「狙うはマキシマム」トーナメントに強いドイツ代表の自信

COLUMN木崎伸也のシュヴァルべを探せ 第5回

「狙うはマキシマム」トーナメントに強いドイツ代表の自信

By 木崎伸也 ・ 2022.11.19

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ドイツ国内では、よくドイツ代表は「トーナメントチーム」(Turniermannschaft)と表現される。


 たとえ前評判が低くても、トーナメントになると異常な強さを発揮するという意味だ。ちなみに日本でよく使用される「ゲルマン魂」に相当する単語はドイツ語にはない。おそらくかつての日本サッカー関係者は、「トーナメントチーム」としての勝負強さを「ゲルマン魂」と名付けたのだろう。


前評判が低い時にこそ進化を発揮する


 ドイツサッカー協会の雑誌『DFB Journal』の最新号で、ハンジ・フリック監督は目標についてこう語った。


「過去2つのトーナメント(2018年W杯と2020年EURO)で、ドイツが平均を下回っていたのは事実だ。そのあとたくさんの好試合があったが、9月にハンガリーに0対1で敗れ、さらにイングランドと3対3で引き分けたことで勢いにブレーキがかかった。私たちがカタール大会の大きな優勝候補でないことは確かだろう」


 しかし、上に書いたように、前評判が低いときこそ強さを発揮するのが「トーナメントチーム」である。フリックは虎視眈々と頂点を狙っている。


「私たちはマキシマム(最大)を目指す。マキシマムというのはW杯のタイトルだ。ただし、私たちが楽しみにしているのは結果ではなく、どのようにプレーするかだ。自分たちが持っているポテンシャルをピッチで最大限発揮し、選手が全力を尽くすことを期待している。監督としてそれを手助けしたい」



相手にミスを強いるサッカー


 では、ドイツはカタールの地でどのようなプレーを見せようと考えているのか? フリックはプレースタイルについて次のように語った。


「私たちは相手にミスを強いるサッカーをしたい。その方法にはいろいろあり、対戦相手によって変化させる。ハイプレスを仕掛けることもあれば、やや後ろに下がることもある。大事なのは自分たちがボールを持っているときのプランがあり、どのスペースをどう使うかを理解していることだ」


「明確な意図を持ったアクションと、正確なパスで相手を崩す。高い強度と攻撃を完結させる集中力が必要だ。そのために鍵になるのは、ボールロストを最小限に留めること。いつリスクを冒すと意味があり、いつだと無意味なのか、賢く判断しなければならない。それをすべて実行できれば、W杯で上位に勝ち上がっていけるだろう」



献身性を重視するフリック監督


 また、フリックは自己犠牲の精神も重視している。例に出したのは2014年W杯のときのメルテザッカーとケディーラの振る舞いだ。


「決勝トーナメント1回戦のアルジェリア戦後、私たちはパー・メルテザッカーに対して、守備を修正するために先発から外すと告げた。彼としても思うところはあったはずだ。だが彼は『OK。もし自分を必要してくれるなら、まだここにいたい』と答えた。サミ・ケディラは(決勝開始前のウォーミングアップで負傷したことを受けて)チームのために決勝という大舞台でのプレーを諦めてくれた。尊敬に値する行為だ」


 現ドイツ代表で、そのお手本になっているのがベテランのミュラーである。フリックはミュラーの「Day 1思考」(毎日が始まりの日と考える)を気に入っているという。


「トーマス・ミュラーは(Amazon創業者の)ジェフ・ベゾスが唱える『Day 1思考』を持っている。恋に落ちた初日、就職初日、入学初日。初心を常に忘れないということだ。彼はこれまでに多くを経験してきたが、いまだに毎日燃え上がっている」


 フリックはチーム状況に絶対的な自信を持っている。


「今、ドイツ代表の雰囲気は素晴らしい。チームにエネルギーを与えられる選手ばかりだ。トレーニングの質が、試合の質を決定する。だから私たちは練習で全てを出し切ることを求めている。練習で全員が限界を超えなければならない」


 全員の献身性を武器にプレッシングとゲーゲンプレッシングを激しく仕掛けるエネルギーに満ちたフットボールが、新たな歴史をつくるかもしれない。


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木崎伸也

木崎伸也

1975年1月3日、東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了後、2002年夏にオランダに移住、翌年からドイツを拠点に日本人サッカー選手を中心とした取材を行う。2009年に帰国した後も精力的に活動し『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿、著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)などがある。近年は小説『アイム・ブルー』の執筆や漫画の原作、2018年10月よりサッカーカンボジア代表のスタッフ等、活動の場を広げている。

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