ベスト8をかけて挑んだクロアチア戦は、1対1で延長戦の末、PK戦に突入した。
日本は蹴りたい順から決めたという4人目までのうち、3人が”PKキーパー”としても知られるGKリヴァコヴィッチに阻止された。クロアチアは1人がポストに当てて外したが、残りの選手はきっちりと決めて、ベスト8進出を勝ち取った。
クロアチアはドイツやスペインと違い、特定の型を持つというよりは、相手を分析して戦術に反映してくるチームだ。
日本は5-4-1をベースにしながら「センターバックに対して、もうちょっと行けるような工夫はしていて、相手もドイツやスペインよりはプレッシャーをかけたら蹴ってくるところもあった」と遠藤航は振り返っている。
例えば、1トップの前田大然が、片方のセンターバックにプレッシャーをかけた場合、もう片方のセンターバックを堂安律か鎌田大地がチェックし、そのどちらかがサイドバックに行くような、ミドルブロックからの守備が機能していた。
全体的に前からの守備はハマっていた中で、クロアチアの3トップにロングボールが合い、セカンドボールからチャンスを作られるシーンはあった。
しかし、前半17分には遠藤航、守田英正、鎌田と繋がり、長友佑都のクロスに前田が合わせに行くなど、意図的なコンビネーションから相手ゴールを脅かすシーンは作れていた。
コーナーから日本が先制
クロアチアは司令塔のモドリッチが、アンカーのブロゾヴィッチと同じ高さまで下がってボールを受けるなど、立ち位置を変えながら日本の守備を掻い潜ろうとするが、日本は多少フリーを作られても、守田と遠藤のボランチがバイタルエリアでスペースを与えず、ボールを奪うと速攻気味の攻撃を繰り出していく。
ドイツ戦やスペイン戦の前半とは違い、イーブンの戦いができていた状況で、グループステージでは見られなかった、デザインしたコーナーキックから日本の先制ゴールは生まれた。
前半43分、一度目の堂安のキックは相手に跳ね返され、再度コーナーキックとなったが、二度目はゴール前に蹴るふりをして、鎌田にショートパス。さらに手前でボールを受けた伊東が戻して、堂安がダイレクトで左足を振り抜く。
中央の選手たちの頭上を越えたボールを、ファーサイドの吉田麻也がディフェンスと競りながら折り返し、最後は前田が左足で決めた。ボールを縦に動かすことで相手のディフェンスを引き出し、裏のスペースに前田が飛び出すという巧妙なデザインだった。
クロアチアが同点
追いかける形になったクロアチアは、ハイラインでプレッシャーをかけながら、インサイドハーフのコバチッチとモドリッチが左右のワイドに開き、ボールを持ったらシンプルにサイドからクロスを入れるなど、中盤を省略気味にして圧力をかけてきた。
ユラノビッチのロングスローもボディブローのように効いてきたところで、後半10分に同点ゴールが生まれる。
右サイドでクラマリッチ、ブロゾヴィッチ、ユラノビッチと繋いで日本の意識を引きつけると、センターバックのロヴレンが後方から上げたクロスに、ファーサイドからペリシッチが飛び込んで、伊東の手前でフリーになりながら頭で合わせた。
後半のクロアチアは、ファーサイドで合わせるクロスの意識を強めていた。ゴールシーンは、187cmのペリシッチと176cmの伊東のミスマッチを利用した形でもある。
三笘投入も不発
森保監督は後半19分に三笘薫と浅野拓磨を入れて巻き返しに出るが、三笘のドリブルはクロアチアの連携を生かした対応を破れない。
浅野の飛び出しも俊足のグヴァルディオルに無力化された。勢いに乗るはずが、逆にクロアチアに手応えを与えることになってしまった。
勝負のカードとして投入された南野拓実がチャンスで決めることができれば良かったが、明確な成果が無いまま延長戦になり、クロアチアが圧力をかけてきた。
日本はボランチの守田に代えて田中碧を入れ、中盤を活性化して攻勢をかけようとする。クロアチアも中盤のモドリッチとコヴァチッチを下げ、フレッシュなマイェルとヴラシッチを投入するなど、延長戦だけで4人の交代を敢行。優勢に試合を進めるが、日本も最後のところで粘り強くゴールを守り抜いた。
105分には、三笘が一気にドリブルで持ち上がり、惜しいシュートにつなげるなど、得点チャンスがなかったわけではない。しかし、延長戦で6枚目のカードを切れなかったことも含めて、全体として選手交代の効果を出し切れず。延長戦のパフォーマンスを見れば、PK戦に持ち込めたのは幸いだったかもしれない。
PKセーバーに止められる
とはいえ、PK戦では日本よりもクロアチアの方がキッカーもGKも上手だった。クロアチアの守護神リヴァコヴィッチは、PKセーバーとして知られた選手で、相当な自信を持っていたのは間違いない。
PK戦は運の要素が強いとも言われるが、日本が蹴った4本のうち3本が止められたことも偶然ではないだろう。
日本にとっては、グループ首位通過を果たしながら、前回準優勝のクロアチアと当たったことも、ベスト8に進む上でハードラックだったかもしれない。
しかし、遠藤航が「こういう相手に対しても、やれる感覚はありました」と語る通り、局面の勝負では十分にやれていた。だからこそ、チームとしてどう勝機をつかむか。そのところで、試合巧者に押し切られた感はある。
日本は2002年、2010年、2018年とベスト16の壁に阻まれてきた。グループステージでドイツ、スペインを破る快挙を成し遂げ、初めて2大会続けてベスト16に勝ち上がったチームも”新しい景色”を見ることはできなかった。
クロアチア戦に関しては、森保監督の采配も含めて、試合巧者の相手に90分、120分の勝負で上回る対応力を示し切れなかった。
選手たちは着実に戦えるようになり、選手層という意味でも、これまでよりは上がっている。
今後、”個の力”はさらに伸ばしながら、日本代表として、どういったものを加えていくのか。チームの方向性を大きく変えれば、結果が出ないリスクもあるかもしれない。監督人事も含めて、注目していきたい。(文・河治良幸)
FIFA ワールドカップ 2022 - ラウンド16 日本 1-1 クロアチア(PK 1-3)
【得点者】
前田(日本) 前半43分
ペリシッチ(クロアチア) 後半10分
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11月20日に開幕したFIFAワールドカップ カタール2022もラウンド16に突入。22回目となる今大会は史上初めて中東での冬季開催となっている。1試合の交代枠が5人、登録選手も各チーム26人とルール変更もあり、判定にも半自動オフサイドテクノロジーが導入される等、新たなFIFAワールドカップとして記憶される大会となりそうだ。
日本はFIFAワールドカップ フランス 1998から7大会連続7度目の出場、2002、2010、2018の3大会でベスト16に進出している。初のベスト8進出という目標を掲げて挑む森保ジャパンだが、ドイツ、コスタリカ、スペインと同居するグループリーグは過去最高に厳しい組み合わせとなった。しかし、優勝経験国であるドイツ、スペインを撃破し世界を震撼させての1位通過を決めた。『新しい景色』を目指してクロアチアと対戦する。
◇決勝トーナメント ラウンド16(全て日本時間)
12/4(日) 0:00 オランダ vs アメリカ
12/4(日) 4:00 アルゼンチン vs オーストラリア
12/5(月) 0:00 フランス VS ポーランド
12/5(月) 4:00 イングランド VS セネガル
12/6(火) 0:00 日本 VS クロアチア
12/6(火) 4:00 ブラジル VS 韓国
12/7(水) 0:00 モロッコ VS スペイン
12/7(水) 4:00 ポルトガル VS スイス
◇日本戦情報
決勝トーナメント 第1戦 日本 vs クロアチア
12月6日(火) 日本時間 00時00分 キックオフ
フジテレビ系列、ABEMAで生放送・配信予定