8回目を迎えるFIFA女子ワールドカップがフランスで開催される。前回大会から24チームが参加、規模が拡大した女子サッカー最大のイベントだが、この4年間にその位置づけも大きく変わった。世界的に女子サッカーが定着し、競技レベルや人気が急激に伸びて来ている。特にスペインやオランダ、フランスといった男子サッカーの人気が定着しているヨーロッパ各国が、女子サッカーにも本腰を入れ始めた。
ここまでの7大会の実績で言えばアメリカが圧倒的に抜けていて、その後に中国や日本、ドイツ、カナダ、ノルウェー、スウェーデンといった顔ぶれが並ぶ。前回大会までは、どちらかと言えば政治的、教育的に競技環境が整っている国が勝っていた、という印象が強い。これらの国は第一回大会からほぼ全ての大会に出場している『伝統国』だ。
ところがFIFAランキング(3月29日現在)では、イングランド(3位)、フランス(4位)、オランダ(8位)、スペイン(13位)、イタリア(15位)など欧州勢の台頭が顕著だ。これらの国はW杯の出場が2~4回程度に留まる、女子サッカー界の「新興国」だ。なでしこジャパンがW杯を制した2010年代前半であれば、正直なところ、対戦して負けることはほぼなかった。パワーやスピードで劣っても総合力で上回ることができていたからだ。
2015年カナダ大会でオランダやイングランドと対戦した際には、苦戦こそしたものの、まだなでしこジャパンに分があった。だが、ここ最近の欧州勢との対戦を見ると、勝利することはもちろん、対等にやり合うことも困難になってしまっている。3月と4月に行われたフランスやイングランドとの試合では防戦一方となる時間も多かった。なでしこの世代交代や弱体化を指摘する声もあるが、以前は圧倒的な強さを誇っていたアメリカも直近の試合でフランスに破れ、イングランドに引き分けられている。ヨーロッパ各国のレベルアップを素直に認めるべきだろう。
実力と共に人気面でも目覚ましい進歩を見せている。例えば、リヨンとバルセロナの間で行われたUEFA女子チャンピオンズリーグ決勝は第3国であるハンガリー・ブダペストで開催されたが、収容人数20000を超えるスタジアムがほぼ満員になった(4連覇を飾ったリヨンの主力に熊谷紗希が名を連ねていることは本当に誇らしい)。男子と比べればまだまだ、と言えるかもしれないが、既にカルチャーやハードが備わっている欧州で今後も女子サッカーが実力、人気両面で伸びていくのは間違いないだろう。
アメリカのレベルが下がったわけではないが、絶対的な優勝候補ではない。スピードと強さで圧倒的な存在感を誇っていたが、欧州勢にタレントが続々現れた結果、アドバンテージがジワジワと失われている印象だ。リオ五輪が8強止まりだったことを思うと、今大会も簡単ではないだろう。アレックス・モーガンやミーガン・ラピノーといった経験者が鍵になる。
昨年の男子ワールドカップを勝ち取ったフランスがアベックで優勝を飾る可能性は大いにあるだろう。1998年の自国開催W杯で男子のフランス代表が初優勝を飾ったことなども思い起こされる。最も注目すべきチームの一つと言って良いだろう。先の日本戦でも出場したバレリー・ゴーバンなど強さと上手さを合わせ持つタレントが多い。
イングランドも優勝候補に挙げるべきチームだ。フランスに比べると個の力でやや劣るが、先の日本戦ではエレン・カーニーやベス・ミードといったサイドアタッカーが攻撃力を見せつけた。2017年にFIFA女子最優秀選手に輝いたリーケ・マルテンスを擁するオランダも優勝する可能性を十分備えている。アメリカに次ぐ伝統を持つ強豪国ドイツも世界王者への返り咲きを狙い、他にもスペイン、ノルウェーやスウェーデン、アジアではオーストラリア、南米ではブラジルといったところが上位進出を狙う。以前のような突出した数チームによる優勝争いではなく、群雄割拠と言える状況。どのチームもまず、8強に残ることに狙いを定めることになるだろう。
再び頂点を目指す我らがなでしこジャパンだが、かなりハードな道程であることは間違いない。選手個人で見ると若いタレントが伸びてはいるものの、強豪国の成長速度に追いつけていない。やはり大会ではチームワークが鍵になる。だが、高倉監督は直前まで多くの選手を招集し、テストを繰り返した。佐々木前監督がある程度メンバーを固定して、連携面を煮詰めていったのとは大きく異なる。その強化過程に不満や不安を感じているファンもいるだろう。
最終的に高倉監督はベレーザ所属選手を多く選んだ。これには様々な意見があるだろうが、連携面を考えればメリットがある。また、熊谷や宇津木瑠美、鮫島彩、岩渕真奈、阪口夢穂など2011、2015年のW杯を知っているメンバー、U-17、U-20の年代別ワールドカップで優勝を経験しているメンバーが揃っているのも、トーナメントで勝ち抜くという意味では強みになる。
昨年のロシアW杯で西野監督が崩壊寸前だった日本代表を短期間で立て直したことを考えると、コンディション調整を含め、時間的余裕があり過ぎるよりもやることが絞れて良いかもしれない。その点は協会として経験を活かせる面もあるはずだ。高倉監督も織り込み済みで強化を進めているのではないだろうか。先に8強に残るのがかなりハードと述べたが、逆に言えば8強まで残れれば、なでしこジャパンの粘り強い守備や連携、経験値を活かしやすくなってくるはずだ。劣勢に立たされることを恐れず、勇敢に戦ってもらいたい。
日本にとっては難しい大会にはなるが、女子サッカーが飛躍する契機になるのではという期待も大きい。性差別や女性の活躍がテーマとなる機会が多い昨今、極めて男性社会だったサッカー界が大きく変わるろうとしている。その節目となり得る大会で、なでしこジャパンがどのような活躍ができるのだろうか、注目したい。
