日本代表はカタールW杯でドイツ、スペインと同じグループに入った。もう1カ国は6月に行われる大陸間プレーオフ(コスタリカ対ニュージーランド)の勝者だが、2010年W杯王者スペインと2014年王者ドイツが相手というのは、過去の大会と比べても明らかに厳しい。
森保一監督は「ベスト8以上」を目標に掲げるが、グループリーグ突破が大きな難関になりそうだ。
ドイツは昨年行われた欧州選手権のラウンド16で、イングランドに完敗した後、15年に渡るヨアキム・レーブ体制の幕が閉じた。その後、バイルン・ミュンヘンを率いていたハンス=ディーター・フリック監督が就任すると、W杯欧州予選で7連勝を果たした。
3月末に行われた親善試合でオランダに1-1で引き分けたが、バイエルン時代の教え子をベースに、若手を積極的に起用して強化を進めている。
4-2-3-1を基本システムとするドイツの特長は、攻守における強度の高さだ。なかでも攻守の切り替え速度は、世界ナンバーワンと言ってもいい。
そのような相手に、日本の高い位置からのプレスとコンビネーションを駆使した攻撃だけでは通用しないだろう。圧倒されないための強度を出していく必要がある。
ブンデスリーガでプレーする選手の抜擢は?
森保監督が4-3-3(本人は4-1-4-1と呼んでいる)を導入した大きな理由に、サイドの守備強化がある。
4-2-3-1だと中央には強いが、サイドハーフとサイドバックの間にスペースが生じやすく、ボランチもサイドの守備に参加しにくい。そのためボランチが本職の田中碧、遠藤航、守田英正を並べ、ワイドにプレッシャーをかけていく。その戦い方は、ドイツ戦でもベースになるだろう。
攻撃に目を向けると、ボールを動かしながら細かく崩すといった余裕を、ドイツが与えてくれるとは考えにくい。明らかなカウンターだけでなく、少ないパス本数でゴールに迫る攻撃を繰り出していく必要がある。
そのために、ブンデスリーガでドイツの強度を体感し、攻撃で違いを生み出している原口元気や鎌田大地、奥川雅也といったタレントの活用も視野に入れたい。
前線は大迫か古橋か
前線の3枚は、日本の武器でもある伊東純也に加えて、バランスを考えると中央で仕事ができる南野拓実でもいいが、大型のディフェンスを崩す意味で、三笘薫の効果も大きい。
センターフォワードはキープ力や攻撃に深みをもたらす意味で、ドイツでの経験も豊富な大迫勇也が頼りになるが、精力的な守備から裏を狙える、古橋亨梧の抜擢も有効と考える。
いずれにしても、全体が下がりすぎないように我慢強くラインを上げながら、攻撃では少ないチャンスを決め切れるかどうかがポイントになるだろう。
グループリーグ3試合をトータルで考えると、初戦のドイツ戦は引き分けでも十分だ。最初から勝ち点1を目標にする必要はないが、勝利を意識して戦った結果、引き分けたとしても、残り2試合に希望を持つことができる。
スペインのキーマンはブスケッツ
2試合目は、執筆時点でコスタリカとニュージーランドのどちらになるかはわからない。対戦相手が決まったら改めてシミュレーションするとして、スペインとの3試合目は、グループリーグ突破を決めに行く戦いになる。
引き分けでOKなのか、勝ち点3が必要なのかは知るよしもないが、ドイツとスペインのどちらが勝利しやすいかといえば、スペインの方だろう。
スペイン戦で大切なのは、ポゼッション合戦に付き合わないこと。まともに対抗すると分が悪く、後手後手の守備になってしまう。
日本のシステムは4-3-3(4-1-4-1)より、4-4-1-1の方がかみ合わせはいい。ペドリやカルロス・ソレールなど、自由を与えると危険な選手は多くいるが、キーマンはピボーテのセルヒオ・ブスケッツだ。彼に前を向かせると、長短のパスで揺さぶられてしまう。
ブスケッツに限れば、トップ下の選手にマンマークさせてもいいぐらいだが、水も漏らさない組織を作っていかないと、一瞬でやられてしまう。何度かはサイドからチャンスを作られることが想定されるが、そこに付き合って中央のバランスを崩さないことがポイントになる。
スペインの戦い方を見ると、シンプルなクロスに合わせるターゲットマンはアルバロ・モラタしかおらず、ボックス内で押し込みにくる選手も限られる。一方で、サイドから中に入り込んでシュートやワンツーで崩しに来る選手が揃っているので、外からのクロスは許しても、カットインはさせないようにしたい。
そのためにはサイドバックだけでなく、サイドハーフのタイトな守備も求められる。ラインを下げず、サイドバックとサイドハーフが連動できる関係を維持していく必要があるだろう。
セットプレーで点を取りたい
スペイン戦でポイントになるのが、前線のメンバーだ。ドイツ戦より、カウンターを意識したアタッカーをチョイスしたい。
右の伊東純也は外せないが、左は守備でも頑張れる浅野拓磨。トップ下はブスケッツの対応も考えて、守備で強度を出せる選手を起用し、勝負どころで久保建英のようなアタッキングサードで違いを生み出せる選手を投入するプランを採りたい。
スペイン戦に限らず、セットプレーで点を取れると理想的だ。日本はセットプレーの専門コーチ・菅原大介がCK、FK、敵陣のスローインなど、様々なリスタートを想定してデザインしていくはずだが、良質なキッカーがいないことには始まらない。
現在のメンバーでは久保建英や田中碧など、速くて鋭いキックを蹴る選手はいるが、狙ったところに正確に蹴る技術を考えると、脇坂泰斗(川崎)や樋口雄太(鹿島)も候補になる。
ドイツ戦、スペイン戦ともに、ベースの部分で圧倒されない人選とオーガナイズを構築することを前提に、勝負を決めるための武器、スペシャリティを持った選手を組み込むことを想定し、本大会までの限られた合宿やテストマッチを活用してほしい。(文・河治良幸)
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