つなぐべきか、つながざるべきか。
それがドイツ戦のテーマになるはずだ。より丁寧に表現するならば、ドイツ戦で、相手が前線から強烈なプレスをかけてくる状況で、日本はGKから丁寧にパスをつないでいくべきなのか、リスクを回避してロングボールを積極的に取り入れていくべきなのか。
その最適解について考えるためには、まずドイツ代表の特徴を理解しないといけない。
ドイツサッカーの根底にはカウンターがある
ドイツ代表の基本コンセプトを日本人のなかでもっとも上手く表現したのは、Legends Stadiumのインタビューに答えてくれた田中碧の表現だ。彼は以下のように表現している。
「スペインはボールを『握りたい』というチームですけど、ドイツは『相手に(ボールを)握らせたくない』チーム」
ちなみに、ペップ・グアルディオラは、バイエルン・ミュンヘンの指揮をとっていた時期に、ブンデスリーガとドイツサッカーをこんな風に表現している。
「根底にあるのはカウンターのサッカーだ」
このような前提を踏まえたうえで、今回のFIFA ワールドカップ 2022のメンバー発表記者会見で、ドイツのハンジ・フリック監督が語った言葉に耳を傾けると、彼らのプランが浮かび上がってくる。
「我々のオフェンスに目を向けると、複数のポジションをこなせる選手たちを多く用意している。それは、相手にしっかりプレッシャーをかけられるように、よく走れて、相手のボールに対してアタックできる選手を必要としているからだ」
ここまで読めば、ドイツ代表がどのようなサッカーをしてくるかがイメージできるのではないだろうか。
彼らは相手(今大会の初戦では我々日本代表のこと)にボールを持たれる時間を極力減らそうとすることを第一に考えてくるはずだ。
さて、つなぐべきか、つながざるべきか
日本がロングボールを蹴って奪われて相手ボールになるのも好ましくはないのだが、だからといって、GKからの丁寧なビルドアップを狙ったところでドイツ代表のハイプレスの餌食になれば、すぐに大ピンチが訪れるのは目に見えている。だからこそ、丁寧にパスをつなぐべきか、つながざるべきか、がテーマになるわけだ。
その答えを探るうえで、選手たちのリアクションに耳を傾けてみよう。まず、相手のハイプレスをもろに受けるのは、GKやセンターバックの選手である。そこで、先のフリック監督のコメントについてどう感じているのかをキャプテンの吉田麻也にたずねたところ、こんな答えが返ってきた。
「前線はもちろんプレス、ゲーゲンプレス的(*ボールが相手ボールに渡ったときに即座に奪いかえためのプレス)なプレスをかけてくるのは間違いないと思うんです。だけど、同時に明確なセンターフォワードが……ヴェルナーが怪我したってというのもあって、定まってないっていうのも、もしかしたらあるんじゃないかなと今、聞いてパッと思いましたけど、まあ僕にはわかりません(苦笑)」
吉田が指摘するとおり、フリック監督の言葉の背景には、ティモ・ヴェルナーに加えて、マルコ・ロイスやフロリアン・ヴィルツを怪我で欠くことになってしまったことも関係しているのかもしれない。記者会見に臨む監督が、マイナスなポイントではなく、自分たちのプラスの側面について語るというのは当然のことだからだ。
ただ、吉田はこうも話している。
「ずっと守備だけをするというのは、間違いなく『厳しい』という部分はあるので。うちにはつなげる選手が揃っていますし。ずっと言っていますけど……どこまで現実的にプレーするか、どこまで勇気をもってつないでいくかの理想と現実のバランスがすごく大事になってくるなと思います」
キーマンとして板倉滉を指名したい
相手のハイプレスの餌食になるのは避けつつも、相手の集中力が落ちた瞬間、相手のプレス時の連係にほころびが見えた瞬間を見逃さずに、丁寧にパスをつなごうとするとトライすることが大事になりそうな気配だ。
では、その判断が的確にできる日本代表の選手は誰だろうか。
怪我から復帰しようとしている板倉滉がその筆頭だと筆者は考えている。
彼は今シーズンのブンデスリーガでパス成功率が93.3%で6位につけていることからもあきらかなように「パスをつなぐ能力」に秀でたセンターバックだ。しかも、彼の所属するボルシアMGはブンデスリーガのなかでもまれにみるようなポゼッションサッカーを展開しており、怪我をする前の板倉はセンターバックを主に務めていながらも、まるでボランチのように高いポジションをとっていた。当然、相手も板倉のパス出しを警戒してきていたが、それでも縦パスを供給し続けていた。実際、負傷前までの時点ではファイナルサードへのパス数でも上位争いを繰り広げていたからだ。
ボランチもセンターバックも遜色なくこなせる板倉は、ビルドアップにかかわる仕事について、今年の夏にこのように語っていた。
「以前は無理してでも、パスをつなごうとするタイプだったと思います」
しかし、昨シーズンはブンデスリーガ2部でベストイレブンに選ばれ、前半戦の最優秀センターバックにも選ばれるほどの活躍をシャルケで見せていたが、そこで学んだことがあったという。
「ただ、チームスポーツだから、そういう考え(*丁寧にパスをつないでビルドアップすべきだという考え)だけではダメ。相手のプレッシャーを受けて、どうしても上手くつなげない試合や時間帯はあります。『そういうこともある』と思えるようになったのは良かったかもしれないです」
そのうえで、以下のように考えられるようになったという。
「そもそも、『後方からしっかりつないでいくのは難しいかな』というときは、後ろから見ているとハッキリわかります。例えばドイツでは、試合序盤にお互いにプレスをかけて、ボールを取ったり、取られたりとガチャガチャする時間帯があるじゃないですか。その状況が落ち着くまでは、思い切ってロングボールを蹴ってみる。しっかりビルドアップをしようとする意志はみんなに持ってほしいのですが、臨機応変な状況判断ができるようになってきたかなと思います。
それに、前線に蹴って前の選手が競り勝てるのであれば、一番手っ取り早いわけで。その判断は以前より良くなったというか、柔軟に考えてやれるようになったかもしれませんね」
臨機応変な対応が判断が出来るかどうか
試合が始まれば、監督の指示はごく一部しか伝わらない。ましてFIFA ワールドカップのような大会となれば、大観衆の声援により、ピッチ上での選手間の声さえとおりづらくなる。
そういうときに重要になるのが、板倉のいうような「臨機応変な判断」であり、それは森保一監督が就任してから一貫して選手たちに求めてきたものである。
11月17日のカナダ戦では板倉が先発することを森保監督が明言していたのだが、その試合にむけて板倉は頼もしい言葉を残していた。
「やはり、センターバックで落ち着いてボールを持てるようにしてあげないと。(具体的には)センターバックが周りを見てボールを持つことが大事かなと。周りを見れていたら前の選手もすごく動きやすいし、実際に動いてくれるので。『常に出せますよ』というところを見せておきたい」
ここまでくれば、「ボールを狩りに来ようとするドイツを相手に、ビルドアップで丁寧にパスをつなぐべきか、つながざるべきか」という問いの答えも、おわかりだろう。
丁寧につなぎたいというマインドは根底に持ちつつも、無理はせず、長いボールを取り入れることを決してためらってはいけない。ただ、その長いボールを蹴る際に、いかにして前線の選手とのタイミングを合わせていくかを常に考えておく。
これが大事なのだ。そう考えるとやはり、ドイツ代表相手に引き分け以上の結果を残すためのキーマンは板倉になるのではないだろうか。そして、そのための第一歩が、板倉が9月に負傷してから初めてスタメンに名を連ねることになったカナダ戦だ。(文・ミムラユウスケ)
写真提供:getty images