FIFA ワールドカップのメンバー発表から1週間も経たず、中山雄太(ハダーズフィールド)の怪我による辞退が発表された。
追加招集されたのは町野修斗(湘南ベルマーレ)。日の丸デビューとなったE-1選手権で3得点を記録。9月のドイツ遠征では不発に終わったが、帰国後のJリーグで4得点を積み上げ、シーズン13得点とした。
森保一監督も選出理由に得点力をあげていたが、メンバーが発表された時点で、筆者の予想よりFWが一人少なく、ディフェンスラインが一人多かったことを踏まえれば、もともと想定していた通りに収まった。
「自分のプレー次第では、世界を切り開いていける。ゴールしたい、結果を残したい」と語る町野の野心的なプレーに期待したいところだ。
ただ、減ったディフェンスの選手が中山だったことで、戦略面に影響が出そうだ。ひとつは中山が左サイドバックを本職としながら、ボランチ、センターバックと複数のポジションをこなせるマルチロールであるがゆえのバランス、構成の問題。
もうひとつは中山のスペシャリティが欠ける問題だ。加えて、中盤の要である遠藤航が頭部を強打し、脳震盪の疑いがあることも問題を拡大させる。中山がいれば、ボランチのカバーリングも可能だからだ。
守備陣のコンディションに不安
ディフェンスは4バックがベースであれば、8人で回すことが可能だ。ただし、全体的にディフェンスラインの平均年齢が高く、膝の負傷から保存治療で回復途上の板倉滉(ボルシアMG)、ふくらはぎに不安を抱える冨安健洋(アーセナル)がいる。
右サイドバックの酒井宏樹(浦和レッズ)も1試合の強度は高いが、過密日程の連戦はリスクがある。
そうした事情を考えると、9人という構成は理解できるものだ。中山がいる前提だと、同じ左利きの伊藤洋輝(シュトゥットガルト)をセンターバックで起用しやすくなるので、安心感が高まる。
しかし、中山がいなくなったことで、左は長友佑都と伊藤の二人で回さないといけなくなった。森保監督は酒井や冨安も左サイドバックができることを主張するが、二人の負担がさらに増すリスクがある。
もうひとつは、中山のスペシャリティだ。守備はもちろん、ビルドアップのエキスパートとしての貢献は大きかった。
伊藤はボランチ出身だけに、インアウトを使い分けたポジショニングやインナーラップもでき、長友もサイドラインを上下動するだけでなく、サイドアタッカーより中寄りにポジションを取ってボールを捌いたり、飛び出しに繋げたりもしている。
それでも、中山のクオリティは一段抜けていた。そこが無くなってしまうことで、ビルドアップで相手のプレスを外すことだけでなく、三笘薫(ブライトン)や相馬勇紀(名古屋グランパス)といった個性的なサイドアタッカーを生かして行けるのか。
カナダ戦も含めた直前キャンプで、詰めておくべきポイントの一つだろう。
ドイツ戦は長友先発か
1試合目のドイツ戦については、長友佑都がスタメンになると予想している。セルジュ・ニャブリ(バイエルン・ミュンヘン)のような個人能力の高いアタッカーとマッチアップしたときに、封じられる守備のスペシャリティがあるからだ。
仮にヨナス・ホフマン(ボルシアMG)なら、個人の仕掛けより右サイドバックとのコンビネーションを使ってくるが、いずれにしても長友のしつこい守備はドイツ相手に生かしやすい。
その中で、日本が攻撃に出る状況になった時に、中山の投入は効果的だと想定していた。全体的な強度が下がってきたところで、より前でボールを持てる状況になると、中山のビルドアップ能力、タイミングよく攻撃参加していくプレーを発揮しやすい。
それが無いことを踏まえて、森保監督は90分のシミュレーションから、選手起用を再考していく必要がある。
コスタリカ戦は3バックも
コスタリカ戦はドイツ戦から中3日ということもあり、ある程度のターンオーバーが予想される。筆者は4-3-3の左サイドバックで中山のスタメンを予想していたが、彼がいない前提でシミュレートし直すと、3バック気味にして、左ウイングバックに相馬を起用するプランも有効だと考えている。
コスタリカは基本4-4-2で、オプションとして5バックを使うが、日本は3バックにすることでボールを回しやすくなる。
一方で、スペイン戦は真っ向からボールの握り合いに挑んでもおそらく勝てないので、ある程度ミドルゾーンに引き込みながら、ボールを奪って、素早く攻めていく形になる。
その場合、スタートから5バックにするプランも考えられる。ドイツ戦とコスタリカ戦で疲労がどうなっているか。勝ち点計算も含めて、スペイン戦は読めない部分が多い。中山を欠く影響が、ここでどれだけ出るかは未知数だ。
町野加入のメリット
町野が前線に加わるメリットは、フィニッシュに迫力を加えられるオプションが増えるということ。どうしても得点が欲しい時間帯で、2トップの選択肢も取りやすくなる。
町野はボックス内に強いだけでなく、幅広いポストプレーや前を向いてボールを持てば、ディフェンスを突破してシュートに持ち込む打開力もある。
大枠として前田大然(セルティック)と浅野拓磨(ボーフム)をスピードタイプ、上田綺世(セルクル・ブルージュ)と町野をパワータイプと大別することはできるが、町野は動き出しが分かりやすく、周りの選手が生かしやすいメリットはありそうだ。
ただ、9月のアメリカ戦では、精力的な守備を除くと、消えてしまう時間帯が長く、そもそもボールに触る回数が少なかった。
「このままじゃダメだと思った。すべてを変える覚悟を持って取り組んできた」と語る町野だが、本大会で壁を乗り越えられるかがポイントになる。
ムードメイカーとしても期待
対戦相手にあまり知られていない強みは、FWの中でアドバンテージになるはず。大会の目標はE-1選手権と同じ「3得点」という町野は「右足、左足、頭、どこでも点を取れるところを見てほしい」と語る。チャンスを仕留めることが、日本の躍進につながるはずだ。
町野は「顔がデカいので、いじってもらえたら」と語るように、ムードメイカーとしての役割も期待できる。
代表活動に慣れている選手が多いといっても、1ヶ月もの期間、普段では考えられない緊張感の中で過ごすことになる。これまで世代別の代表にも選ばれていなかった町野だが、9月の活動では上田や三笘と積極的にコミュニケーションを取る姿が見られた。
中山を欠くマイナスと町野が加わるプラスを比較しても仕方がない。中山の不在はディフェンス陣が別の形で埋めていくしかないが、町野がチームにもたらすものが、日本をカタールの地で躍進に導くことを期待したい。(文・河治良幸)
写真提供:getty images