今晩10時、日本はカタールW杯の初戦を迎える。
対戦相手はW杯4度優勝のドイツ。ブックメーカー『ウィリアムヒル』のオッズはドイツ勝利1.50倍、ドロー4.20倍、日本勝利6.50倍となっており、圧倒的にドイツ有利と見られている。
だがサウジアラビアがアルゼンチンに勝利したように、チャンスはゼロではないはずだ。
大事なのは「プレスに行くときと行かないときの基準」
言うまでもなく、実力差を埋めるうえで大切なのは「どう戦うか」だ。
選手たちのコメントをもとに、対ドイツの戦術を大胆に推測すると次のようになる。
・守備時の陣形は4−4−2。
・ハイプレスに行きすぎない。
・相手がセンターサークルあたりの高さに侵入してきたらプレスをかける。
・サイドに追い込んでボールを奪う。
・プレスに行くときと行かないときの基準を持つ。
・ボールを奪ったらサイドで待っている前田大然(もしくは伊東純也)にロングパス。
・鎌田大地、久保建英、ボランチのうち少なくとも1人がゴール前に走り込んで、サイドからのクロスに合わせる。
ここで最も大事なのは「プレスに行くときと行かないときの基準」だろう。
9月のドイツ遠征の際、この重要性を選手たちがたびたび口にしており、アメリカ戦の前半に見事それがうまくいった。
「いつプレスに行くか」の基準としては、「相手がバックパスをしたとき」、「相手が横パスを出したとき」、「相手が後ろ向きにボールを持ったとき」などが一般的だ。おそらく森保ジャパンもこれらをベースにしているだろう。
さらにそれに加え、ドイツ代表DFの誰のどちらの足を狙うかまで定めているはずだ。たとえば右サイドバックの出場が見込まれるティロ・ケーラーは、ライン際に追い込まれるとGKにバックパスすることが多い、というように。
闘う姿勢が重要になる
また、プレスへ行くべきでないときに止まれれば、陣形に穴ができずにすむ。
日本人選手が守備に徹したときのディフェンスの固さは、東京五輪のスペイン戦や今年6月のブラジル戦で証明済だ。ほとんど攻撃できなかったという課題は残ったものの、前者は115分、後者は77分まで失点0に抑えた。
おそらく森保一監督はミーティングにおいて、闘う姿勢の大切さをあらためて訴えるのではないだろうか。ブラジル戦のときのように、ファールぎりぎりのプレーでドイツを止めに行くはずだ。日本のW杯史上、最もファールが多い試合になるかもしれない。
ただしそれでも後半に入ると、自陣深くに押し込まれる時間が長くなるはずだ。特に危険なのが「魔の時間」である。
森保ジャパンの「魔の時間」は後半8分以降
日本の過去のW杯を振り返ると、全29失点のうち22点が後半に喫したものだった(75.9%)。
さらにデータを細かく見ると、日本はW杯で後半1分〜7分に失点したことはなく、裏を返せば後半の全失点はそれ以降にしたということだ。日本にとっての「魔の時間」は後半8分以降と言えるだろう。
後半に失点しやすいのは、おそらく体だけでなく脳の疲労も関係している。2006年W杯・オーストラリア戦のラスト8分間の3失点、2014年W杯・コートジボワール戦のドログバ出場後の2失点、そして2018年W杯・ベルギー戦の3失点……。悪夢として記憶されているそれらのゴールは、すべて後半に決められたものだ。
今回のドイツ戦も後半の「魔の時間」にがくっとパフォーマンスが落ちることを想定しておいた方がいいだろう。
対策として考えられるのは5バックへの移行だ。センターバックを投入して4−2−3−1から5−4−1に変更することで、組織崩壊を事前に防ぎたいところだ。
ドイツ戦は「我慢」がテーマ
森保監督は細かい約束事を示していなかったため、選手たちはずっと不満を溜め込んでいた。しかし6月のチュニジア戦の惨敗を機に、ついに選手たちが声をあげる。遠藤航は著書『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』の中で、チュニジア戦後のバスの中で激論が起き、遠藤が森保監督と面談したことを明かした。選手たちの想いは届き、9月のドイツ遠征で森保監督は以前より細かい映像をチームミーティングで示すようになった。
選手たちにも変化があった。ドイツ遠征では連日のように選手ミーティングを開き、心構えや戦術の細部を話し合ったのだ。付け焼き刃なところは否めないが、最低限の約束事はギリギリ間に合った。
とにかく粘り強い守備をできなければ勝負にならない。日本にとってドイツ戦は「我慢」がテーマの試合になる。(文・木崎伸也)
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