クロアチア戦を改めて振り返る。日本代表に欠けていたのは『勇気』と『対応力』

COLUMN木崎伸也のシュヴァルべを探せ 第10回

クロアチア戦を改めて振り返る。日本代表に欠けていたのは『勇気』と『対応力』

By 木崎伸也 ・ 2022.12.20

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 これまで日本代表が出場したW杯の試合において、クロアチア戦ほど評価が分かれるゲームはないのではないだろうか。


 PK戦を「運」と捉えれば、結果的に今大会で3位になったクロアチアに対して接戦を演じ、日本が戦った4試合の中でベストゲームだったという見方もできるだろう。


 一方、PK戦を練習可能な「技術」と捉えると、4人中1人しか決められなかったことを問題視するのも理解できる。PK戦を見越して、事前に準備できていたのだろうかと。「立候補制」というPKのキッカーの決め方すらも批判の対象になった。


勝機の薄いロングボールに固執


 PK戦が「運」か「技術」かはさておき、個人的に現場で観ていて最も気になったのが後半以降の「勇気の欠如」だ。


 前半は後方からのビルドアップでチャンスをつくれていたにもかかわらず、後半は突如としてつなぎを断念。日本はゴールキックやFKの際に、ことごとく前線へロングボールを蹴り込んだ。


 日本のセンターFWは前田大然で、64分からは浅野拓磨がプレーした。2人の身長は173cm。188cmのロブレンと185cmのグヴァルディオルに高さで挑むのは無理がある。


 75分から酒井宏樹(185cm)を右ウイングバックに入れて、ゴールキック時に酒井を前線に上げてそこに蹴り込み、事態が改善すると思われた。しかし、クロアチアの左サイドバック・バリシッチ(186cm)がうまく体を使ってファールをもらい、酒井の高さを無効化した。


 日本はロングボールを蹴っては相手に奪われ、また攻め込まれるという悪循環に陥り、時計の針が進むのを待つような状態になってしまう。まるで体力がつきてクリンチを繰り返すボクサーかのように――。



クロアチアの変化に対応し切れず


 なぜドイツ戦とスペイン戦であれほどの勇気を見せた日本が、これほどまでに弱気な状態に陥ってしまったのだろう?


 ただし、単に「勇気を持て」と言ってしまったら、ただの精神論になるだろう。何か理由があるはずだ。


 そこで今回、あらためてクロアチア戦の120分を分析すると、戦術的な問題点が浮かび上がってきた。次のW杯の教訓として、2つのポイントに注目したいと思う。


 1つ目は、相手の戦術変更への対応だ。


 クロアチアは前半の時点では、サイドにボールを運んだあともモドリッチやコヴァチッチがボールに近づき、さらにショートパスで崩そうとしていた。そのおかげで日本はサイドに相手を圧縮し、囲い込んでボールを奪うことができた。


 だが後半になると、クロアチアはサイドにボールを展開すると、すぐにクロスをあげるようになる。日本の「急造5バック」のクロス対応に問題があると見抜いたのだろう。


 日本の失点はまさにクロスからだった。55分、ロブレンがクロスを上げると、ペリシッチが伊東純也の前に入り込んでヘディングでゴールを決めた。


 クロアチアが後半に変えたのはこれだけではない。ビルドアップ時の中盤の配置も変えた。モドリッチとコヴァチッチが、前半以上にセンターバックの脇に降りるようになったのだ。


 前半、日本は前田、鎌田大地、堂安律、守田英正、遠藤航が5角形をつくり、巧みにクロアチアの4−1−4−1にプレスをかけることに成功していた。前田が相手アンカーのブロゾビッチを背中で隠し、鎌田と堂安が状況に応じて相手センターバックとサイドバックに圧力をかけ、彼らが前で出たら守田や遠藤がブロゾビッチをマークする。おもしろいように機能した。


 ところが後半に入ると、モドリッチとコヴァチッチが後ろに下がることで、日本のプレスは無効化されてしまう。鎌田と堂安がずっとフレッシュでいられたら挽回できたかもしれないが、体力には限りがある。日本はこの問題を修正できず、簡単にサイドにボールを送られ、次々にクロスを放り込まれた。


 63分にロブレンのクロスのこぼれからモドリッチに鋭いシュートを打たれ、66分にはブロゾビッチのクロスからブディミルに頭で合わされた。前者は権田修一がスーパーセーブで止め、後者は枠の外に外れたが、どちらも失点していてもおかしくない場面だった。


 いくら勇気を持って攻めようと思っても、相手に翻弄されたら、その気持ちも萎えかねない。クロアチアの変化する力に、日本はついていけなかった。



急造3バックの限界


 2つ目は、攻撃時における3バック(5バック)のポジション修正だ。


 日本が後半に入ってつなぎに臆した直接の原因は、相手がプレスの強度を上げたことにある。モドリッチが守田を、コヴァチッチが遠藤を、プリシッチが伊東を、クラマリッチが長友佑都をマークし、センターFWのペトコヴィッチが日本の3バックのボール保持者に圧力をかけにきた。


 ただし言い換えれば、3バック(冨安健洋、吉田麻也、谷口彰悟)の部分に関しては、必ず2人はフリーになっていたのだ。パスコースがないように見えたのは、3バックがしっかり距離を取り、角度をつくるという基本を、後半は疎かにしてしまったからだ。


 後半、日本の3バックは距離が近すぎ、クロアチアの「外ぎりのプレス」(ウイングバックへのパスコースを切りながらセンターバックに近づく)にはめられてしまった。日本はマイボールになった瞬間に、センターバック3人が機敏に配置を取っていれば、もっとボールをつなげたはずだ。



細部までこだわる準備も必要


 ただ、3人を責めるのは酷な部分がある。日本はこれまでほとんど5バックを採用しておらず、ドイツ戦前の4日間の非公開練習でも5バックは練習していなかった。森保一監督がミーティングでその可能性を伝えていたが、各自のイメージトレーニングだけでは細部を詰めるのは難しい。


 後半、クロアチアの選手たちが日本の動きをブロックして倒れ、ファールをもらおうとするプレーが散見された。ボールに対してプレーしておらず、本来であればクロアチアに笛が吹かれるべきだが、アメリカ人のエルファス主審は日本の方に笛を吹いた。


 それでも日本の選手たちは笛を吹かれた本人を除き、ほとんど抗議しようとしなかった。流れを変えるために、主審を取り囲んで抗議すべきだった。もしかしたら戦術的に翻弄され、細部にまで頭が回らなくなっていたのかもしれない。


 シュピーゲル誌が「計算されたカミカゼ」と名づけた奇策によって、日本はドイツ戦とスペイン戦でジャイアントキングを起こすことに成功した。だが、クロアチアのような変化する相手には、それだけでは通用しない。2026年W杯でベスト8の壁を越えるために、次は奇策だけでなく、計画的な準備にもこだわりたいところだ。(文・木崎伸也)


写真提供:getty images

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木崎伸也

木崎伸也

1975年1月3日、東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了後、2002年夏にオランダに移住、翌年からドイツを拠点に日本人サッカー選手を中心とした取材を行う。2009年に帰国した後も精力的に活動し『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿、著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)などがある。近年は小説『アイム・ブルー』の執筆や漫画の原作、2018年10月よりサッカーカンボジア代表のスタッフ等、活動の場を広げている。

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