日本代表の6月シリーズは、4試合で2勝2敗。8得点6失点で、数字で見たら良くもなく悪くもなくと言ったところか。ただ、タイトルがかかったキリンカップも含めて、ホームゲームのアドバンテージを考えたら、厳しく評価せざるを得ない。
ブラジル戦とチュジニア戦は、それぞれ明確な課題が出た形での敗戦だった。結果や内容に対して批判的な声が強まるのは当然だ。しかし、チームとしてはこの段階に課題が見えたことを前向きに捉え、残された期間でのアップデートにつなげるべきだ。
6月シリーズの初戦、南米のパラグアイに幸先良く4-1で勝利し、これまでA代表の試合では全敗のブラジルに挑んだが、0-1という結果以上の差を突き付けられる敗戦となった。
カタールW杯の優勝候補ブラジルがタレント力で日本を上回ることは、鎌田大地が「自分たちがブラジルに比べて劣っていることは、試合をやる前から、どこでプレーしているかを見れば歴然だった」と語る通り。ただし、肌を合わせることで分かったことも多かったようだ。
ブラジルは個で強さを発揮するだけでなく、組織としてのベースもあった。前々日の練習は『冒頭と終わり以外は撮影しない』という条件でメディア公開となったが、エースのネイマールも含めて、守備の時、どこにボールがあったらどうポジションをとるか、チッチ監督が直々に指導していた。
実際に試合では、伊東純也が左サイドバックのアラーナを突破しかけても、ボランチやセンターバックが的確にポジションをとったり、素早く寄せてくることから、シンプルに1対1で突破するだけではゴールにつながらないことを思い知らされた。
ブラジルに見せつけられた差
さらに言えば、日本がボールを握る側になったときに守備を固められると、得点のチャンスは無かった。理想は高い位置でボールを奪ってショートカウンターだが、前からボールを奪わせてもらえず、自陣で粘り強く守らざるを得なかった。
理由の1つは、ブラジルのディフェンスに、前からのプレッシャーをハメさせてもらえなかったこと。また、日本のボールになっても、ボランチのカゼミロやフレッジの切り替えが素早く的確であるため、有効なファーストパスを入れられなかった。
ただし、日本はしっかりとブロックを組めていれば、ブラジルが相手であってもそうそうやられないことは分かった。実際、ブラジルのチャンスの多くはショートカウンターだった。
右サイドバックの長友佑都が、ブラジルの攻撃面のキーマンとされたヴィニシウスをほぼ何もさせなかったことが大きいが、そのヴィニシウスもカウンターでは脅威で、中央エリアのドリブルではドイツの”デュエル王”である遠藤航も、イエロー覚悟のファウルで止めるしかなかった。
失点につながったPKのシーンは微妙で、親善試合とはいえ流れの中でゴールを許さなかったことはポジティブに捉えて良いが、強豪から点を取るためには、ボールの奪いどころを明確にすることも含めて、個人としても組織としても研ぎすませていかないと難しいことを思い知らされる試合だった。
チュニジアに完敗
その後、ガーナに4-1で勝利し、迎えたキリンカップ決勝の相手はW杯出場国のチュニジア。結果は0-3の完敗だった。前半に何度か先制のチャンスがありながら、決めきれなかった。
日本を分析して臨んだチュニジアに対し、サイド攻撃からしかチャンスを作れず。守備では、サイドから斜めに入ってくる裏へのボールに後手を踏んだり、激しいプレッシャーに後ろでのミスが生じるといった課題を、ブラジルほど個人の差がないチュニジアに教えられた。
前半の日本のシュート数は0で、後半は6本記録したが、枠内シュートが1本も無かった。前半は伊東純也をはじめサイドから何本もクロスを上げたが、中央で合わず。最大のチャンスには、フリーの鎌田が合わせ損なった。
W杯であれば、1試合に1度あるかないかのビッグチャンスで決められなかったのは反省材料だが、それを差し引いても、中央でチュニジアのディフェンスを脅かすシーンがほとんど無かったことは問題だ。
唯一、センターバックの板倉滉から絶好のロングパスが南野拓実に通り、ゴールネットを揺らしたが、惜しくもオフサイドになってしまった。
後半は同じようなリズムで試合を進める中、チュニジアのカウンターにハマる形で、立て続けに失点を喫した。
試合運びも悪く
最初のPKを含め、すべての失点に吉田麻也が絡んだことで、批判的な声が飛びかっている。パフォーマンスを見れば仕方のないことだが、試合を線で見ていくと、局面の対応ミスだけではない問題も見えてくる。
なにより、攻撃のリズムが一本調子になるなど、チームとしての試合運びに問題が見られた。そしてリードを許した時にチームの意識が整わず、攻撃の距離感が悪くなるだけでなく、攻守のバランスも悪くなっていた。
W杯に向けて、スコアや時間帯に応じたゲームコントロールの共有が図られるはずだが、今回のW杯は大会の直前に集まるスケジュールのため、チームとして細かいことを確認する時間が限られる。
それはどの国も同じだが、日本の場合は組織としてどう戦うかが生命線になるため、オンラインを使ったミーティングや編集ビデオも含めて、共有しておくべきだろう。それで全てを解決することはできないが、集まった時に森保監督が大事なことを効率よく伝え、トレーニングの密度を濃くすることが大切になる。
少ない準備期間で臨むW杯
ここからの半年弱で、伸ばせるものは限られている。なにしろ今回のW杯は、Jリーグが大会の2週間前に閉幕し、主力のほとんどがプレーする欧州の主要リーグは、わずか1週間前に中断となる。そう考えると、メンバー発表後から開幕直前に、練習試合を1つ入れられるかどうかも分からない。
9月の2試合は欧州遠征が予定され、北中米や南米のW杯出場国が候補にあがっている。欧州勢と対戦できない理由は、同日程にUEFAネーションズリーグがあるためだが、そこでは選手のアピールというより、詰めるべきところを詰めて、来たる本番に備えることになる。
その意味では、大会直前のコンディションの良し悪しを除けば、ほぼほぼ9月のメンバーが、本大会を想定したメンバーということになるだろう。選手たちはしっかりと所属クラブで出場時間を確保して、個人でアピールしていくしかない。
国内組は7月にE-1選手権もあるが、森保監督をはじめとした代表スタッフは、6月の4試合から何が足りないのか。生かせる武器や強みはどこなのかを検証して、メンバー選考はもちろん、選手と共有するべき部分を突き詰める必要がある。(文・河治良幸)
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