「戦う姿勢」と「粘り強い守備」ドイツとの実力差を埋めるためにやるべきこと

COLUMN木崎伸也のシュヴァルべを探せ 第7回

「戦う姿勢」と「粘り強い守備」ドイツとの実力差を埋めるためにやるべきこと

By 木崎伸也 ・ 2022.11.23

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 今晩10時、日本はカタールW杯の初戦を迎える。


 対戦相手はW杯4度優勝のドイツ。ブックメーカー『ウィリアムヒル』のオッズはドイツ勝利1.50倍、ドロー4.20倍、日本勝利6.50倍となっており、圧倒的にドイツ有利と見られている。


 だがサウジアラビアがアルゼンチンに勝利したように、チャンスはゼロではないはずだ。



大事なのは「プレスに行くときと行かないときの基準」


 言うまでもなく、実力差を埋めるうえで大切なのは「どう戦うか」だ。


 選手たちのコメントをもとに、対ドイツの戦術を大胆に推測すると次のようになる。


・守備時の陣形は4−4−2。

・ハイプレスに行きすぎない。

・相手がセンターサークルあたりの高さに侵入してきたらプレスをかける。

・サイドに追い込んでボールを奪う。

・プレスに行くときと行かないときの基準を持つ。

・ボールを奪ったらサイドで待っている前田大然(もしくは伊東純也)にロングパス。

・鎌田大地、久保建英、ボランチのうち少なくとも1人がゴール前に走り込んで、サイドからのクロスに合わせる。


 ここで最も大事なのは「プレスに行くときと行かないときの基準」だろう。


 9月のドイツ遠征の際、この重要性を選手たちがたびたび口にしており、アメリカ戦の前半に見事それがうまくいった。


 「いつプレスに行くか」の基準としては、「相手がバックパスをしたとき」、「相手が横パスを出したとき」、「相手が後ろ向きにボールを持ったとき」などが一般的だ。おそらく森保ジャパンもこれらをベースにしているだろう。


 さらにそれに加え、ドイツ代表DFの誰のどちらの足を狙うかまで定めているはずだ。たとえば右サイドバックの出場が見込まれるティロ・ケーラーは、ライン際に追い込まれるとGKにバックパスすることが多い、というように。



闘う姿勢が重要になる


 また、プレスへ行くべきでないときに止まれれば、陣形に穴ができずにすむ。


 日本人選手が守備に徹したときのディフェンスの固さは、東京五輪のスペイン戦や今年6月のブラジル戦で証明済だ。ほとんど攻撃できなかったという課題は残ったものの、前者は115分、後者は77分まで失点0に抑えた。


 おそらく森保一監督はミーティングにおいて、闘う姿勢の大切さをあらためて訴えるのではないだろうか。ブラジル戦のときのように、ファールぎりぎりのプレーでドイツを止めに行くはずだ。日本のW杯史上、最もファールが多い試合になるかもしれない。


 ただしそれでも後半に入ると、自陣深くに押し込まれる時間が長くなるはずだ。特に危険なのが「魔の時間」である。



森保ジャパンの「魔の時間」は後半8分以降


 日本の過去のW杯を振り返ると、全29失点のうち22点が後半に喫したものだった(75.9%)。


 さらにデータを細かく見ると、日本はW杯で後半1分〜7分に失点したことはなく、裏を返せば後半の全失点はそれ以降にしたということだ。日本にとっての「魔の時間」は後半8分以降と言えるだろう。


 後半に失点しやすいのは、おそらく体だけでなく脳の疲労も関係している。2006年W杯・オーストラリア戦のラスト8分間の3失点、2014年W杯・コートジボワール戦のドログバ出場後の2失点、そして2018年W杯・ベルギー戦の3失点……。悪夢として記憶されているそれらのゴールは、すべて後半に決められたものだ。


 今回のドイツ戦も後半の「魔の時間」にがくっとパフォーマンスが落ちることを想定しておいた方がいいだろう。


 対策として考えられるのは5バックへの移行だ。センターバックを投入して4−2−3−1から5−4−1に変更することで、組織崩壊を事前に防ぎたいところだ。



ドイツ戦は「我慢」がテーマ



 森保監督は細かい約束事を示していなかったため、選手たちはずっと不満を溜め込んでいた。しかし6月のチュニジア戦の惨敗を機に、ついに選手たちが声をあげる。遠藤航は著書『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』の中で、チュニジア戦後のバスの中で激論が起き、遠藤が森保監督と面談したことを明かした。選手たちの想いは届き、9月のドイツ遠征で森保監督は以前より細かい映像をチームミーティングで示すようになった。


 選手たちにも変化があった。ドイツ遠征では連日のように選手ミーティングを開き、心構えや戦術の細部を話し合ったのだ。付け焼き刃なところは否めないが、最低限の約束事はギリギリ間に合った。


 とにかく粘り強い守備をできなければ勝負にならない。日本にとってドイツ戦は「我慢」がテーマの試合になる。(文・木崎伸也)


写真提供:getty images

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木崎伸也

木崎伸也

1975年1月3日、東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了後、2002年夏にオランダに移住、翌年からドイツを拠点に日本人サッカー選手を中心とした取材を行う。2009年に帰国した後も精力的に活動し『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿、著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)などがある。近年は小説『アイム・ブルー』の執筆や漫画の原作、2018年10月よりサッカーカンボジア代表のスタッフ等、活動の場を広げている。

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