手が届きそうなところにいる相手と戦うときこそ、より慎重に、より思慮深く戦わないといけない。それが決勝トーナメントの1回戦のクロアチアとの試合に向かう日本代表が考えるべきことだ。
クロアチアのコアは中盤の3人、高い能力と膨大な経験値
4-3-3のフォーメーションで挑んで来るクロアチアの強さの源は、中盤の3人の質の高さにある。彼らは相手の戦い方をみて、自分たちのプレーを変えられるだけの柔軟性と頭脳を持ち合わせている。
彼ら3人の強みを理解するために、それぞれの代表戦の出場試合数を見てみると、強烈なインパクトがある。ブロゾヴィッチが80試合、コバチッチが87試合、そしてモドリッチが158試合で、合計325試合になる驚異の経験がある。彼らが所属しているのはそれぞれ、インテル・ミラノ、チェルシー、レアル・マドリー。いずれもチャンピオンズリーグで優勝した経験のあるクラブであり、ライバル争いの激しい環境でその戦いに勝ってきたのが彼らである。
手本とすべき選手、モドリッチは疲れ知らずの37歳
とりわけ、身長は174cmながらも5回もチャンピオンズリーグ優勝を経験しているモドリッチなどは、鎌田大地もお手本とする選手の一人として挙げている日本人の中盤の選手が現実的に目指せるレベルの最高峰に位置する選手である。195cmの体躯を誇るMFを目指せる日本人は限られているが、モドリッチのように、試合を読む力(サッカーIQと言い換えても良いかもしれない)、ボールをしっかりと止めて蹴る技術、豊富な運動量を誇る選手を目指すのは現実的だ(もちろん、彼ほどのレベルに到達するのは簡単ではないが)。
37歳のモドリッチのように経験ある選手たちスタミナがないことが多いのだが、そうではない。田中碧は彼らの強みをこのように言語化している。
「運動量も試合の最後に落ちないというか、走り切れる走力もあるので。自分たちがボールを握っても、走らされているという感覚はないくらいに走れる力がある。中盤の3人は技術的にもそうですけど、走力も素晴らしいものがあると思います」
あえて一対一での戦いは避けるべき
そんな百戦錬磨の選手たちがいる中盤に、日本がどのように対応するかが試合の行方を握ることになる。
一対一での対応を中心にすべきか、一対一で守るような局面を作らせないほうがよいのか。
日本の頭脳である田中は、FIFA ワールドカップ 2022 カタールにおける日本の戦いぶりについてこう表現している。
「(グループリーグと強豪相手の試合では)個人対個人の力の差を感じてはいます。もっと(一対一)でやりあったときのほうが『ここでもとれないのか。ここでもかわされるのか』となるはずですけど、そういうのをなかなか感じにくい試合展開であったので……」
例えば、スペイン対策を練習で取り組んでいた当初は、スペインの4-3-3に対して、日本は3-5-2の形で守ることを想定していた。こうなると、それぞれの選手のマッチアップが発揮する。ただ、最終的には5-4-1の形で守ることにした結果、相手のセンターバック2人に対しては前田大然が1人で対応することになったものの、それ以外では選手たちがスライドしながら対応していくことで、相手の良さを消していった。田中はこのように振り返っている。
「守ろうと思えば守れるとは思っています。戦い方を選べない悔しさもあるだろうし、特に前線にはボールを保持して存在感を出せる選手が多いので、そういう意味では悔しさはあると思うだろうし。でも、結果がすべてである以上、多少は捨てないといけないこともあるし。ただ、現時点ではそれが上手くいっているとは思います」
改めて『チームで闘うこと』の徹底を
確かに、クロアチアの中盤の選手たちは日本人では到底まねできないような、強さや高さや速さを兼ね備えているわけではない。
しかし、彼らはサッカーIQの高さから、相手の逆をつくプレーを得意としているし、隙を見逃さない狡猾さも兼ね備えている。
だからこそ、一対一で対応しようとすれば痛い目を見るリスクもはらんでいる。
そう考えると、中盤の守備のリーダーである遠藤航の言葉が説得力を帯びる
「個人の一対一で自分の良さを出していきたい想いはありますが、チームとしての戦い方をしっかり整理する方が大事だと思っています」
フィジカル的に到底かなわないと思わされるような選手がいるわけではない。スペインのように明確なスタイルを持っているわけでもない。だからこそ、一対一の局面でまともに渡り合えると日本が考えるのは間違いだ。
クロアチアの選手のすごさは、それ自体は目に見えないサッカーIQと運動力によって構成されている。目に見えないからといって勇敢になりすぎてはだめ。目に見えない力を警戒したうえで、個人としてではなくチームと戦う姿勢を貫くこと。それが百戦錬磨の選手たちをそろえた中盤を武器にしているクロアチアとまともに対峙できる唯一の手段であることを、決して忘れてはならない。(文・ミムラユウスケ)
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