情報統制を超えて溢れ出る熱をキャッチせよ

COLUMNミムラユウスケの本音カタール 第4回

情報統制を超えて溢れ出る熱をキャッチせよ

By ミムラユウスケ ・ 2022.10.22

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日本代表は“貝”になりつつある。だからこそ、ここから先が楽しみだ。


貝になったままなのか。それとも、そこからあふれ出すような「何か」を感じさせるようなチームになっていくのか。


9月のドイツ遠征を境に、あきらかに変わったことがある。それが森保一監督からの発信量だ。


発信量を控え出した森保監督、情報戦はいよいよ本大会モードに


森保監督は記者会見の場でも、投げかられる質問に対して、かなり言葉の量を用いて答えてきた指揮官だ。1つの質問に対する回答「量」は、近年の代表監督のなかでもトップクラス。「量」だけではなく、取材に応じた「回数」も群を抜いている。記者による囲み取材(*記者会見よりもフランクな形で取材に応じる機会)にも継続して応じてきた。特にこの2年は、コロナの影響もあってオンライン形式にすることで、“beforeコロナ”の時代よりも多くの記者に応えてきた。


ただ、9月のドイツ遠征を機に、その機会はめっきり減った。もちろん、ドイツから日本に帰国したタイミングやJリーグ、天皇杯の試合後、取材に応じてはいるのだが、FIFA ワールドカップのメンバー発表と本大会にむけて少しずつ、発信量を抑えようとする感じが伝わってくる。実際、9月の代表合宿中にはチーム内でも情報漏洩に気をつけるような呼びかけがあったという。そうしたことからも、FIFA ワールドカップが近づいてきていることが実感できる。これは実に真っ当なことだ。


団結力に秀でたロシア大会の日本代表


一方で、情報統制を超えて漏れ伝わってくるような想いやチームワークは、本大会での成績を左右する大事な要素になり得る。


筆者は記者としては日本が出場した過去6回のFIFA ワールドカップのうち直近3回を取材、その前の2大会(2002年の日韓大会と2006年のドイツ大会)も現地で試合を観戦した。その上でこう感じる。ロシア大会の日本代表は歴代で最も団結していたチームだった、と。


その象徴が、当時のキャプテン長谷部誠だった。


例えば、ロシア大会前の長谷部は、こんな風に語ることが多かった。

「僕はキャプテンとしては何も特別なことはやっていません」

「(チームに働きかけるようなアクションを)得意とする選手がうちのチームにはたくさんいますから、自分のやることは多くはないです」


だが4年前、大会前から彼はこんな風に想いを吐露していた。


「僕は、あとになって『これをやっておけば良かった』なんてことはないようにしたいんですよ!」


それはメディアの人間だけではなくて、長谷部とともに戦っているチームメイトも感じていたようで、川島永嗣は大会後に出版された著書「耐心力」でこう記している。


「今回のW杯中は、それにプラスして彼(*長谷部のこと)自身が一生後悔しない選択をしようとしているようにも見えた。いつもと少し違う雰囲気があった」


それほどの熱い想いとともに大会に臨んでいたからだろうか。長谷部は、それまでであれば伏せていたようなことをメディアに明かすことがあった。話さずにはいられないという熱と、チームの固い絆に対する誇りが、彼の口を開かせていたのかも知れない。


わざわざ口にしたミーティングの内容


例えば、グループリーグ最終戦となったポーランドとの試合でのこと。さらに失点を重ねないことがグループリーグ突破の近道だと判断した西野朗監督の指示によって、日本代表は「時間稼ぎ」と揶揄されるようなパス回しをしつつ、あえて攻めずに試合を終えた。その是非について、日本国内では意見が割れた。


試合の翌日、日本代表にかかわるすべてのスタッフが集められ、異例のミーティングが行なわれた。西野監督が自らの立てた方針について謝罪したのだ。彼の指示に従った選手達のプライドや意志を傷つけたり、一部からの批判を浴びる状況を作ってしまったことに責任を感じてのことだった。


すると、今度は長谷部や長友佑都が口を開いた。チームの目標が世間からの批判を受けないことではなく、グループリーグを突破する事だったことを再確認した上で、西野に謝辞をのべるとともにチームに団結を訴えたのだ。


(スピーチをした長友が目に涙をうかべながらも熱い想いを口にしたことまでは、流石に明かさなかったものの)長谷部はミーティングの直後に、やり取りの概要をわざわざ記者の前で明らかにしたのだった。


情報の管理にはどの選手よりも気を配っている長谷部が、わざわざ詳細を語った。それがキーだった。


その背景には日本国民の誤解を解きたいという意向もあったかも知れないが、それ以上にチームの団結について話さずにはいられない熱が長谷部の言葉の端々と、その力強い表情からあふれているように感じた。


スペイン、ドイツとやり合うために求められる要素とは


結局のところ、チームの団結や意志というのは、抑えようとしても、自然と漏れ伝わってくるものなのだろう。


思えば、あの大会、日本の最終戦となったベルギーとの試合のラストプレイもそうだ。最後まで得点を狙いにいったのは、日本人のサッカー観や個人戦術のレベルが関係していただけではなく、「勇気を持って、自分たちからアクションを起こしていく」という『想い』や『意志』がチームの中で共有されていたからでもあった。


試合結果は残念なものだったが、現時点での日本代表のベストマッチの一つとして日本人はもとより、海外の人たちからも記憶されてるのは、目には見えない熱が日本代表からにじみでていたからだろう。


ひるがえって、現在の日本代表はどうだろうか。開幕に向けて森保監督からの発信量が減ってきていることは、FIFA ワールドカップに情報戦の要素が含まれているという観点からも正しい。


ただ、それでもなお、そこからあふれ出てくるものがあるかどうか。取材する側としてはそこに期待をしている。


何しろ、今大会のグループリーグには、ドイツ、スペインという優勝経験国が2チームもいる。仮に日本の戦術面の整備やコンディショニングが完璧に近い状態であっても、簡単には勝てない相手だ。メンタル面の万全な準備や高いチームワークが備わった時、ようやく勝負ができる。それくらいの地力の差はあると思っていた方がいい。


逆に言えば、それらがそろった時、勝機は見えてくる。


これから本大会にむけて、メンバー選考や戦術についての話題が多くなってくるだろうが、選手や監督の何気ないコメントや表情から、チームワークがどうなっているのかを読み取ろうとしてみて欲しい。試合をより深く、堪能できるはずだ。


写真提供:getty images

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケ

2009年1月にドイツへ移住し、サッカーブンデスリーガを中心にヨーロッパで取材をしてきた。Bリーグの開幕した2016年9月より、拠点を再び日本に移す。現在は2か月に1回以上のペースでヨーロッパに出張しつつも、『Number』などに記事を執筆。W杯は2010年の南アフリカ大会から現地取材中。内田篤人との共著に「淡々黙々。」、近著に「千葉ジェッツふなばし 熱い熱いDNA」、「海賊をプロデュース」がある。

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