揃っている。チームのムードを持って行くところで失敗するとは考えにくい。


それでも心配な人向けに、吉田麻也主将の公式記者会見での宣言を引用しておこう。


「いよいよ始まるなという気持ちです。ここまで良い準備ができていますし、全員揃ってトレーニングができている。あとは明日に向けて、最後の1秒まで良い準備をし、初戦のドイツ戦に全てをぶつけられるように、チーム一丸、そして日本一丸となって頑張りたいと思います」


吉田は静かに語った。その上で、日本サッカー界と縁も深いドイツとの対戦について、こう続ける。


「FIFAワールドカップの舞台で、優勝したことのあるドイツという強豪に対し、自分たちがどれだけやれるのか。興奮と不安の両面があって、すごく個人的には良い状態にある。『どこまでできるのかやってみたいな』と思いますし、もっと言うと、この対戦を機に日本が成長した姿を皆さんにも見せたい。世界に大きなサプライズを起こせたらと思っています」


また流暢な英語で、こうも付け加えた。


「ドイツがどれほどのクオリティを持っているかは知っていますし、何度も言ってきたようにタフな試合になるでしょう。ただ、負けるための試合はしない。サッカーの試合というのは勝たなければいけないもの、勝つべきものであって、負けていい、負けるべき試合なんてないんです。僕たちにもチャンスがあると信じています」


4年間が問われるわけではない


当たり前だが、ドイツは強い。輝かしい歴史を持ち、今大会も優勝候補の一角を担うチームに違いない。ただ、日本も別に弱くはないし、勝機がないとも思わない。


4年に1度のFIFAワールドカップでは「4年間の積み上げ」といった表現がよく使われるが、たった4年間が問われるわけではない。


偉大なドイツ人指導者、デッドマール・クラマーによって日本代表の革新が始まり、全国リーグという試みが生まれ、日本サッカーは夜明け前の蓄積を得ることとなった。


それから半世紀余りを経て迎える、2022年のFIFAワールドカップ。最年長の川島永嗣が生まれたのは39年前で、最年少の久保建英が生まれたのだって21年も前の話だ。


やはり問われるのは「4年間の積み上げ」などではない。この舞台で真に問われるのは、もっと長い年月をかけ、世代を超えて積み重ねてきたモノの力である。(文・川端暁彦)


写真提供:川端暁彦

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川端 暁彦

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行

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