日本は初戦でドイツに2-1で勝利し、勝ち点3を獲得した。流れを大きく変えたのは、交代出場の選手たちだった。
板倉滉のロングパスから決勝点を記録した浅野拓磨を筆頭に、同点ゴールの堂安律、実質的なアシスト役となった南野拓実、左サイドから起点を作った三笘薫。そして後半からの5バックのビッグピースとなった冨安健洋。
彼ら全ての投入が効果的で、誰が欠けても、この勝利はなし得なかった。
ただし、交代で退いた5人も含めて、苦しい流れに耐えて繋いだスタメンの選手たちを忘れるべきではない。
前半は立ち上がり、前田大然の惜しいオフサイドはあったが、ドイツのシュート数は10本に対し、日本は0本だった。
アルゼンチンに同じく2-1で勝利したサウジアラビアのルナール監督が、「PKでリードされたところから、前半にもう1点入れられていたら決着がついていた」と語っていたが、日本もPKによる1失点で済んだことを良しとするべき内容だった。
PKの場面
劇的な勝利であり、森保一監督の采配を”死んだふり作戦”と表現するのを目にするが、実際は攻守両面でうまく行っているとは言い難かった。
最初はハイラインで構えていたのが、ペナルティエリアの手前まで下げさせられていたからだ。
PKを取られたシーンは、日本が少しラインを上げようとした時間帯で、中央を攻められて全体が中に絞ったところで、キミッヒのサイドチェンジから左サイドバックのラウムに背後を取られ、カバーに行ったGK権田修一が倒してしまった。
そのシーンについて伊東純也は「もったいなかった」と振り返る。
「(右サイドバックの)酒井くんとどっちが見るかはできてたんですけど、あの一本だけ、危ないと思って二人とも中を締めてしまって、外が空いた。もったいなかったというか意思疎通ができてなかった。ゴンちゃんがうまく押さえてくれたので、あそこでカバーできて、PKにならなければ失点はなかった」
右サイドの二人が揃って中に行ってしまったところを突かれた形だったが、ぎりぎりで持ち堪えるシーンが多く、攻撃面もほとんど良さを出せなかった。
伊東の「4.5バック」
その理由として、伊東は「前半はボールを持つのも後ろの方で、そこから横にも前にも敵がいるので、本当にうまくやらないとボールをキープできないと思いました」と振り返る。
「前半のままだったら、ずるずるやられてしまったと思いますけど、後半変えて、やってやるぞという感じで、みんなでいけたのが良かった。0-1ならなんでも起こり得るのがサッカーなので、それが起きた」
伊東の言葉を素直に受け取るならば、前半は決して狙い通りではなかったはず。ただ、興味深かったのは、徐々に押し込まれていく中で、伊東がポジションを下げて、「4.5バック」のようにして持ち堪えたこと。
これにより、左肩上がりのドイツの攻撃に対応していたのだ。おそらく、この時点で森保監督から具体的な指示は出ていないが、伊東のそうしたポジショニングと対応が無ければ、前半0-1では済まなかったかもしれない。
前向きの守備が必要
チームとして、前から守備に行けていないことは、選手も感じていたようだ。
南野は「ベンチから観ていて、やっぱり前向きに守備に行くのは必要やなと。パワーを持った選手が入ることは、試合の流れを変えるには必要だなと思っていた」と振り返る。
南野は後半の中でも、さらにギアを上げる後半30分に投入されることになるが、その布石となったのが、4バックから3バックへの転換だ。
それについて伊東は「本当に最後の5分とか10分は試していましたけど、この5バックでずっとやるのは初めてです。でも何回かやっていた形だったので、うまくできたと思います」と語る。
後半12分から左ウイングバックで出場した三笘薫も「僕たち自身もここで3バックをやるとは思ってなかった」と語る。
どこかで使う可能性は伝えられていたというが、ぶっつけ本番のような状況で手を打った森保監督もさることながら、ドイツを相手に実行した選手たちの柔軟性には恐れ入る。
変わるシステム
システムとしては前半は4-2-3-1、後半は立ち上がりが3-4-2-1(自陣の守備では5バック)、逆転後の終盤は5-4-1という表記になるが、ボールを奪いにいくディフェンスを実行したのが後半で、可変式のドイツに対してマンツーマン気味に前からはめていく分、5-3-2の形にもなっていた。
右の伊東は、シャドーとしてプレーしていた時は、守備で左センターバックのシュロッターベックにプレッシャーをかけ、攻撃ではインに絞って前田大然、後半12分からは浅野拓磨と2トップに近い関係を作った。
象徴的だったのはフリック監督の振る舞いで、前半はアディショナルタイムぐらいしかテクニカルエリアに出てこなかったが、後半は三笘が出てきたあたりからラインのぎりぎりまで乗り出して、指示を送っていた。
もし日本が前半のうちに明確な3バックもしくは5バックにしていたら、ハーフタイムの時点で具体的な対策を共有していたはずだ。その意味ではハリファ国際スタジアムが空調システムがあって涼しく、飲水タイムが取られなかったことも、ドイツには痛手だったかもしれない。
勝つためのプランがハマった
90分を振り返れば、権田のビッグセーブはもちろん、完全に崩されたかと思ったところから、キミッヒのシュートやムシアラのシュートが外れるシーンもあった。
前半アディショナルタイムには、ミュラーのクロスからキミッヒが放ったシュートを権田が弾き、ニャブリが折り返してハフェルツがゴールネットを揺らした。
VARチェックでノーゴールとなったが、この時点で2点差になっていたら、同点、逆転につながる展開も閉ざされていただろう。
歴史的な勝利を掴んだ選手たちと、森保監督の采配には見事というほかないが、継続的な積み上げという意味での実力差がある中で、短期決戦で勝機を掴むためのプランがはまった勝利という見方もできる。
大きな一歩を踏み出す
三笘は勝利の喜びを噛み締めながらも「本番でこういう戦いができたのは評価しないといけないですけど、4年間しっかり準備してきて、結果を出したわけではないと思います。そこもしっかり切り離して考えるべき」と語る。
そうした問題意識は、ブンデスリーガやプレミアリーグなど、欧州の最前線で経験を積んでいる選手は特に感じているはずで、日本が列強の仲間入りを果たすために踏むべきステップは計り知れない。
しかし、FIFAワールドカップでの躍進を成し遂げるための、大きな一歩を踏んだことは間違いなく、ここからコスタリカ戦、スペイン戦、そして新たな景色を見るための戦いに視界が開けてきたことを喜ぶと同時に、気持ちを引き締めて見守っていきたい。(文・河治良幸)
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