22回目を迎えるFIFA ワールドカップがカタールの地で行われる。初めての西アジア開催、その他にも『史上初めて』が多い大会だ。
これまでの21大会は夏、つまり欧州サッカーのオフシーズンに行われてきた。だが、開催地が決定した後も「夏の中東で試合をすること自体、気候的に無理なのでは?」という声が絶えなかった。スタジアム全体を空調管理するという大胆な案もあったが、最終的には11〜12月、つまり夏をあきらめて冬開催にすることで落ち着いた。ヨーロッパ諸国ではリーグ戦を中断して参加する初めての大会となる。
そのため、開催前に一ヶ月程度あったはずの調整期間が一週間ほどに短縮されてしまった。このことは様々な部分に影響を及ぼしている。
COVID-19の影響もあってのことだが、登録選手が26人に拡大し、試合中の選手交代数も5名までOKとなった。使える枠が増えたことで、これまでは複数ポジションをこなせる選手が重用されがちだった控えに、スペシャリストの登録が増えた。GKを除けば半分の選手が替えられるということで、よりインテンシティの高い試合が期待できる反面、コンビネーションはやや軽視される傾向にある。そのせいか各チーム、親善試合では手の内を明かず、強豪ドイツは代表初招集の選手を複数登録するというサプライズをしてみせた。
大会期間も短縮され、スケジュールがタイトになった。このことも各チームがメンバーを固定し熟成させる強化から、選手を替えても成立させやすいシンプルなサッカーを志向する要因の一つになっている。タレントを多く抱え、フィジカル的に強く、経験豊富な強豪国に有利な大会となっていきそうだ。
また、開催国が初出場、というケースも初めてになる。日本もFIFA ワールドカップ 2002の開催が決定した時点では未出場国だったが、その後FIFA ワールドカップ 1998ではアジア予選を勝ち抜いて本大会に出場しており、実力的にも自国開催に値することを示してみせた。それ故にカタール代表に対して厳しい声があがっていることも事実だ。
また、FIFA ワールドカップ 2010では南アフリカが、開催国でありながら決勝トーナメントに進めないという初めてのケースとなったが、今大会でエクアドル、セネガル、オランダと同居するカタールが、グループAで2位以上を確保するのはかなり難易度が高い。カタール代表にはぜひ意地を見せて欲しいところだ。
もう少し開催国に触れておく。カタールの国土はおよそ秋田県程度の面積で、人口も300万人を下回る。記念すべき第一回大会の開催国であり、2度の優勝経験を誇るウルグアイも人口350万人ほどの小国だが、カタールはさらに小さい。8つのスタジアムがドーハ近郊に集中しており、最も離れているアル・ベイト・スタジアムとアル・ジャヌーブ・スタジアムも車で1時間程の距離でしかなく、ここまでスタジアム間の移動が楽な大会もないだろう。
イスラム教を国教とする国での開催も初めてのことだ。日本人にとっては馴染みのない慣習も多い。いわゆる西側の感覚で言えば違和感のあるルールも少なくない。ただ、この国で最も人気のあるスポーツがサッカーであり、これまでも多くのスター選手がカタールリーグでプレイするなどサッカーで関係性を保って来た。FIFA ワールドカップ 2022を通して相互理解や人材交流が進み、国際社会がより発展することに期待したい。
最後に我らが日本代表について。ベスト8の壁を超えることが最大の目標だが、森保監督のチーム作りに懐疑的な声も少なくない。屈強な外国勢に対して、タレントを集め日本人らしい創意工夫とコンビネーションを磨き上げて挑む、というファンが『乗っかりやすい』チームに仕上がっていないのは確かだ。
だが、上記したようにルール的にも、環境的にも特殊な状況で開催される今大会に、固定したメンバーの練度を高めてチームを作り、コンディションを整えて試合に挑む、というのはかなり難しいことだ。事実、主力の1人だった中山雄太は直前の怪我で離脱し、遠藤航、三笘薫、板倉滉、浅野拓磨、冨安健洋といったチームの重要人物たちが開幕ギリギリまでどの程度プレイできるのか、不透明な状況に陥っている。
これまでの日本代表は、手厚いサポートが出来た自国開催の2002年を除くと、ベスト16に進出できた2010年、2018年共に熟成したチームと戦術ではなく、直前の方針転換を強引に乗り切ることで結果を出した。逆に言えばそれ以外で成功した試しがないのだ。
森保監督は、特に東京五輪以降、特定のタレントやコンビネーションに依存しすぎないチーム作りをしてきている。積み上げがないと言ってしまえばそれまでだが、ドイツ、コスタリカ、スペインという強豪国と10日間で3試合こなすということを考えた時、汎用性の高いメンバーを集め、シンプルな戦い方で総力戦を挑む方が決勝トーナメントに進める、と踏んでいるのではないだろうか。
森保ジャパンの動向を含め、LEGENDS STADIUMでは現地からの様々な映像や情報をファンにお届けする準備ができている。一緒にFIFA ワールドカップ 2022を楽しんでいたけたら幸いである。
