運命のスペイン戦。”森保ジャパン”は、どう戦うべきか?

COLUMN河治良幸の真・代表論 第129回

運命のスペイン戦。”森保ジャパン”は、どう戦うべきか?

By 河治良幸 ・ 2022.11.30

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日本代表は16強入りをかけて、日本時間1日深夜にスペインと対戦する。初戦でドイツに逆転勝利したが、コスタリカに敗れて1勝1敗。勝ち点としては想定内でも、批判的な声が大きくなるのは仕方がない。


しかし、スペインに勝利することができれば、コスタリカ戦のショックも拭い去ることができる。


スペインもドイツをほぼ圧倒しながら終盤に追い付かれたので、グループステージ突破は決まっていない。仮に日本に敗れて、コスタリカがドイツに勝利するようなことがあれば、敗退が決まってしまうのだ。


引き分けでもスペインの突破は確定するが、引き分けを狙うようなチームではない。もちろん終盤になって同点なら、そのままクローズしようとするかもしれないが、基本は勝って首位突破を決めにくるだろう。


守田の言葉


「はっきりしていて、4-3-3で来ると思います。自信があるからこそ、綺麗なパスが多いと思う。しっかり距離を保てば、引っ掛けられるチャンスだと思っています」


そう語るのは、ボランチの守田英正だ。遠藤航が右膝の痛みで出場が危ぶまれる中で、攻守の要として期待される守田は、仮にイエローを1枚もらっているブスケッツが日本戦のスタメンを回避しても「回し方や戦い方のベースはほとんど変わらないので、気にしすぎないようにするべき」と語る。


確実に言えるのは、日本がハイプレスをかけに行っても、ドイツ戦よりさらにボールを奪える可能性は低いということ。


スペインのビルドアップに対してプレッシャーをかけても、方向やパスの選択肢を限定するのが精一杯だろう。”ゲーゲンプレス”を標榜するドイツですら、プレスを逆利用されて縦に侵入されていたのだ。


経験豊富な長友佑都もスペインについて「90分を通してレベルの高い、世界トップのサッカーだと思います。ドイツが前から行っても奪えなかった。スペインのポゼッションは非常に完成度が高い」と認める。


その上で「スキはあると、ドイツ戦を見て感じた。そこを突ければ日本にも勝機がある」と主張している。


スペインを引き込みたい


前から徹底してハメに行く守備が無謀である以上、ブロックを作って引きこんだ戦い方が現実的な選択肢になる。


大事なのはどこまで引きこむのか。そして、ボールの奪いどころをどう共有するのか。


システムの選択も攻撃よりは守備を考えたプランになるはず。1つ考えられるのは、これまで通り4-4-2の3ラインをベースに「2」の一人が、スペインの中盤のアンカーも見るというもの。そして左右のインサイドハーフは、二枚のボランチが見る形になる。


もう1つは5バックにして、スペインが狙う中間スペースを埋めてしまうやり方だ。


5-4-1だと中盤で数的不利になるが、スペインのルイス・エンリケ監督は”レーン被り”を嫌うため、ウイングかサイドバックしか外に張らない。それを利用して、左右のサイドハーフはインサイド寄りで、ボランチを助けることができる。


スペインのボール回しに付き合うと激しい消耗につながるが、ドン引きしてしまうと、ペナルティエリアに最終ラインが吸収されて、ミドルシュートでもゴールを狙える距離になってしまう。


しかも、マイボールになった時に即時奪回を狙われて、一か八か前方に蹴るしか選択肢が無くなってくる。ブロックで構えながら、かけるべきプレッシャーはかけて行くことが守備の生命線になる。


攻撃はカウンター


攻撃面では、カウンターが鍵を握るのは、多くの人が想定できるだろう。ただ、その方向性とクオリティが伴っていないと、中途半端なところで奪い返されて、裏返しの速攻を食らうことになる。


スペインが怖いのは、通常はボールを握りながら揺さぶりをかけてくるが、高い位置で即時奪回やセカンドボールを拾えた時は、相手のディフェンスが整う前に攻め切るマインドを備えていること。


スペインはバルセロナを軸にレアル・マドリーやアトレティコ・マドリーの要素がブレンドされている分、バルセロナよりもハイブリッド化されている。


ルイス・エンリケ監督も現役時代にバルセロナとレアル・マドリーの両クラブを経験したレアなキャリアを持っており、スペイン代表をまとめるにはもってこいの指導者だ。


ポゼッションは手段であって、目的ではないことも弁えており、チャンスと見ればゴールに矢印を引いて襲いかかってくる攻撃が脅威だ。


勝負どころを見極める


ただし、スペインであっても90分間、ボールを握り続けるわけではない。即時奪回のためのプレスも、全ての切り替え時に発揮されるわけではないので、日本にも10分か20分ぐらいはボールを握る時間帯があるだろう。


裏返しのカウンターで得点できれば理想だが、少ないながらも日本がボールを握れる時間帯を生かし、ゴールを仕留めるプランも有効だ。


「サッカーは90分間、どっちかが攻めているだけというのはあまり無い。どこかでそういう時間帯も来ると思うし、それが何かのプレーなのか、フォーメーションを変えたからなのか。きっかけは色々あると思う」


そう語るのは、右サイドでの出場が予想される山根視来だ。川崎フロンターレではボールを握る側になることが多いが、前所属の湘南ベルマーレでは、相手に握られても粘り強く守ってカウンター、あるいは限られたポゼッションの時間にゴールを狙う戦いを経験している。


山根は「みんなでエネルギーを持って、勝負どころを見極めることは大事かなと思います」と語る。


スペインのスタメンは?


スペインもコスタリカ戦、ドイツ戦と続けてスタメン起用されている選手が多く、多少メンバーを変えてくるかもしれない。


ブスケッツだけでなく、中盤のペドリや左ウイングのダニ・オルモあたりも、ベンチスタートになる可能性がある。誰が出てもクオリティは高いが、日本の選手たちは特長を早い時間に掴んで対処できるようにしたい。


気をつけたいのは、スペインは4-3-3と言っても、トップの中央がマルコ・アセンシオになるのかモラタになるのかで、前の方の構図が変わってくること。


前者は”偽9番”と呼ばれるタイプの選手で、左右のウイングよりも引いた位置でボールを受けたり、ポジションを入れ替わることもある。


後者はよりセンターフォワードらしいFWで、スペインでは貴重なディフェンスを背負えるタイプだ。スタメンが出た時点で分かることだが、どちらが先発するかで気をつけるべきポイントも違ってくる。


そうした情報を事前にインプットしながら、いざピッチに立ったときに感じるものを共有できるか。もしかしたら最後の試合になるかもしれないが、自分達で、その先を切り開く権利もある。


交代選手も含めて、チーム一丸となって強敵を再び打ち倒すことができれば、16強入りはもちろん、その先の視界が開けてくる。(文・河治良幸)


写真提供:getty images

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河治良幸

河治良幸

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書に『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)。

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