ついに開幕した、FIFA ワールドカップ。アジア王者でもあるカタールがエクアドルに完敗したのは衝撃的だったが、初出場の緊張、開催国のプレッシャーは感じつつも、エクアドルの方が強度で上回っていたし、選手の持ち味を発揮するところでの差は明らかだった。
その開幕戦を受けて、遠藤航は「エクアドルの方が入りはよかったと思う。カタールは開催国のプレッシャーもあったのかな」と前置きしながら「入りの部分で、どれだけ勢いよく行けるかはすごく大事なのかなと。ドイツに対しても、アグレッシブに入れる方がいい」と語った。
日本代表はスタッフ総出でドイツを分析しているのは間違いなく、9月シリーズのアメリカ戦で見せた以上に、ドイツ対策がピッチ上に表れる試合になることが想定される。
ただ、注意したいのが”位置的優位の奪い合い”にあまり付き合わないこと。日本が可変を前提としたサッカーを追求してきたなら、それでも問題はない。しかし、そんなことは今更である。
日本も位置的優位を意識したポジショニングを全くやっていない訳ではない。こういうテーマは100か0かの話ではないが、限られた時間の中で、状況に応じた立ち位置を決めすぎないことで、それぞれのチームで異なる戦術をやってきている選手が集まっても、原理原則を理解しやすいコンセプトを続けてきたのが、”森保ジャパン”なのだ。
ミスマッチが悪いわけではない
ドイツ対策という意味で、相手のストロングポイントや絶対に封じないと行けないエリア、逆に突いていくエリアは共有するべきだが、ここに来て急に、「ドイツがこの立ち位置を取ってきたらこう動き、こっちに来たらこう」というのを詰め込みすぎると、ピッチ上でフリーズを起こすことになりかねない。
森保監督は大袈裟に発信してはいないが、囲み取材などで「ミスマッチが必ずしも悪いとは思わない」というコメントを何度か出している。
立ち位置が噛み合わないということは、相手にとっても噛み合わない状況である。ただ、あまりにケアできていないと、フリーでボールを握られてズルズルと押し込まれることになってしまう。
サッカーは基本的に、守備でハメて攻撃でハメさせないことが大事だが、それを完璧に機能させようとするのは、一朝一夕の話ではない。
隙がないほどディテールを詰めていかないと、大きな穴が生じた時に対応しにくくなり、誰かが気付いて素早くギャップを埋めるとか、ときには自分の持ち場を離れてでもカバーすることで、補うことができる。
飲水タイムの活用
相手と噛み合わないことで不利が生じたときに、選手間で立ち位置や距離を変えるのか、それが難しい時にシステムチェンジをするのか。
そこの基準は詰めておかないと、選手の中で解決すべき時に、森保監督の方を見てしまったり、森保監督が指示するべき時に、選手達で判断した結果、ビジョンがバラバラになってしまうなどのリスクもある。
今回のFIFAワールドカップは、前半と後半に飲水タイムが設けられるので、そこで選手間や監督、コーチを交えて確認をすることはできる。
その時間が勝負の鍵を握ると考えているが、ドイツは日本がいかなる守り方をしようと、フレキシブルにビルドアップの立ち位置を変化させてくる。
ボランチが最終ラインに落ちるのは当たり前で、落ち方にも数パターンあり、優勢な時間帯は2センターバックだけ残し、両サイドバックが上がる”2枚回し”をすることもある。
ハンス=ディーター・フリック監督は、テクニカルエリアから頻繁に指示を出すタイプだが、ピッチ上の監督とも言えるヨシュア・キミッヒなど、指示を待たなくても的確な配置をイメージして実行できる選手もいるので、この立ち位置だからハマったというのでは、限定的な対策にしかならない。
変化に付き合いすぎないように
基本的にはミドルゾーンにコンパクトな4-4-2のブロックを作り、ドイツがライン間で起点を作ろうとする間際に襲い掛かるといったように、開幕戦のカタールとエクアドルのような関係になってくるかもしれない。
言うまでもなく、ドイツはカタールのように行く手を阻んだら行き詰まってくれることはなく、一発でサイドを変える展開力やボールホルダーの持ち上がり、ライン裏を狙った縦パスなど、位置的優位でボールを回すだけではない、プラスルファを加えてくるだろう。
日本は細かい立ち位置の変化に付き合いすぎることなく、危険なポイントを抑えながら守り、ボールを奪うチャンスを見極めたい。
そのためには下がりすぎないことが大事で、ミドルゾーンで全くボールが奪えず、押し込まれる時間帯が続くようなら、システムを含めて、大きなチェンジが必要になるだろう。
ただし時間帯に応じて、4-4-2の守備から、左右のサイドハーフが前目で絞り、鎌田が一つ下がって4-3-1-2のようにして、相手のセンターバックとボランチをハメつつ、ボランチがハーフポジションを取り、たとえば右サイドバックの酒井宏樹が左サイドバックのラウムを見るぐらいの対応は必要になる。
ドイツの可変に付き合いすぎると、基本ポジションが変わってしまったり、攻撃になった時にスイッチが入らず、即時奪回されてしまうことになりかねない。
そこの向き合い方は、これまで日本代表で戦ってきた選手たちに共通のビジョンはあるはずなので、ここまで来たら、対応力に委ねるべき部分だろう。
攻撃のための守備という認識
どのような試合展開になろうと、ドイツ戦は心身の負荷が大きくなるはず。それは森保監督も想定しており、おそらく5枚の交代カードは戦術的な意図だけでなく、体力の消耗を考えたものになる。
特にミドルゾーンを基本としながら、ボールサイドに規制をかける1トップの選手は守備の負荷がかかるはずで、サイドアタッカーのアップダウンも激しくなる。
そうしたポジションの選手たちはおそらく、後先を考えずに60分、70分で出し切って良いと伝えられるのではないか。
ドイツ戦は守備がキーポイントになるが、守備だけで終わってしまっては最高でも勝ち点1しか取れないので、攻撃でストロングを出すための守備であることを理解しなくてはいけない。
また、チームを落ち着かせるためのボール回しも必要だ。ドイツも全てのシーンでゲーゲンプレスをかけてくる訳ではないので、そこを見極めてペースメイクしたい。
勝利の可能性は20%ほど
日本の最大の強みは二列目にあるので、仮に伊東純也、鎌田大地、久保建英の3人だとしたら、伊東の推進力と久保の打開力は強みになるし、鎌田には機を見極める攻撃センスがある。
そうしたものを生かしながら、1トップも守備で奮闘するだけでなく、フィニッシュに絡めるように準備すること。前の4枚で勝負するにしても、ボランチとバックラインが同時に押し上げないと、間伸びを突かれてしまうことになる。
個人的な見立てとして、ドイツ戦はよく見積もって勝利の可能性は20%ほどと想定しているが、一発勝負は流れの引き寄せ方次第で、勝率を20%を50%、80%と上げることができる。
特にFIFA ワールドカップの初戦というのは、強豪国の惨敗も含めて、いろんなことが起きてきた。そうしたものを味方に付ける意味でも、チームが最善と考えるやり方を選手間でズレることなく共有して、大一番に臨んでほしい。(文・河治良幸)
写真提供:getty images