ドイツ戦とは異なる「難しさ」が表面化した、コスタリカ戦。必要なのは、チャレンジャーのマインドセット

COLUMN川端暁彦のプレスバック第65回

ドイツ戦とは異なる「難しさ」が表面化した、コスタリカ戦。必要なのは、チャレンジャーのマインドセット

By 川端 暁彦 ・ 2022.11.28

シェアする

「難しい試合になる」——。


試合前、同じような言葉を残していた選手は複数いた。コスタリカを侮っていたつもりもないだろう。ただ、「難しさ」の理由は、少し違いがあったのかもしれない。少しだけれど、シリアスな違いだ。


固めてくるコスタリカに対し、ボールを持たされる日本。


この構図は試合前から予想されていた、わけではない。選手たちからはむしろ、後のないコスタリカは最初から前に出てくるのではないかという観測も根強くあった。ただ、コスタリカ側の事情は、少し違っていたのかもしれない。


コスタリカのスアレス監督は、試合後に魂を吐き出すように語っていた。


「昨日までの私たちは、死んでいたのかもしれません。でも、いま私たちは生きています」


大切な世界舞台の初戦で0対7の大敗。厳しい批判に晒される中で、この試合へ向かっていく。想像を絶するような覚悟が求められたのは当然で、傷付けられた誇りを取り戻すための戦いだったに違いない。


コスタリカの戦いは守備的なものに見えたかもしれないが、日本相手に全てを懸けて勝利をもぎ取りに来る気概はホンモノで、それをもって全員の意思統一を図っての選択だったのも明らかだった。


前提部分が大切


会見ではシステム変更や戦術についての質問が相次いだが、スアレス監督は「われわれは4バックも5バックもできます。でも、今日の試合で重要だったのはそこではありません」と言い切った。


試合のディテール以前に乗り越えるべきものがあって、それを乗り越えたチームに胸を張っていた。


たった1本しか枠内シュートを打てなかった時点で「すべてがコスタリカの思惑どおり、戦術の勝利」などとすることが、単なる結果論なのはスアレス監督もよくわかっていて、そうではなくて、もっと本質的な、あるいは前提部分にこそ大切なものがあったことを強調したい様子だった。


それが日本に欠けていた、とは言うまい。


初戦は全員がチャレンジャーのマインドで意思統一され、強いドイツが相手であるゆえに戦い方も選択的ではなかった。


つまり“相手によって強いられる”時間帯が力関係によって長くなった。ただ、当然と言えば当然で、事前に覚悟も決まっていたので、イラつくのではなく「やむなし」と捉えることもできた。


ドイツ戦とは異なる「難しさ」


ドイツ戦の貯金をもってこの試合は、そうした統一感を保つのが難しくなる部分は確実にあった。勝点を計算すれば、最悪でも引き分けでも切り抜けたい試合だが(もちろん勝つに越したことはないが)、こうした両にらみの状態は、相互の関係が成熟しているクラブチームであっても難しい。


試合時間が削られ、焦りが募っていく時間になっていくと、この齟齬も出てくる。がむしゃらに戦うことを押し出して逆転し、あとは割り切って守り抜くことにフォーカスできたドイツ戦とは異なる「難しさ」が表面化していた。チャレンジャーでいられないがゆえの「難しさ」だ。


「そういった難しさはありました。失点だけはしたくない気持ちがあって、サッカーが慎重になり過ぎた」(長友佑都)


イージーミスの異様な多さも「ミスして元々」で挑めたドイツ戦と、「ミスしちゃダメだ」の心理が強く働くコスタリカ戦の落差だろう。


もちろん「引き分けOK」で統一するなら簡単ではある。ただ、ドイツとスペインの試合が後にある以上、その選択をこの段階ではできない。しかも勝機のない状況ならともかく、明らかに優勢ではあった試合展開でそれはできないだろう。


結果として、どっち付かずで試合を運ばざるを得ないことが敗因の一つになったし(もちろん、それだけではない)、ここから学ぶべきことは多々あれど、いま考えるべきは、そして次に向けて思うべきは別のことだろう。


スペインは強い


2試合終わって、日本の勝点は3。ドイツがグループ最下位に沈んだ状態で最終戦を迎えるこのシチュエーションは、予想されたものではなかったが、これこそFIFAワールドカップでもある。


これまでも予想外の結果が起きてきたし、ここからも起きてくるだろう。その一つになることを目指すのみだ。


初戦で0対7の大敗を喫したコスタリカは、中3日の期間でもう一度、チームとしての意思を統一してこの試合に臨んできた。


日本もドイツとの初戦を前にして、全員チャレンジャーのマインドセットを作り、見事に星を勝ち取った。まず前提として、ここを取り戻すべきだろう。


スペインは強い。それゆえに自然と日本の闘い方も「強いられて」定まりやすい。


支配率を譲らない戦いはできないが、明らかに今のメンバーが得意なのは、ボールを持つ側に回ることより、隙を観ながら狩りに行って逆襲する側に回ること。何よりチームの意思は統一しやすい。


チャレンジャーとして挑む


大会が始まってから、シートベルトのないジェットコースターに乗せられてるような心境ではあるものの、これこそFIFAワールドカップである。


元より、日本はチャレンジャーとしてカタールへやって来た。過去7大会で最も厳しい組み合わせに入った時点で覚悟も決まっていたはずで、もう一度取り戻すべきはそのマインドセットだろう。


そのマインドを体現する男であり、重要さを知る歴戦の士たる長友佑都の言葉を借りるとしよう。


「ぼくらは強豪相手のほうが、自分たちの力を発揮できるんじゃないかと思っている。戦い方というのはハッキリ見えているので、スペイン相手にそれを出せるかどうかだと思う」


やることは明確で、今やれることをやるのみ。


「生きるか死ぬかの戦い。どれだけ強い気持ちで戦えるか。覚悟を持って戦いたい」


もう一度、全員でチャレンジャーとして挑むのみ。日本中に特別な記憶として残るような、そんな試合を期待したい。(文・川端暁彦)


写真提供:getty images

シェアする
川端 暁彦

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカー批評』『サッカーマガジンZONE』『月刊ローソンチケット』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行

このコラムの他の記事

おすすめ動画