【特別対談】「今季の注目は清水エスパルス。横浜F・マリノス、セレッソ大阪はどうなる!?」

COLUMN河治良幸×清水英斗 世界基準の真・日本代表論③

【特別対談】「今季の注目は清水エスパルス。横浜F・マリノス、セレッソ大阪はどうなる!?」

By 河治良幸 ・ 2020.5.10

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コロナ禍でJリーグ再開の目処は立っていないが、来る日に備えて期待は尽きない。レジェンドスタジアムで連載コラムを執筆する、河治良幸、清水英斗の両名に、今季のJリーグについて語ってもらった。


清水:今回はJリーグの話をしましょう。5月上旬時点でリーグの再開時期は未定ですが、今季の降格が無くなった変則ルールを踏まえると、来季に向け、あるいは今季の過密日程の中でも、見どころが変わるチームはあると思います。となると、真っ先に名前が挙がるのは清水エスパルスですかね。


河治:はい。僕もそう思います。


清水:正直なところ、今季のエスパルスは不安視していました。横浜F・マリノスからピーター・クラモフスキーが監督として来て、変革を目指していますが、元々マリノスもアンジェ・ポステコグルー監督の1年目は残留争いをした事実もあります。もう一つは、マリノスほどのピンポイント補強力があるのか。マリノスは優勝した昨季、シーズン中に負傷や移籍で欠けたポジションを、次々と補強しましたからね。その点でシティとの連携に強みがあったマリノスと同様の施策をエスパルスが打てるのか。そこは不安要素かなと。


河治:そうですね。


清水:監督とコーチの違いもあります。ポステコグルーは練習中に少しでも切り替えが遅れたりすると、選手が凍りつくほど激怒したり、外国人選手でもためらいなく外すとか、そんな話も聞いています。クラモフスキーはコーチ出身なので、練習のオーガナイズは抜群ですが、リーダーとしてのパーソナリティはどうなのか。監督とコーチの違いという不透明さが、どっちに転ぶのかは、公式戦が始まらないとわからない。


河治:はい。


清水:エスパルスの挑戦は夢があるけど、一方で危うさも感じていました。正直、降格もあり得るなと。だけど結果的に今季は降格無しで、1年の猶予を得たわけで。補強的にも、選手の成長としても、また監督の試行錯誤としても、時間を得たのは大きい。


河治:政府から緊急事態宣言が出る前に、エスパルスの練習と、その後にジュビロとの練習試合を取材に行きました。まだ完成度は高くないと思うんですけど、練習試合の3本目、4本目の内容が、ジュビロに比べてすごく良かった。1本目、2本目は拮抗した試合で、むしろ押されていましたが、その後になればなるほど、エスパルスが良くなった。チームの中で主力とサブの差がない、競争環境を作っているんだろうと思いました。ティーラシンやネト・ヴォルピなど、能力的に突出した選手もいますが、全体的には「主力を食ってやる」という競争状態が出来ている気がしました。


清水:なるほど。


河治:J1からJ2への降格がチラついてくると、そういう方向には行きにくくなるじゃないですか。エスパルスはチーム作りの途中なので、残留を争うのではないかと予想されましたが、降格が無くなったことでアグレッシブに戦いやすくなって、意外と上の順位になるかもしれないなと思いました。


清水:降格無しは、チームのモチベーションにも影響を与えると思います。スタイルにこだわらず「勝てば官軍」という考え方だと、一度順位が落ちたとき、チームがそのまま沈むかもしれない。お尻に火がつかないから、目標を見失ってしまう。


河治:はい。


清水:だけど、エスパルスのようなチームは勝ち方にこだわっているので、勝ち負けだけじゃなく、日々これだけ成長したという実感を得ながらプレーする。そういうチームは、外発的動機づけが必要ないんですよ。たとえ順位が落ちて、そこに残留争いの煽りがなかったとしても、状況にかかわらずやっていける。これは大きな強みだと思う。


河治:そうですね。もちろん、エスパルスが一番楽しみなのは来季ですけど、今季も残留争いがあるのとないのでは、最終順位が変わると思います。あとは補強もありますが、控え選手のモチベーションが高くて、競争状態が良いので、しっかりとベースができた上に補強されて、さらにブラッシュアップされていく流れが出来るのかなと感じます。


清水:鍵はセンターバックですね。ジュビロとの練習試合では3バックにしましたけど、2枚じゃ厳しいぞ、という感じがあったのだと思います。


河治:面白いのは3バックの真ん中を、岡崎慎や西村恭史など、ボランチとしてもプレーできる選手にしていること。


清水:練習試合の3本目、4本目は西村が真ん中だったんですね。なるほど。


河治:メンバー交代をしなくても状況に応じて4バックに戻せる形なので、単純に3バックをやったというよりは、4バックからの伏線があるわけですね。ボランチをあらかじめセンターバックの間にはめるのか、前に出すのか、という違い。


清水:そうですね。


河治:あとは、試合中に使い分けることもあるかもしれません。3バックでスタートしても、状況によっては岡崎や西村を一つ前に上げて、4バックにしてラインをぐっと上げる。逆に下がって守備をしなければいけなくなったときに、岡崎と西村を下げて蓋をすることもできる。攻撃の組み立てに関しても、ボランチがセンターバックの間に入る時と、全体を押し上げて4枚で回す時がありそうです。マリノス時代も、現場での戦術はクラモフスキーがかなりやっていたので、設計は長けていると思います。


清水:3バックで後ろが重くなると、どうしても前からのプレスがかかりにくくなるので、その辺りのバランスが取れてきたら、また良くなりそうですね。


河治:楽しみですね、ってこれじゃエスパルスの対談になっちゃう(笑)。


清水:変えましょう(笑)。他に気になるクラブはありますか?


河治:僕は優勝予想にセレッソ大阪を推していたのですが、この中断で過密日程になったとき、ちょっとどうかなと思うところはあります。


清水:何か問題があると?


河治:選手層も厚いと言えば厚いですが、中3日で回していくとなると、スカウティングをして、しっかり相手の長所を消すというロティーナさんのやり方の準備ができるのか・・・・・・。過密日程で試合がどんどん入ってくると、練習がコンディショニング中心になるじゃないですか。


清水:そうですね。


河治:そうなると、セレッソのスタイルは厳しいのかなと。その意味では広島のほうがバランスは取れていると感じます。自分たちのスタイルで押し通す部分と、相手の対策をする部分のバランスが安定している。広島も取材に行ったんですけど、やっぱりサッカーの質は高いなと感じました。中3日の試合日程で、相手の対策をするとなると結構難しいですが、広島の場合は相手がどこであっても、基本的にはそれほど変わらない。もちろん、相手のどこを抑えるといったところは変わりますが、割と押し通して行きやすいのかなとは思います。


清水:セレッソの場合、選手も結構固定しますしね。


河治:その上で、交代で入ってくる選手の使い方が見所じゃないですか、それが、ロティーナさんの醍醐味でもあって。広島はターンオーバーまではいかないけど、ミックスしながらできますよね。松本泰志が青山敏弘の代わりに入っても、ベースを変えずに戦っていける。そういう部分で、広島は順位が上がる可能性はあると思います。


清水:マリノスも、選手やポジションが変わっても同じサッカーをしますよね。そういうチームは、過密日程の中でも選手をターンオーバーさせやすいかもしれません。戦術的にスプリントや運動量の負荷が高いとか、内容面もあるので、一概には言えないですが。


河治:マリノスは開幕戦でガンバ大阪に負けましたが、大きな要因は、ガンバが1週間くらいずっと非公開で、マリノス対策を詰めて、詰めて、詰めたこと。試合中に選手がアドリブを利かせる柔軟性があったとしても、準備力がすごかった。それが過密日程になると、相手チームがマリノスに対してそこまで準備出来なくなります。逆にマリノスはそんなに変わらないので、過密日程の中ではそういうチームが有利になってくるのかなと。AFCチャンピオンズリーグがどう入ってくるかは、わからないですけれど。


清水:マリノスは誰が入っても変わらないサッカーができると言いましたけど、センターバックは別です。去年はチアゴ・マルチンスと畠中槙之輔が、ほとんどの試合に出ずっぱりでした。だけどルヴァンカップを含め、この2人が揃わなかった試合はあまり勝てていないんですよね。


河治:たしかに。


清水:いくらマリノスが、選手を入れ替えても変わらないサッカーをすると言っても、要所は別。センターバック2人が万全でなければ、この過密日程でどうなるかは分からない。ACLもあるし。怪我やコンディション不良は恐いです。


河治:今はチアゴも怪我でブラジルに帰っていますが、果たして日本に戻ったときに万全のコンディションでやれるのか。怪我はどの程度なのか。復帰して、完全にフィットするのはいつなのか。彼の代わりはどう考えてもいません。


清水:マリノスのスタイルは、センターバックが相当鍛えられるサッカーですから。


河治:チアゴの裏への対応スピード、デュエルの強さ、そして畠中のビルドアップ。これが欠けると、きついですね。


清水:エスパルスの話で、2枚のセンターバックじゃ厳しいという話をしましたよね。それも、マリノスの状況がベースにあります。マリノスもこの2人が揃っていたからこそ、優勝まで行けたと思うし。


河治:ヴァウドと立田悠悟ですね。特に立田は覚醒的な成長をしないと。


清水:そう。立田は3バックの癖が残っているような感じがするんです。


河治:前にボールを取りに行く気概はすごくあるし、開幕戦のFC東京戦でも、直接ボールを奪ってゴールにつなげたシーンは凄まじかったですよね。一方で、すごいミスもする。


清水:すごく良いボール奪取で得点につなげたけど、失点シーンは逆でした。行ってはいけないところで行ってしまった。FC東京戦の1失点目も、2枚のセンターバックなら、競りに行っちゃいけない。局面が数的不利だったので、行くなら少なくともボールを弾き返す確信がないと。そこを剥がされたら、真ん中はセンターバックが1枚になるのに、それでも行ってしまう立田の状況判断はすごく気になりました。


河治:たしかに。


清水:最終的にいちばん危険な場所を防ぐという、2枚のセンターバックに特化した役割を任せるのは不安です。あのサッカーはセンターバックに要求されるレベルが恐ろしく高いわけで。2枚だと恐いと思ったのは、そういうことですね。だったら3枚にしたほうが、立田の前へ出る良さも出る。


河治:エスパルスは、センターバックの今後の成長と、ヴァウドがよりフィットするかも含めてですよね。それを考えて、岡崎を獲ったんじゃないかと思いました。


清水:そうですよね。


河治:でも意外とボランチで使われていたり。話を聞いたら、「じゃあ今度はフォワードで使おうか」ってクラモフスキーさんに言われましたけど(笑)。


清水:このセンターバック問題は、エスパルスはもちろん、マリノスも内包するリスクですね。さて、他のクラブに行きましょうか。他にも順位が上がりそうなクラブ、あるいは気になるクラブはありますか?


河治:コンサドーレ札幌は、今季の初戦で柏レイソルと壮絶な打ち合いをして2-4で負けました。負けが込むと、ミシャ(ミハイロ・ペトロビッチ監督)でも、難しくなりますよね。ただ、今季は降格無しなので、過密日程の中でもアグレッシブに戦っていけるのかなと思います。中断明けの札幌は楽しみです。


清水:札幌は攻から守の切り替えですね。カウンターに使われるスペースをどう抑えるか。そこがクリアできれば上位に行けると思う。


河治:川崎は、監督は同じだけど、開幕戦は違うスタイルで戦って、鳥栖に守り切られました(0-0の引き分け)。今後、どうクオリティを加えて勝ち点3を取れるチームになっていくか、見ものですね。


清水:浦和はどうですか? 浦和も監督は同じだけど、スタイルを変えました。鹿島は監督もスタイルも変えました。こう見ると、全体的に転換期のクラブが多いですね。


河治:そうですね。鹿島も苦労していて、浦和は……。


(後編につづく)



写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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