W杯までおよそ半年。ブラジル戦で見えた、日本代表の現在地

COLUMN河治良幸の真・代表論 第113回

W杯までおよそ半年。ブラジル戦で見えた、日本代表の現在地

By 河治良幸 ・ 2022.6.9

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キリンチャレンジカップ・ブラジル戦。結論から言うと”惜敗”ではない。0-1という結果以上の差を感じさせられた。そして、相手を”本気”にさせることもできなかった。


ブラジルは日本戦後に予定されていた2試合が無くなり、W杯に向けたメンバー最終選考の意味合いが強かった。そのことからも、手を抜いていたわけではないだろう。それにも関わらず、相手の目の色を変えるところまで追い込めなかった。


その要因は、日本が攻撃で脅威を与えられなかったことにある。


リシャルリソンが遠藤航と接触してPKを取られたのが、後半30分。ネイマールにPKを決められたのが、その2分後だった。つまりは77分間に渡り、0-0だったことは評価に値する。


「極端に守備的だった」という声もあるが、現場で観ていて感心したのは、可能な限りラインを上げていたこと。吉田麻也キャプテンを中心としたディフェンスは相手に押し込まれても、ブラジルがボールを後ろに戻した段階で、ミドルゾーンにラインを押し上げていた。


その地道な繰り返しにより、ブラジルに二次、三次攻撃に持ち込ませなかった。バイタルエリアにボールを運ばれても、吉田、板倉滉、アンカーの遠藤が単に体を張るというよりも、シュートコースを限定しながら守ることで、GK権田修一の好セーブにつなげていた。


長友の好パフォーマンス


右サイドでは長友佑都が、相手のキーマンであるヴィニシウスをほぼ無力化したことで、同サイドからあまりチャンスを作らせなかった。


前半に右サイドハーフのラフィーニャがドリブルで持ち込み、サイドチェンジをヴィニシウスがリターンし、カゼミロがシュートを打ったシーンがあったが、長友をして「バロンドール候補」と言わしめる若きサイドアタッカーは、そうした形でしか決定機に絡めていなかった。


「相手が強くなればなるほど、自分の価値を、実力を発揮できると言っていましたが、モチベーションもすごく高かったですし、ヴィニシウスには絶対にやられない、仕事をさせないという強い気持ちで入りました。みんなのサポートもあり、彼にそこまで仕事をさせなかったのは満足しています」


そう振り返る長友のパフォーマンスは見事で、PKのシーンでファウルを取られてしまった遠藤も含めて、ブラジルにどれだけ攻められても慌てることなく、ギリギリのところで守り切ることができるディフェンスは頼もしく感じた。


ブラジルはW杯で対戦するドイツやスペインとはスタイルが異なるものの、戦う上でのベースにできるのは間違いない。


可能性を感じられなかった攻撃


一方で、高い位置でボールを奪うことができず、森保一監督がキーポイントにあげるショートカウンターが機能しないのは、ブラジル戦で思い知らされた。


先に書いたように、日本はラインを低くして構えていたわけではない。しかし、高い位置でプレスをかけようとしても奪えないばかりか、逆手に取られて前に運ばれてしまうので、最終的にボールを奪う位置が低くなったり、ブラジルのシュートやラインアウトで攻守が切り替わることが多かった。


日本がボールを奪ったとしても、ブラジルの即時奪回のプレスがかかる。そのためボールを落ち着かせた時には、ブラジルに4-4-2の守備をセットされ、後ろからビルドアップして、攻撃を作るしかなくなる。その繰り返しだった。


しかもブラジルは高いライン設定のままプレッシャーをかけられるので、中央から攻めようとすると、中盤のカゼミロとフレッジの守備網にかかってしまい、ショートカウンターで危ないシーンにつなげられた。


攻撃では、右サイドで伊東純也がボールを持った時に可能性を感じたが、左サイドバックのアラーナを個で剥がしきれず、原口、長友とのトライアングルがつながった時しかチャンスにならなかった。


左サイドの南野拓実と中山雄太は、そもそも縦への突破力を売りにするセットではないが、ダニエウ・アウベスとラフィーニャのコンビにほぼ無力化された。


守備をセットしたブラジルからゴールを破ることは、W杯でポット1に入るような強豪国でも難しい。とはいえ、数えるほどしかアタッキングサードに進入できていないので、守備的に戦っているつもりはなくとも、日本陣内での攻防が多くなってしまっていた。


機能しなかった、前線からのプレス


攻撃以上に課題を感じたのは、「前でボールを奪う」という、”森保ジャパン”のコンセプトが崩れてしまったことだ。


日本の3トップは伊東、古橋亨梧、南野という、欧州リーグで前からのプレッシングを経験している選手たちだ。


守田英正が怪我でいなかったとはいえ、遠藤と田中碧に加え、パラグアイ戦でMOM級の働きをした原口元気のセットは、ハイプレッシャーに秀でた選手たちである。そんな彼らでも、高い位置で奪いきれないのがブラジルのレベルなのだ。


ブラジルは強豪国の中でも一人ひとりのキープ力が高いので、こうした構図がはっきりしたところもあるが、ドイツやスペインに対しても似たような状況になることは想定できる。


森保監督は後ろで構えたところから、一発のカウンターにかける戦い方は選択しないと考えられるが、ブラジル相手に突き付けられた現実を直視して、どうすれば力のある強豪国に打ち勝つかを、プランニングしていく必要がある。


考えられる策としては、さらにリスクを負ってプレッシャーをかける強度を上げていくのか。それとも前半は割り切って0-0でしのぎ、後半に相手の強度が下がってきたところを狙い撃ちするのか。


ブラジル戦でも、後半に出てきた前田大然はスピードがあり、連続して相手を追いかけることができるので、ブラジルの最終ラインやGKアリソンが困っていた。これは1つのヒントになるだろう。


W杯では弱者側になる日本


先程、ブラジルを本気にさせられなかったと書いたが、日本も持っている手の内を全て出したわけではない。おそらく森保監督は、勝負所で伊東、前田、古橋、浅野拓磨あるいは三笘薫という高速アタッカーを並べる布陣を”勝負のオプション”として温めているはず。


カタールW杯はコロナ禍のルールで定着した5人交代制が採用される予定で、メンバーもおそらく26人になる。


そうしたことも踏まえて、本大会をどういう構成で臨むか。W杯までの半年間で個人の能力を上げていくこと、少しでも差を埋める努力をすることは大切だが、実際問題として田中碧が「これから自分がサッカーを続けて10年、何年か分かんないですけど、その中で彼らの普段やっている舞台に追いつかなきゃいけない」と語るように、カタールW杯でどうこうという次元の話ではない。


改めてはっきりしたのは、ドイツ戦もスペイン戦も、日本は”弱者側”になるということ。ひたすら守ってワンチャンスにかけるという最後の手段を取る前に、できる限りのプランと選手のチョイスをして本大会に備えることが重要になる。


その一方でコスタリカorニュージーランドから勝ち点3を確実に奪い、グループステージを突破することも含めて、プランを明確にしていく必要があるだろう。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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