日本戦後ドイツ代表の混乱が深刻化、初戦敗戦のダメージは甚大

COLUMN木崎伸也のシュヴァルべを探せ 第8回

日本戦後ドイツ代表の混乱が深刻化、初戦敗戦のダメージは甚大

By 木崎伸也 ・ 2022.11.27

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 やはりFIFAワールドカップにおいて初戦はとてつもなく重要である――。日本代表に1対2で敗れたあとのドイツ代表の混乱ぶりを見て、それを再認識した。



ギュンドアンが不満を露呈


 まずドイツ代表のチーム内で勃発したのは、責任のなすり合いだ。


 ボランチとして後半22分まで出場したイルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)は試合後、国営放送のインタビューでこう不満をもらした。


「ボールに対しての自信が足りなかったのではないか。ボールを受けるために動く、パスを要求するといったことができていなかった。特に後半は長いボールに頼り、いとも簡単にボールを失ってしまった。ボールを受けたがらない選手がいたと感じたんだ」


 FIFAの公式スタッツ(https://www.fifatrainingcentre.com/en/fwc2022/post-match-summaries/post-match-summary-reports.php)を見ると、ギュンドアンから他の攻撃陣へのパス本数は次のようになっていた。


ギュンドアン→キミッッヒ 7本

ギュンドアン→ニャブリ 7本

ギュンドアン→ムシアラ 7本

ギュンドアン→ミュラー 5本

ギュンドアン→ハフェルツ 1本


 この数字を見ると、ギュンドアンが「ボールを受けたがらない選手」と指摘したのはセンターFWのハフェルツに違いない。ギュンドアンから1本しかパスを受けていない!



ギュンドアンの勘違い?


 ただし、これはギュンドアンがただ単にハフェルツの動きを見られてなかった可能性もある。


 今回のFIFAの公式スタッツでは「パスを要求した回数」と「パスを要求して受けられた回数」のデータも取られており、日本戦におけるドイツの同ランキングは次のようになっていた。


1位ニャブリ 98回  34回(34.7%)

2位ハフェルツ 97回  17回(17.5%)

3位ミュラー 95%  25回(26.3%)

4位ムシアラ 93回  28回(30.1%)


 ハフェルツはチームで2番目にパスを要求しており、このデータからは積極的にボールを受けようとしていたことがわかる。だがそのうち17.5%しか受けられていない。その結果、ボールを受けたがらない印象を与えてしまったのかもしれない。



ノイアーも同調し、複数の対立軸が露呈


 また、ギュンドアンはDFたちにも苦言を呈した。


「2失点目はありえない失点だった。FIFAワールドカップにおいてこんなに簡単にゴールが決まったことがあっただろうか?」


 間違いなくこれはニコ・シュロッターベックのことだろう。浅野拓磨のドリブルに対して安易に体を寄せ、スピードで千切られてしまった。


 キャプテンのGKマヌエル・ノイアーも、ギュンドアンの指摘を認めざるをえなかった。


「イルカイに賛成だ。だが(誰に問題があるか)名前は言えない……」


 ビルト紙は「ベテランvs若手」、「攻撃陣vs守備陣」、「バイエルン勢vsドルトムント勢」という対立軸があると分析。初戦に負けたことで、チーム内に潜んでいた問題が一気に噴出した印象だ。



指揮官への批判も

 ハンジ・フリック監督への批判も、チーム内から漏れてきた。


 フリック監督は後半22分にギュンドアンを下げて、レオン・ゴレツカ(バイエルン)を投入した。これはゴレツカに気を遣った「忖度交代」だったのではないか?――チーム内からそんな批判の声があがっているとビルト紙は報じた。


 ギュンドアンは前半にPKを決め、後半にポスト直撃のシュートを放ったように、好パフォーマンスを見せていた。にもかかわらず下げたため、采配が疑問視されたのである。ビルト紙は「フリックはやさしすぎる?」と見出しをつけた。


 ドイツは11月27日(日本時間28時)にスペインと対戦するが、チームを立て直すのは簡単ではない。


 フリック監督は前日会見でこう語った。


「スペイン戦は私たちにとって、今大会における1つ目の決勝戦だ」


 初戦を落としたら終わり――。FIFAワールドカップ優勝4度のサッカー大国すらも、この法則から逃れることはできなそうだ。


写真提供:getty images

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木崎伸也

木崎伸也

1975年1月3日、東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了後、2002年夏にオランダに移住、翌年からドイツを拠点に日本人サッカー選手を中心とした取材を行う。2009年に帰国した後も精力的に活動し『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿、著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)などがある。近年は小説『アイム・ブルー』の執筆や漫画の原作、2018年10月よりサッカーカンボジア代表のスタッフ等、活動の場を広げている。

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