3年ぶりとなる戴冠が目の前に迫っている。
横浜はシーズン序盤から常に順位表の上位に顔を出していたため、周囲からは高水準で安定しているように見えるかもしれない。リーグ戦で4つの黒星を喫しているものの、連敗は一度もない。
むしろ負けた次の試合こそ高いパフォーマンスを発揮する傾向にあり、リバウンドメンタリティが備わっていることを印象付けた。いわゆる強いチームの条件を満たしていると言っていいだろう。
ただし8月に限って言えば、非常に苦しい時間を過ごした。リーグ戦こそ川崎に敗れた1敗のみだが、ルヴァンカップ準々決勝の広島とのホーム&アウェー、さらにはACLラウンド16の神戸戦も含めた公式戦4連敗で未勝利に終わる。個々のパフォーマンスも軒並み低く、ここで大きくトーンダウンしても不思議ではなかった。
立て直しのきっかけとなったのは、中断期間中に再確認したハイプレスだ。この原点回帰が功を奏し、9月以降は4勝2分と着実に勝点を積み上げてきた。取りこぼしが目立つライバルチームとは対照的で、他会場の結果次第では今節にも優勝を決めるチャンスがある。
冷静さも現在のチームの大きな特長だろう。大魚が手の届きそうなところにあっても、浮足立っている様子は一切ない。
「ここまで積み重ねてきたのは1試合1試合を全力で戦うということで、そのスタンスは絶対に変える気はないし、変える必要もない」と話したのは、リーダー的存在のMF水沼宏太。変わらず一戦必勝のスタンスで今節のガンバ大阪戦に臨む。
過去の歴史を振り返ると、2013年にも残り2試合のタイミングで優勝に王手をかけた。日産スタジアムで新潟を迎え撃ったが敗戦。意気消沈したチームは最終節の川崎戦でも敗れ、タイトルが手からこぼれ落ちた。
何が起こるのか、最後まで分からない。心強いのは2019年の優勝メンバーが在籍している点だ。その1人である喜田拓也は、今季も主将としてチームをけん引してきた。
「この状況は間違いなくチーム全員で積み上げてきたもの。戦いに行くにあたって怖気づく必要はないし、自分たちがやってきたことを信じて貫いてきたからこその今。そのうえで勝つことへの執着をしっかり出していきたい」
目の前の試合で勝点3を掴み取った先に、最高の景色が待っていることを知っているのだから、不安は杞憂に終わる可能性が高い。
チーム状態は視界良好だ。
4-0で快勝した前節の名古屋戦は今季のベストゲームの1つに数えられる内容だった。攻守両面で相手を圧倒し、4得点すべてに横浜らしさが凝縮されていた。横浜に対して無策で臨んでくるチームはほとんどないが、自分たちのスタイルを貫いて培ってきた地力で上回る。
負傷離脱していた西村拓真の復帰も明るい材料だ。当初は全治4~6週という診断結果が発表されていたが、それを3週に縮めて名古屋戦で途中出場した。
トップ下やストライカーポジション、あるいは両ウイングもこなせる万能型アタッカーの存在は大きく、万全のコンディションではなかったとしても「このチームで優勝したい」という強い気持ちが身体を突き動かしている。西村の飽くなき執念はチームに大きな波及効果を生むだろう。
頼もしい仲間が復帰し、横浜は丹念に磨き上げてきたアタッキングフットボールで勝利を目ざす。ケヴィン・マスカット監督は「我々にはエキサイティングな内容を見せる責任がある」と語気を強めた。余所行きのサッカーではなく、横浜らしいアグレッシブな戦いが期待される。
決戦の地は、今季10勝2分と圧倒的な勝率を誇る日産スタジアム。2019年にも最終戦で優勝を決めた縁起の良い場所で、フィナーレを飾るのにこれ以上の舞台設定はない。
仮にこの一戦で決まらなくても、残り4試合で2勝すれば自力優勝が決まる。トリコロールに収穫の秋が訪れようとしている。
取材・文●藤井雅彦(ジャーナリスト)
記事提供:サッカーダイジェストWEB