”新しい景色”を目指したクロアチア戦はPK戦の末に敗れ、またしてもベスト16で幕を閉じた。
最後がPK戦で終わったので、どうしてもPK戦に意識が向くし、大事なテーマではあるのだが、試合の中で勝機を見出しえたポイントはたくさんあるので、そちらにフォーカスして、課題に向き合う方が建設的だろう。
「ラウンド16で勝つためにはどうすればいいか」というのが、この原稿のテーマだが、ラウンド16というよりは「ノックアウトステージに勝つため」という方が、前向きな目標設定をしやすい。
おそらくノックアウトステージに勝つ方法論が見えてくれば、ベスト8だけでなく、ベスト4、ファイナルへの道筋も見えてくるはずだ。
ベースになるのは「個の力」で、1つ1つの局面で優位にできたり、チャンスに決め切る能力が引き上がることは、チーム力アップに直結する。
鎌田大地は日本代表のメンバーそれぞれが、戦うステージや所属しているクラブを上げることの重要性を説いていたが、チャンピオンズリーグを始め、クラブでも国際的な大舞台を踏むことで、そのレベルの強度やプレッシャーに慣れるという意味合いはある。
戦術共有レベルを引き上げる
それは、誰が代表監督になろうと必要なことだが、チームという面から見ると、カタールでの”森保ジャパン”よりも、ベースの部分で戦術共有レベルは引き上げるべきだろう。
今回は4バックから、3バック(5バック)に変更して戦い抜いたが、試合で一度もやっていない組み合わせはディテールにラグが生じやすく、相手にとって付け入る隙を生みやすい。
ただし、確固たるプレーモデルを構築して、継続して完成度を上げていく方法は、代表チームの場合はリスクになる。それぞれの選手に所属クラブでの戦術があり、バラバラな経験をしている中で、選手たちがチームのベースに合わせていくことは、メンバーの固定化につながりかねない。
チームが同じ絵を描くための方向性がある上で、オプションをプラスする形でないと、連携面でズレが生まれ、穴になりやすいのだ。
日本は所属クラブがバラバラ
例えばクロアチア戦では、右ウイングバックの伊東純也とペリシッチの高さ的なミスマッチを利用されて、対角線のクロスボールから同点ゴールを決められた。
あの場面は5バックがワイドに開きすぎてしまったこともあるし、176cmの伊東が187cmのペリシッチに高さで負けるのは仕方ないにしても、慣れていれば体をぶつけにいくなどの対応はしやすかったはずだ。
今回のFIFAワールドカップに関しては、4バックと3バック(5バック)の使い分けをすること自体は効果的だったが、攻撃面でのコンビネーションに雑味が出過ぎたところがあり、守備面で相手に狙いどころを晒してしまった部分もあった。
日本の場合は国内組でも欧州組でも、所属クラブがバラバラで、ドイツやスペインのようには行かない。より試合の長い時間で主導権を握るために、継続的なプレーモデルを作って行くにしても、そこにすべて当てはめようとすると、選手の個性を発揮しにくくなるだろう。
ポルトガルの場合
参考になるのは、ベスト8に勝ち残っているポルトガルだ。EURO2016で同国を優勝に導いたフェルナンド・サントス監督は、2014年のギリシャ代表を率いたことでも知られている。
ポルトガルに見られるのは、適度な戦術と個性の融合だ。継続的な戦術ベースは植え付けながら、プラスアルファで選手が持ち味を発揮できるように、ディテールを詰めすぎない形を取っている。
今大会もクリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、ある程度スタイルを固めながら、最後にプラスアルファを加えて本大会に臨んでいる。
ラウンド16でロナウドに代わりスタメン起用され、ハットトリックを達成したゴンサロ・ラモスは、直前に組み込んだフレッシュなピースだ。
それまでのベースがあるからこそ、仕上げに組み込む戦力的なオプションや戦術プランもチームの中で共有しやすい。そこはグループステージでドイツやスペインを破る快挙を成し遂げた”森保ジャパン”に不足していたところだ。
対応力を高めたい
ノックアウトステージで必要になるのが、試合の中で自分達の時間帯をできるだけ多く作りながら、厳しい時間を耐えて、また押し返すような対応力をチームで持っていくこと。
クロアチア戦の前半はショートコーナーから前田大然がゴールしたが、もう1、2点入ってもおかしくないぐらい、日本は良い流れを作っていた。
しかし、後半になってクロアチアに押し返されてから、良い流れを引き戻すことができなかった。
局面を切り取れば、頼みの綱だった三笘薫が対策されて、十分な打開力を発揮できなかったところがある。しかしチーム全体として、ハイラインの守備からショートカウンターを狙っていくような流れに、持って行くことができなかった。
ゲームをコントロールできる選手
これまでの日本代表は、前半があまり良くない中で、後半に巻き返した試合はアジア予選も含めてあった。
逆に前半から良くて、リードしたまま逃げ切る試合もあった。しかし、前半のパフォーマンスが良かったところから、後半に主導権を奪われて、それでも終盤に押し返すような試合展開をあまり経験していない。
考えられる要因は、相手にハメられてもずらしたり、外されてもハメ直したりと、もっと短い時間のサイクルで対応していくための、チームとしての解決力が乏しかったからと言える。
クリアチアにはモドリッチというゲームコントロールの達人がいて、コヴァチッチやブロゾヴィッチも解決力に優れた選手たちで、それをチームに組み込んでいるところがある。
日本代表では、柴崎岳にそうした役割が期待されたが、出場チャンスが無く、大会を終えた。そうした個人の判断や発信だけでなく、チームの戦術的なベースがもっとあれば、立ち戻る基準を定めることで、チームとして状況に応じた意識をそろえやすくなるだろう。
継続性と柔軟性のバランス
代表監督の人事に関しては、森保監督で継続するのか、新監督を迎えるのか。現時点ではリリースを待つしかないが、チームの軸になるところは早い段階で決めて、そこから段階的に組み上げるプランは、カタールに向けた4年半よりも明確に持っていくべきだろう。
ただ、今回の鎌田大地や三笘薫、前田大然などがそうだったように、初期の招集メンバーがそのまま本大会に行くことは稀で、早期に固めすぎるリスクもある。
継続性と柔軟性をどうバランス良く組み合わせ、本大会で最大のパワーを出せるチームにしていくか。それをイメージすることで、”ノックアウトステージに勝てるチーム”のプランニングは、これまでより明確に描けるのではないだろうか。(文・河治良幸)
写真提供:getty images