舞台となったスタジアム967は、輸送用コンテナとモジュール式の鉄骨を組み上げて作られている独特な構造を持っている。
そのため工期も工費も従来型のスタジアムより大幅に圧縮されており、大会後は解体されて再利用されるという。観客がウェーブを起こせば、地響きと共に振動するので、ちょっとしたスリルもある。
そんなスタジアムで行われた、前回王者のフランスと北欧の伝統国デンマークによる欧州勢同士の対戦は、激しい攻防の連続となった。
歴史的因縁
デンマークとフランスの歴史的因縁は当然ながら長いものがあり、その“初対戦”は諸説あるが、9世紀に偉大なシャルルマーニュ(カール大帝)に率いられたフランク王国(フランスの源流になった国)とデーン人(国名の『デンマーク』は『デーン人の国』という意味)のヴァイキングたちとの戦いにまでさかのぼる。
大国ながら海軍の伝統を持たないフランク王国に対し、デーン人たちは海からの襲撃を繰り返し、後の代には遠く港町のナントにまで攻め入っている。
たとえ大敵を向こうに回しても恐れることなく、団結して勇猛果敢に戦うデーン人の伝統は今日にあっても変わることはない。
フランスが攻勢
第1戦からディフェンスラインのメンバーを入れ替えて臨んだフランスは左にエムバペ、右にデンベレを配した強力な両翼を押し出して序盤から攻勢に出る。
対するデンマークは粘りの5バックで待ち構えるディフェンスがベース。GKシュマイケルを軸に大国の猛攻撃をしのぎつつ、ゲリラ攻撃の隙を探ることとなった。
前半から押し気味に試合を進めたのはフランスで、スピード豊かな個々人の打開力に加え、13本のクロスを上げて8本が成功するという驚異的な精度も伴うサイド攻撃をベースにデンマークの堅陣を切り崩しにかかる。
前半だけで12本のシュートも放ったが、37分にエムバペのクロスからジルーが合わせた場面も不発に終わるなど、ゴールは奪えなかった。
対するデンマークも研ぎ澄まされた集中力でフランスの攻勢を自陣で迎撃しつつ、カウンターの隙をうかがう。36分にはコルネリウスが速攻から抜け出してのシュートを放つが、これは枠外。ただ、一発を狙い続ける“怖さ”は見せ続けた。
エムバペがゴール
後半に入って試合を動かしたのはやはりこの人、現代の大帝たるエムバペである。
16分、この日初先発となった左サイドバックのテオ・エルナンデスとのコンビネーションでサイドから破ると、最後はそのエルナンデスのクロスに合わせて、ついにデンマークの堅牢な要塞を攻略してみせた。
これで万事休すかと思われたが、劣勢となっても折れないのがデンマークの伝統である。23分、エリクセンのCKからアンデルセンが合わせ、ワンチャンスを決め切って試合を振り出しに戻してしまった。
やはり背番号10
こうなると消沈するのはフランスのほう……かと思われたが、いまのフランスには試合の流れなど吹き飛ばして何とかしてくれる男がいる。
41分、グリーズマンの高精度の左足キックから繰り出されたクロスに合わせたのは、やはり背番号10。ファーサイドで体ごと押し込むようにボールを捉え、デンマークゴールを再び揺らしてみせた。
結局、これが決勝点。ネーションズリーグではデンマークに2敗していたフランスだが、世界舞台で後れを取るようなことはなく、大国の威厳を示す快勝となった。
一方、敗れたデンマークも“らしさ”は見せてフランスを追い詰めたが、一歩及ばず。オーストラリアとの最終戦は、生き残りを懸けた決戦となりそうだ。(文・川端暁彦)
FIFA ワールドカップ 2022 - グループD 第2節 フランス 2-1 デンマーク
【得点者】
エンバペ(フランス) 前半16分
クリステンセン(デンマーク)後半23分
エンバペ(フランス) 後半41分
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FIFAワールドカップ カタール2022が 11月20日開幕!22回目となるスポーツ界最大級の祭典は史上初めて中東、冬開催の大会となる。1試合の交代枠が5人、登録選手も各チーム26人とルール変更もあり、新たなFIFAワールドカップとして記憶される大会となりそうだ。日本はFIFAワールドカップ フランス 1998から7大会連続7度目の出場となる。2002、2010、2018の3大会でベスト16に進出している。初のベスト8以上という目標を掲げて挑む森保ジャパンだが、ドイツ、コスタリカ、スペインと同居するグループリーグは過去最高に厳しい組み合わせとなった。強豪相手に如何にして戦うのか注目が集まる。
◇グループステージ 組み分け
【グループA】カタール、 エクアドル、セネガル、オランダ
【グループB】イングランド、イラン、アメリカ、ウェールズ
【グループC】アルゼンチン、サウジアラビア、メキシコ、ポーランド
【グループD】フランス、オーストラリア、デンマーク、チュニジア
【グループE】スペイン、コスタリカ、ドイツ、日本
【グループF】ベルギー、カナダ、モロッコ、クロアチア
【グループG】ブラジル、セルビア、スイス、カメルーン
【グループH】ポルトガル、ガーナ、ウルグアイ、韓国
◇日本戦情報
グループE 第2節 日本 vs コスタリカ
11月27日(日) 日本時間 19時00分 キックオフ
ABEMA LIVE中継 18:00
テレビ朝日系列 LIVE中継 18:40
グループE 第3節 日本 vs スペイン
12月2日(金) 日本時間 4時00分 キックオフ
ABEMA LIVE中継 3:00
フジテレビ系列 LIVE中継 2:00