日本代表はカタールW杯に向けたメンバー選考前、最後の合宿を行なっている。
23日にはアメリカと対戦する。チェルシー所属のクリスチャン・プリシッチやリール所属ティモシー・ウェアなど、欧州のトップリーグでプレーしている選手も多く、タレント力、プレー強度ともに申し分のない相手だ。
森保一監督は27日のエクアドル戦も含めて「ベースがありつつ、アジアの戦いから世界の戦いへ転換して行く」ための2試合であることを強調する。
「ベースはあまり変わったものはないが、アジアと世界の戦いでは違う。これまでやってきたことが生きてくるところから、自信をもって、さらに世界で勝つためにというのを(選手に)持ってもらいたい」
過去3大会の代表キャプテンで、ドイツのフランクフルトに所属する長谷部誠も3日間チームに帯同し、客観的な視点からチームや選手にアドバイスをしてもらうという。現地で指導者ライセンスの取得を目指している「カイザー」からのサポートは頼もしい限りだ。
システムはどうなる?
アメリカ戦でチェックしたいポイントはいくつかある。ひとつはシステム選択だ。
森保監督は4-2-3-1と4-1-4-1、さらに「6月のガーナ戦で試した3バックはオプション」と語るが、フルに公開された2日目の練習では冨安健洋(アーセナル)や遠藤航(シュトゥットガルト)の入ったチームが、4-2-3-1でプレーしていた。
「システムありきではないが、(4-2-3-1と4-1-4-1の)両方ともやれるシステムなので、使い分けできる。最終予選の中心で出てくれた選手から、違う選手を加えて行く。それでシステムが変わってもいい」
森保監督が語る通り、相手との噛み合わせも見ながら使い分けるためのベースはあるが、4-3-3の方が特長を発揮しやすい選手、逆に4-2-3-1の方がハマりやすい選手はいる。
また現時点でオプションに過ぎないが、所属クラブで3バックを経験していたり、出場チャンスが増えそうな選手もいる中で、森保監督の選択は選手のサバイバルにも影響を与えるかもしれない。
森保監督はこれまでも常にサバイバルがあったことを強調しながら「仮にアピールの姿勢が強いと思っても、そこは歓迎しながら働きかけたい」と語る。
「今好調な選手をどう組み込むかは、明日(アメリカ戦で)試したい。今回はE-1の活躍から招集した選手を含めて、時間をどれだけ与えてあげられるかわからないですけど、チームの積み上げにプラスして試したい。好調な選手、あらたに加わってくれた選手、全員チャンスを与えられるか分からないですけど、できるだけピッチに立ってもらって、融合をはかっていきたい」
森保監督がそう言及したように、E-1選手権で3得点を決めたFW町野修斗(湘南ベルマーレ)や大会MVPのMF相馬勇紀(名古屋グランパス)は、ここでチャンスをもらってアピールするしかない。
E-1で評価を高めた相馬と町野
相馬は左サイドのスペシャリストである三笘薫(ブライトン)とも違った特長があり、ジョーカーとしても能力を発揮できる。名古屋では3バックの左アウトサイドでプレーしており、森保監督が3バックのオプションをテストする場合はさらにチャンスがある。
町野は浅野拓磨(ボーフム)が負傷で招集外となり、大迫勇也(ヴィッセル神戸)も選ばれていない今回、大型ストライカーとしてアピールに成功すれば、滑り込みでメンバー入リするかもしれない。
コロナ禍で、メンバー登録が従来の23人から26人に拡大された中で、+3というのは単純に選手層を厚くするだけでなく、試合を決定付けるアタッカーや主力メンバーと特長の違うタレントに割く監督も多いのではないか。
相馬や町野はそうしたプランに打ってつけの選手であり、ドイツやスペインに警戒されにくいメリットもありそうだ。もちろんアメリカ戦やエクアドル戦で大活躍すれば「見つかってしまう」訳だが、彼らが良い意味で森保監督を悩ませる存在になれば、本大会に向けても明るい材料となる。
「初見の相手は必ず抜ける」と語る相馬は、アメリカやエクアドルは、日頃からやっている相手ではないので、特長を発揮しやすいことを自負しているようだ。町野も今回FWの選手が4人いる状況を踏まえながらも「1点は取りたい」と語っていた。
セットプレーも重要なポイント
また鎌田大地(フランクフルト)や堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)など、最終予選でメンバー外になったり、必ずしもチームに貢献が出来なかった選手たちも、アピールするチャンスになる。
鎌田は流れの中だけでなく、ブンデスリーガでゴールやアシストを記録しているセットプレーのキッカーとしても期待が高まる。
セットプレーからのゴールは、得点の40%近くを占めると言われている。日本代表も菅原大介コーチを招いて、デザインされたセットプレーを導入しているが、まだセットプレーのキッカーが定まっていない。
所属クラブでは鎌田をはじめキッカーを担う選手も多く、E-1で活躍した相馬を含めて、残り2ヶ月で最も伸ばせるところかもしれない。
欧州遠征の2試合では、チームとして戦い方をすり合わせることに加え、そうした選手たちがアピールしながら刺激を与えることが重要になる。
これまで3大会で守護神を担った川島永嗣も、「若い選手たちは遠慮せず、どんどんアピールしてほしい」と語る。
「自分たちが若い時もそうだったし、それがあって自分も、(吉田)麻也も、(長友)佑都など、今の僕らの世代がある。若い選手はそういうのを出していっても、麻也がしっかりまとめてくれる(笑)。W杯に行きたいと思うのは当たり前ですし、枠は限られている。そういう気持ちのぶつかり合う集団でなければ、強い、難しい局面は乗り越えていけないと思う。そういう1人1人の集まりが、日本代表でなければいけないんじゃないかなと思います」
チームの組織力=仲良し集団ではなく、同じ目標に向けて野心を燃やし合う中に、一体感が出て来れば、W杯への推進力になるはず。それは日本での機運を高めて行くことにもなるはずだ。(文・河治良幸)
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