ドイツに劇的勝利を果たした後の敗戦。コスタリカ戦でポイントになったこととは?

COLUMN河治良幸の真・代表論 第128回

ドイツに劇的勝利を果たした後の敗戦。コスタリカ戦でポイントになったこととは?

By 河治良幸 ・ 2022.11.28

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ドイツ戦の逆転勝利から一転し、コスタリカ戦は0対1の敗戦。結果に加えて、不満要素の多い試合となってしまった。


ドイツ戦からコスタリカ戦に向けて、5人のスタメンを代えたことについて、森保一監督は記者会見で、次のように答えている。


「ターンオーバーに関しては、全く後悔していません。結果がダメだったから、やったことがダメだったと見られると思いますが、ドイツ、そしてコスタリカとの戦いは、非常にインテンシティの高い戦いでした。またもう一度、スペインと激しく厳しいインテンシティの高い戦いをする中で、我々が勝つ確率を上げられるようにということで選択しました」


森保監督はそう話したが、筆者はFIFAワールドカップに臨むにあたって、ドイツ戦、コスタリカ戦、スペイン戦で、それぞれのファーストセットをある程度想定していると考えいた。


コスタリカ戦では、右サイドバックの酒井宏樹の欠場は確定していて、もう一人のスペシャリストである山根視来が出ることは予想できた。


怪我以外の理由で変更したと考えられるのは、1トップの前田大然から上田綺世、右サイドの伊東純也から堂安律、左の久保建英から相馬勇紀、ボランチの田中碧から守田英正だ。


一方でコスタリカ戦のキーマンになると筆者が見込んでいた、センターバックの谷口彰悟は、今回も出番が無かった。また吉田麻也と遠藤航、鎌田大地はドイツ戦に続くフル出場だった。


吉田と遠藤の二本柱


つまり、選手間のコミュニケーションが生命線である”森保ジャパン”で、吉田と遠藤は二本柱ということだ。そして鎌田は、攻撃の中心として頼りにされていることを表している。


この3人はよほどコンディションに問題がない限り、スペイン戦でもスタメンで出場する可能性が高い。コスタリカ戦について、筆者は板倉滉と谷口のセットを予想していたが、吉田キャプテンが後方から全体をオーガナイズするという意味で、森保監督の中では代えの効かない存在として認識されているのだろう。


もう1つ鍵になったのは、コスタリカの出方だった。スペインに0対7の大敗を喫したこともあるが、どう臨んでくるのか、分からなかった。それは森保監督だけでなく、何人かの選手も語っていた。


勝っているチームは替えにくく、負けているチームは替えやすいのがサッカーのセオリーだ。コスタリカのスアレス監督は、4-4-2からのシステムチェンジも示唆していた。


自陣で守る時は5-4-1、攻める時は3-4-3になるコスタリカの布陣は、ベスト8に進出した2014年のチームを想起させる。特に左のオビエドとキャンベルのところから、日本の右サイドにどんどん仕掛けてきた。


「相手をゼロに抑えながら、試合を進めていく部分はプラン通りだったと思います。できれば我々が先制点を奪うところ、常に勝ち点3を目指す中で、勝ち点1はしっかりつかみ取れるように、勝ち点3へ持っていく部分は考えていたゲームプランでした」


後半開始直後は日本が優勢


そう語る森保監督だが、攻撃面も守備面もなかなかうまく行かない状況で、前半35分あたりで、3バックにすることを選手たちに指示した。


左サイドバックの長友佑都が吉田麻也、板倉滉と3バックを組んで、守備は5バックにして3トップ気味の相手を前に押し出していく。


ボールを握れば、右ウイングバックになった山根が左の相馬と共に、高いポジションを取って起点になった。


後半立ち上がりの数分間は日本が完全に優勢で、ボランチの守田が浅野とのワンツーで危険なシュートを放ち、惜しくもGKケイラー・ナバスに阻まれるなど、日本が優勢になった。


その間に先制ゴールを仕留めて、逃げ切りにつなげられたら理想的だったが、コスタリカは経験豊富なMFテヘダが後半6分ごろピッチに倒れ込み、一時中断する間に守備を整えたようだ。


攻撃のカードを切る


そこから一進一退の攻防が続く中で、森保監督は三笘薫、伊東純也と勝負のカードを立て続けに切って、攻撃の矢印を強める。


5バックというよりは、攻撃的な3バックにして勝ち点3を狙いに行ったが、最後のところで決めきれなかった裏側のロングボールから日本の対応ミスを突いて、DFのフレールがゴール。日本の反撃を振り切った。


終盤には南野拓実を投入するも、最後までコスタリカの壁を破りきれなかった。


森保監督が「最後に仕留めることができれば良かったですが、残念ながら相手がチャンスをものにした」と振り返るように、コスタリカに先制点を与えず、どこかでゴールを奪うプランは、失点シーンの直前までうまく行っていたのだろう。ただ、そこに”落とし穴”があったのかもしれない。


ドイツ戦の影響


ドイツに劇的な逆転勝利をして、迎えたコスタリカ戦は、非常に難しいシチュエーションだった。それぞれの試合で勝ちに行くという基本スタンスはあるが、3試合を通した時に、大会前から、勝ち点3を必ず取るべき試合と位置付けられていた。


それが初戦でドイツに勝利したことで、必ず勝ち点3を取りに行く試合から、勝ち点1を確保しながら、勝ち点3を取りに行く試合に変わった。


ここに関しては、森保監督のプランが急に変わったというより、グループステージ突破を基準に考えると、リスクをかけてでも勝ち点3を取りに行くことはしにくい。


一方のコスタリカは、初戦でスペインに大敗を喫した後だけに、突破の希望をつなぐ意味でも、日本戦は必ず勝ち点3を取る必要性が出てきた。


もともとコスタリカのスアレス監督は、日本戦が勝ち点3を取る試合として位置付けていた。スペインに大差で負けたのは計算外にしても、勝利という目標がより明確になり、選手たちも一丸となりやすい状況だった。


前日会見時に、指揮官がシステム変更を示唆していた通り、コスタリカは4-4-2ではなく5-4-1。攻撃時には5-2-3になる形に替えてきたが、これは2014年のブラジル大会で、ベスト8進出を果たしたチームの基本システムだった。


シュート数14対4


その大会でホンジュラスを率いていたスアレス監督は、当時のコスタリカの躍進に感動したというが、ここで同システムを取ることは、戦術的な意味合いはもちろん、守護神ケイラー・ナバスをはじめ、その大会を経験したメンバーを含むコスタリカの選手たちに、チーム一丸になるための確かなメッセージになる。


スタッツを見ると、日本のボール保持率は48%(中立13%)で、シュート数は14本。一方のコスタリカは4本で、チャンスの数でも日本が上回っていた。


コスタリカは守護神ナバスを中心とした堅守速攻を掲げるチームで、彼らのスタイルが大きく変わるわけではない。


勝ち点3を取りにくる中で、エースのキャンベルを左に回して仕掛けの起点にしたり、18歳の新鋭ベネットを勝負のカードとして終盤に投入するなど、勝利にかける想いが伝わってきた。


そうした相手に対して、日本はリスク管理をしっかりしながらも、三笘や伊東、相馬の仕掛けから、1つゴールを奪って勝ち点3をものにできれば、森保監督が思い描いたプラン通りになるはずだった。


チャレンジャーとして臨むスペイン戦


日本はこの試合、勝ち点1でも2試合を終えて勝ち点4となり、突破に向けてアドバンテージになるシチュエーションが、後が無いコスタリカとのマネージメント的な違いになっていたのは確かだろう。


ただ、コスタリカ戦はもともとドイツ戦、スペイン戦と違って、アジア予選の”上位互換”のような性質があった。


日本がボールを握る時間が多くなる中で、相手の堅守をどう崩すか、いかにカウンターから失点しないかという課題が問われるような試合になることは予想された。そこにドイツ戦の勝利という要素が加わったが、基本的な構図は変わっていなかったのだ。


次のスペイン戦はドイツ戦と同じく、チャレンジャーとして挑むことになる。引き分けだと勝ち点4で突破の条件は複雑になるが、勝てば突破が確実になるので、目標が分かりやすくなったと前向きに捉えることもできる。


相馬は「(吉田)麻也さんを筆頭に、スペインに向けて準備しよう、切り替えようというポジティブな声が出ていた」と振り返っている。


コスタリカ戦の反省は必要だが、全く違うシチュエーションになることが予想される試合に向けて、短い時間で強豪スペインから勝利を掴むための最良の準備をして行くこと。


ドイツとは違った厳しい相手になるが、チームとして選手が目線を揃えて戦うことができれば、チャンスは必ずあると見ている。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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