大一番に挑む、新生なでしこジャパン。W杯出場権を賭けた、タイ戦の見どころは?

COLUMN河治良幸の真・代表論 第104回

大一番に挑む、新生なでしこジャパン。W杯出場権を賭けた、タイ戦の見どころは?

By 河治良幸 ・ 2022.1.29

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インドで行われている女子アジアカップ。池田太監督が率いる”なでしこジャパン”は、2勝1分の1位でグループステージ突破を決めた。


韓国戦は5バックの相手に対し、開始1分にDF三宅史織のパスを起点とした速攻から、1トップの植木理子がGKとの1対1を制し、ゴールを決めた。


その後も日本が優位に進めるが、後半に入ると、ロングボールを多用してきた韓国に押し込まれるシーンが増える。そして後半40分、コーナーキックのボールをGK山下杏也加が処理しきれず、こぼれたボールをソ・ジヨンに押し込まれた。


スコアは1-1で、日本は得失点差で首位通過を決めたが、先を見据えると、課題の残る試合でもあった。


キャプテンの熊谷紗希は、決めるべき時間帯に追加点を奪えなかったことに加え、韓国がロングボールを蹴る展開で、サイドハーフも含めて後ろに下がりすぎたことにより、セカンドボールから起点を作られたことを課題に挙げる。


なかでも、韓国の右サイドからの攻撃に対して「左側のサイドハーフが、後ろに吸収されすぎた」と問題点を語った。


意思疎通に課題


日本の良さは、前からのプレッシングだ。状況によっては後ろにブロックを作って耐えることも必要だが、韓国はロングボールを多用してくるため、セカンドボールを拾われると後手後手になってしまう。


いわゆる”ボールを持たせている”状態にならず、身体能力の高いFWソ・ジヨンの特長を出させてしまった。


そうした流れから、セットプレーを与えての失点であること。熊谷は「(失点を)0にしたかった中で、向こうの狙いはあそこしかなかった。まずはセットプレーを与えないこと」と反省点を挙げた上で「(セットプレーを)与えた後に、1つ目でどれだけクリアできたか」と語る。


直接的にはGK山下のミスもあったが、選手交代が生じる時間帯にマークを確認し、できる限りミスマッチを作らないように確認することも求められる。


また、アディショナルタイムに点を取りに行く選手と、試合を1-1でクローズしようとする選手の意識が揃わず、コーナーキックのチャンスを与えてしまった。GK山下がキャッチしてことなきを得たが、ベースを作っている段階のチームゆえ、状況に応じた意思疎通での課題が見られた。


W杯出場をかけてタイと対戦


グループを首位で通過したことにより、W杯の出場権がかかる準々決勝で、優勝候補のオーストラリアと当たらずに済んだ。準々決勝の相手は、3位グループの中では最強と見られるタイ。初戦でフィリピンに0-1と不覚をとったが、インドネシアに4-0で勝利し、オーストラリアに2-1で敗れたものの、力の差を考えれば大善戦だろう。


タイのスタイルは堅守速攻で、アメリカ生まれの長身FWミランダ・ニルドなどに、縦パスを送り込んでくる。サイド攻撃もドリブルが主体で、日本がある程度ボールを持っても、カウンターの危険がつきまとう。


もう一人、注意したいのが、GKのティファニー・ソルンパオ。代表入りから日は浅いが、オーストラリア戦で大活躍した守護神だ。


ボランチがホットゾーン


4-4-2をベースに4-2-3-1もオプションとして持つ日本は、GK山下、バックラインが右から清水梨紗、熊谷、南萌華、左サイドバックの三宅がファーストセットになる。左サイドバックは安定感のある乗松瑠華も候補だが、池田監督がサイドバックに守備の強度を求めているのは明らかだ。


ボランチはミャンマー戦で林穂之香と長野風花、ベトナム戦で猶本光と隅田凜、韓国戦では長野と猶本を起用しており、現在のチームでホットゾーンになっている。


展開力があり、守備の強度が高い林。キープ力があり、攻撃センスに優れる長野。ボックス・トゥ・ボックスの動きを得意とする猶本。攻守のバランスワークや細かいポジショニングで違いを見せる隅田と、それぞれに特長がある。


言い換えると、現時点で核がいないポジションであるだけに、池田監督はもちろん、観る側にもインパクトを残し、来年に希望を与えてくれる選手が出てきてほしい。


その中で、ややリードしているのは長野風花だろう。攻撃面で異彩を放つ長野だが、相手の強度が高くなればなるほど、林の存在感が増す可能性もある。


攻撃の軸は長谷川


サイドアタッカーは長谷川唯が軸で、あとは成宮唯、宮澤ひなた、遠藤純がしのぎを削る。ただし、4-2-3-1で長谷川がトップ下に入る場合は、成宮、宮澤、遠藤のうち二人がスタメン起用されるケースも考えられる。


相手を押し込む時間が長くなりそうなタイ戦は、2トップがベースだろう。いずれにしても長谷川がキーマンであることに違いはないが、韓国戦で鋭い仕掛けや飛び出しを見せた22歳の宮澤が主力に定着していく可能性も十分にある。


アメリカのエンジェル・シティに移籍した遠藤は、サイドからの突破に加え、決定力を持つタレントで、池田監督もパワーを高く評価している。ベースを作っている段階のチームではあるが、大会でジョーカーになりうる選手を発掘することも重要で、指揮官の見極めどころでもある。


エース岩渕の復帰は?


2トップはエースの岩渕真奈が、開幕前に新型コロナウイルスの感染でチームから隔離されたことにより、菅澤優衣香と田中美南に加え、韓国戦で衝撃的なゴールを決めた植木理子が挑む構図となっている。


岩渕は韓国戦でベンチ入りはしており、タイ戦でいきなりスタメン復帰するのか、それとも勝負どころのカードとして残すのか。ポイントになりそうだ。


高倉麻子前監督が率いた東京五輪では、”岩渕頼み”になってしまったのは反省材料でもある。U-20W杯を経験した”池田チルドレン”の選手をはじめ、FWの台頭が待たれるところで、植木が決勝トーナメントでアピールできるかも見どころになる。


アジアカップの三連覇は偉業となるが、まずはW杯の切符を掴み取り、そこからは結果だけでなく、来年に向けて希望を膨らませる戦いに期待したい。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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