ドイツ代表『サプライズ選出』の狙い、そして弱点は?

COLUMN木崎伸也のシュヴァルべを探せ 第4回

ドイツ代表『サプライズ選出』の狙い、そして弱点は?

By 木崎伸也 ・ 2022.11.13

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 11月11日、ついにカタールW杯に臨むドイツ代表26人が発表された。


 日本のメディアでも大きく報じられた通り、2014年W杯で決勝ゴールをあげたマリオ・ゲッツェ(30歳)の復帰が大きなサプライズだった。



サプライズ招集となったゲッツェの役割は?


 ゲッツェの最大の武器は正確なトラップとパスによって、ゲームのリズムを変えられることである。相手の裏をかくプレーをできるのだ。


 本来、この役割はレバークーゼンのフロリアン・ヴィルツ(19歳)が期待されていたが、前十字靭帯断裂からの復帰が間に合わなかった。ハンジ・フリック監督はその代わりとして、今季フランクフルトに移籍して右肩上がりに調子を上げているゲッツェに目をつけたのだろう。


 ドイツは9月のネーションズリーグのハンガリー戦で、人数をかけてブロックをつくった相手に攻めあぐね、0対1で敗れてしまった。おそらくフリック監督は似た状況に陥ったときに、ゲッツェを投入するだろう。


 小さなサプライズとなったのは2人のストライカー、ブレーメンのニクラス・フュルクルク(29歳)とドルトムントのユスファ・ムココ(17歳)の代表初招集である。



代表初招集組の1人、フュルクルクは日本戦での起用もある


 フュルクルクは身長188cmの空中線に強いFWで、ドイツ代表待望の古典的な9番タイプだ。昨季はドイツ2部で19得点をあげてブレーメンの1部昇格の原動力になり、今季もドイツ1部で10得点をあげて得点ランキングで2位につけている。


 フリックはゲッツェと同様に、フュルクルクをジョーカーとして考えているだろう。もしW杯初戦で日本がリードして終盤を迎えたら、フュルクルクがセンターFWの位置に投入されるのではないだろうか。2トップに変更して、フュルクルクとミュラーを組ませる可能性もある。


 スポーツビルト誌は日本代表を取り上げた記事の中で、「背がそれほど高くなく、クロスに対して慌てやすい」と指摘した。その弱点を突くのに屈強なフュルクルクはうってつけのFWである。日本としてはクロス対応の準備を進めておいた方が良さそうだ。


 ムココも今季ドルトムントでレギュラーの座を掴み、現在6得点。ついに1部の舞台で輝きを放っている。16歳28日でゴールを決めてブンデス史上最年少得点記録を更新したときは神童と騒がれたが、それ以降はレギュラーには定着できず苦しんでいた。だが今季、アーリング・ハーランドのマンチェスター・シティ移籍と、新加入のセバスティアン・ハラーの病気療養で訪れたチャンスを掴み、W杯メンバー入りを果たした。


 今回、もしティモ・ヴェルナー(26歳)が足首の負傷で離脱していなければ、ムココはメンバーに入らなかったと思われる。逆に言えば、ラッキーボーイになるかもしれない。


 ムココは俊敏性に優れており、長身DFとのマッチアップの方が良さが出やすい。決勝トーナメントでベルギーやクロアチアと対戦したときのオプションとして見られているに違いない。



本職がキミッヒのみの“守備的ボランチ”はドイツの弱みとなる?


 個人的に驚いたのは、「6番タイプ」(守備的ボランチ)がヨシュア・キミッヒ(27歳)1人しか呼ばれなかったことだ。


 DF登録のマティアス・ギンター(28歳)が一応「6番」をできるとはいえ、本職ではない。


 キミッヒが出場停止や負傷で離脱した場合、ドイツは本職の「6番」なしで戦うことになる。ボルフスブルクのマクシミリアン・アーノルド(28歳)やボルシアMGのユリアン・ヴァイグル(27歳)を呼んでおけば良かったということにならなければいいが……。


 ただ、「6番」のバックアップを置かなかったことで1つ席が空き、当落線上にいたドルトムントのカリム・アデイェミ(20歳)がメンバー入りできた。


 アデイェミが得意とする右ウイングの位置には、ニャブリとホフマンが選ばれており、大会を通して出番はないかもしれない。それでもドイツで開催されるユーロ2024に向けて、若手をW杯に帯同させることに大きな意味がある。


 ドイツはいろんな状況に対応できるように、異なる個性を持つメンバーを選んできた。つまり、試合中に攻撃の形を変えられるということだ。


 日本としては90分の中でドイツがどう変化するか、注視しながら戦わなければならない。

写真提供:getty images

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木崎伸也

木崎伸也

1975年1月3日、東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了後、2002年夏にオランダに移住、翌年からドイツを拠点に日本人サッカー選手を中心とした取材を行う。2009年に帰国した後も精力的に活動し『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿、著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)などがある。近年は小説『アイム・ブルー』の執筆や漫画の原作、2018年10月よりサッカーカンボジア代表のスタッフ等、活動の場を広げている。

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