FIFA ワールドカップ 2022 準々決勝 クロアチア 1-1 ブラジル
やはり、ブラジルにとって準々決勝は鬼門だった。
2006年はフランスに、2010年はオランダに、2018年はベルギーに敗れてベスト8止まり。2002年の優勝を最後に、自国開催でベスト4へ勝ち上がった2014年以外は、すべて準々決勝が鬼門になっている。今回もクロアチアに敗れ、ベスト8で大会を去ることになった。
スタッツを見れば、地力に差があったのは一目瞭然だ。ブラジルはシュート20本のうち、11本が枠内へ飛んでいる。一方のクロアチアは、シュート9本のうち、枠内へ飛んだのは1本だけ。
あの延長後半12分、窮鼠猫を噛む起死回生の同点ゴールが、クロアチアにとっては唯一の枠内シュートだった。
試合内容にこれだけの差があっても、最後にひっくり返される一大ホラーが用意されているのだから、サッカーは恐ろしい。いや、ワールドカップは恐ろしいと言うべきか。
GKがリヴァコヴィッチでなければ、クロアチアは後半の被決定機で失点を重ね、大敗していた可能性もあるのだが。
共に4-3-3を使用
ブラジルは魅力的なチームだった。ここで姿を消すのは惜しい。
元よりこのサッカー王国は、個人戦術の集合体として圧倒的なクオリティーを発揮するのが特徴だが、チッチ率いるブラジルはそれに加え、チームとしての枠組み、組織性もプラスされていた。
ブラジルとクロアチアは共に4-3-3を敷き、全体がかみ合っている。互いに守備時は中盤が逆三角形から三角形へ変化し、相手アンカーをネイマールとモドリッチがそれぞれマークして3対3で人をかみ合わせる、よく似た守備型を取っていた。
このマッチアップを、どう崩していくかがビルドアップの焦点だが、その点でブラジルは左サイドバックのダニーロが鍵を握った。カゼミーロとモドリッチの1対1を、2対1に変え、中を起点に前進していく。
序盤は少しノッキングもあった。ブラジルは相手の4バック崩しとして、ネイマールが左ハーフレーンを走り抜け、相手センターバックのロヴレンと相手サイドバックのユラノビッチの2人を引きつけ、ヴィニシウスにスペースを与えようとした。
そこへDFチアゴ・シウバからロングパス一閃。生きの良い若手にスペースを与える、クラック(名手)のランニングは絶妙だった。
ポゼッション率は五分
ところが、前述のようにダニーロが中へ入るため、ヴィニシウスは少し低い位置で幅を取ろうとし、ロングパスの受け手、あるいはネイマールからの落としを受けられない立ち位置になる場面が目についた。
この辺りは時間と共に修正され、ダニーロを加えた中盤の優位を使い、ショートパスで運ぶ方向へ収束していく。
クロアチアは徐々にラインを下げさせられた。ここで滅多打ちにされれば、試合は一気に片が付くのだが、そうはクロアチアが卸さない。
モドリッチやブロゾビッチらの臆さぬパスワークにより、ブラジルのハイプレッシングを回避し、ユラノビッチの爆走ドリブルも加えて、試合の支配権に食らいつく。
前半のポゼッション率はクロアチアが46%、ブラジルが42%(12%は中立)で、試合全体でもポゼッション率は五分だった。
アタッキングサードから崩す質にはかなりの差があったが、それでもクロアチアが最後まで崩れなかったのは、GKのスーパーセーブだけでなく、試合の支配権を渡さなかったことが大きい。
ネイマールの一撃
粘るクロアチアに対し、ブラジルは一段と質の高さを見せた。後半に入ると、ハイプレスの切れが増し、攻撃のコンビネーションが加速する。
リシャルリソンが相手センターバックを引きつけ、両ウイングが相手サイドバックをピン止めした上で、DF間へネイマールが飛び出して行く。この形で決定機を作り出した。
ネイマールはビルドアップ時に中盤へ動くため、最終局面では後方から出没して来る。このランニングやドリブルに、クロアチアの守備陣は手を焼いた。
GKリヴァコヴィッチを中心にゴールに鍵をかけたクロアチアだが、延長前半16分、ついに決壊。それを成し遂げたのは、ブラジルらしい、実にブラジルらしい、ネイマールのダブルワンツーだった。
DFソサの絞りが遅れたと言えば、遅れているが、それよりあの密集をすり抜けるネイマールたちの技術に脱帽だ。
ただもう、今にして思えば、すべてが惜しい。そして、あまりにもクロアチアがブラボーだ。
クロアチアの同点弾
衝撃の失点場面が訪れる前、ブラジルの指揮官チッチは前線の選手に対し、必死にプレスバックを要求していた。2点目をねらう前線と、最終ラインの間で、中盤が間延びしていたからだ。
その不安は的中する。延長後半12分、クロアチアのクリアボールに対し、ブラジルは前線に5人が攻め残ってしまい、ロングカウンターを発動される。最後はFWペトコビッチに同点ゴールを叩き込まれた。
チームに漂う勝利の予感と、緩み。8強で散るときのブラジルは、大体このパターンだった。チッチのブラジルでさえ、そこから抜け出せていない。
それにしても、クロアチアはイカれていた。この苦境で少しも諦めていない。PK戦も1人目のブラシッチと2人目のマイェルが、真ん中にぶち込んだ。
試合中もブラジルに対し、少しもビビっていない様子が伺えたが、ビビるどころか、王国に対して彼らは不遜なほどだった。結局、キッカー4人全員が成功して見せる。
PK戦は4戦全勝
ブラジルのPKも決して悪くはなかった。1人目のロドリゴだけが、甘いキックになったが、カゼミーロ、ペドロは見事だった。
このレベルのGKを相手にグラウンダーでねらうなら、カゼミーロのように強烈にサイドネットを揺らすか、あるいはペドロのようにタイミングを外さなければ話にならない。
それを意識してか、4人目のマルキーニョスも厳しいコースをねらったが、ゴールポストを直撃。そんなときに限って、GKリヴァコヴィッチは逆へ跳んでいるのだから、皮肉としか言いようがない。しかし、マルキーニョスは勝負をした。その勇気は称えられて然るべきだ。
それにしても恐ろしや、クロアチア。
準優勝した前回大会から含めて、彼らが決勝トーナメントで90分のうちに勝利した試合は一つもない。なのに、ターンオーバーもほとんどせず、PK戦は4戦全勝。イカてるよ、本当に。
クレイジーは最高の褒め言葉。何度でも、何度でも、このクロアチアへ捧げたい。(文・清水英斗)
【得点者】
ネイマール(ブラジル)延長前半16分
ブルーノ・ペトコヴィッチ(クロアチア) 延長後半12分
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11月20日に開幕したFIFAワールドカップ カタール2022も激闘に次ぐ激闘の末、優勝を目指すチームは8つに絞られた。22回目となる今大会は史上初めて中東での冬季開催、1試合の交代枠が5人、登録選手も各チーム26人とルール変更もあり、判定にも半自動オフサイドテクノロジーが導入される等、これまでのFIFAワールドカップとの違いを感じさせるものとなっている。
日本代表はFIFAワールドカップ フランス 1998から7大会連続7度目の出場となった。これまで2002、2010、2018とベスト16に3度進出、初のベスト8という目標を掲げて挑んだ今大会、過去最高に厳しいグループステージとなったが、優勝経験国であるドイツ、スペインを撃破、世界を震撼させての1位通過を決めた。決勝トーナメント1回戦で前大会準優勝のクロアチアと対戦、PK戦にもつれ込む接戦となったが、惜しくも敗退となってしまった。
◇決勝トーナメント ラウンド8(全て日本時間)
12/10(土) 0:00 クロアチア VS ブラジル
12/10(土) 4:00 オランダ VS アルゼンチン
12/11(日) 0:00 モロッコ VS ポルトガル
12/11(日) 4:00 イングランド VS フランス