相手チームが自分たちの長所を消してきたときに、どうすればよいのか、
そんな命題をつきつけてきたのが、アルゼンチンとメキシコというFIFA ワールドカップの常連国同士による一戦だった。この試合はまるで初戦のような迫力があった。花を添えたのは88966人の大観衆にそう思わせたのは、選手たちが見せた高いインテンシティだった。
勝利を求める両チームの気迫
まずはアルゼンチン。初戦では、サウジアラビア相手に、大エースであるリオネル・メッシのゴールで先制するという最高の立ち上がりを見せた。試合を通して相手に許したシュートは、後半立ち上がりの3本だけだったのに1-2で逆転負けを喫することになった。そのため、この試合に負ければグループリーグ敗退が決まってしまう。2019年から36戦無敗を誇ってきた優勝候補としては、危機的状況でこの試合を迎えていた。
対するメキシコは初戦でポーランドに引き分けており、彼らも勝ちたい試合ではあった。FIFA ワールドカップ5大会目の出場となっているアンドレス・グアルダードを筆頭に、GKのギジェルモ・オチョアなど、前回大会でディフェンディングチャンピオンのドイツを倒した経験のあるメンバーがそろっていた。2大会連続で世界を驚かしてみせる。そんな気迫は、見る者にも伝わってきた。
激しい守備の応酬
立ち上がりからアルゼンチンがボールを握り、メキシコが激しい守備からカウンターを狙うという構図が続く。メキシコは局面に応じて、ハイプレス、ミドルゾーンにブロックを作ってからのプレッシングと、使い分けていった。そんな守備に手を焼いていたアルゼンチンも、前半の35分ころから、プレスを回避する形を少しずつ見いだせるようになった。その結果、41分なってようやくこの試合最初のシュートをラウタロ・マルティネスが打つに至った。
ただ、アルゼンチンの無敗記録を支えていたのは強固な守備。メキシコにカウンターのチャンスをやすやすと与えていたわけでもなかった。
結局、前半のシュート数は、メキシコが2本、アルゼンチンがわずか1本とお互いに相手に良さを出させず、インテンシティの高い“守備の応酬”のような展開で、スコアレスのまま後半を迎えた。
圧倒的な力でメキシコ守備陣をねじ伏せたメッシ
後半に入ってもメキシコの守備の強度は相変わらず高いものだったが、前半の終盤になってからメキシコの守備の網をかいくぐる糸口を見つけ始めていたアルゼンチンが、前半より敵ゴールに向かって迫力を持って進んでいける場面が増えていく。
そして、63分のことだった、ゴール正面、ペナルティアークの手前でメッシがパスを受ける。ゴールへの距離は23メートルほどだったが、エースが迷うことなく左足を振りぬくと、ゴール右隅に逃げていく軌道で地を這うような勢いのシュートが飛んでいく。この軌道とスピードのボールには名手オチョアも届かず、ゴールネットが揺れた。
メキシコの守備が悪かったとはいえない。メキシコがメッシから自由を奪ったわけでもない。ただ、相手チームから自由を奪おうと11人が組織的な守備を見せたとしても、それ上回る圧倒的なこの力があれば、力でねじふせることができる。それもまたサッカーの真理だ。
こうして、9万人に迫ろうとする観衆の視線をくぎ付けにしていたレフティーの一撃で、アルゼンチンが2試合続けての先制を果たした。なお、これは彼らの国で神とあがめられるディエゴ・マラドーナが記録したFIFA ワールドカップでの通算ゴール記録に並ぶ8ゴール目だった。
強力なメキシコの守備をも上回るアルゼンチン
その後も、メキシコの守備の集中力は決して、切れることがなかった。粘り強く、そして強度の高い守備を続けていくことで、アルゼンチンの前線の選手たちを自由にさせなかった。
ただ、奮闘したメキシコにとって唯一の誤算があったとすれば、アルゼンチンの守備もまた強固なものだったということ。その結果、後半のメキシコは開始4分で放った2本のシュート以外、シュートを許してもらえなかった。アルゼンチンもまた、相手チームの良さを出させない守備をできるという特長があり、この試合でその守備力をいかんなく発揮していたのだった。
こうしてお互いに良さを出させず、シュートチャンスを作らせない展開が続いたなかで、迎えた86分。アルゼンチンは得意とするショートコーナーを繰り出した。ロドリゴ・デ・パウルのボールを受けたメッシが、後方からタイミングを計って上がってきたエンソ・フェルナンデスへパス。フェルナンデスは、練習でイメージしていたのだろうと思えるような動きで、中央方向にボールを押し出して1人をかわす。そして、迷わずに右足を振りぬいた。これが反対サイドのゴールネットに突き刺さり、アルゼンチンに待望の2点目が生まれた。
守備に強さがあるアルゼンチンとすれば、2点はセーフティリードだ。そこから先もメキシコの反撃は許さず、2-0で勝利をつかんだ。
『神』と並んだメッシ
試合後、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたメッシについて、アルゼンチンのリオネル・ルカノーニ監督はこう話した。
「みなさん、何が起こったかわかりますよね。うちの10番がゴールを決めたのです。ゴールを決め、チームメイトを助け、あらゆる場面で相手に脅威を与えた彼は、ベストをつくしてくれました」
メキシコが、アルゼンチンの攻撃的な長所を消し去ったのは間違いない。この試合を通して、前半に1本、後半に4本しかシュートを許さなかったのだから。
しかし、例え攻撃的なストロングポイントを消されたとしても、圧倒的な個の力があれば試合展開とは関係なく、ゴールをこじ開け、得点を奪うことができる。
そんなサッカーの真理を示したのが、アルゼンチンの誇る神の記録に並んだメッシだった(文・ミムラユウスケ)
FIFA ワールドカップ 2022 - グループC 第2節 アルゼンチン 2-0 メキシコ
【得点者】
リオネル・メッシ(アルゼンチン) 後半19分
エンソ・フェルナンデス(アルゼンチン) 後半42分
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FIFAワールドカップ カタール2022が 11月20日開幕!22回目となるスポーツ界最大級の祭典は史上初めて中東、冬開催の大会となる。1試合の交代枠が5人、登録選手も各チーム26人とルール変更もあり、新たなFIFAワールドカップとして記憶される大会となりそうだ。日本はFIFAワールドカップ フランス 1998から7大会連続7度目の出場となる。2002、2010、2018の3大会でベスト16に進出している。初のベスト8以上という目標を掲げて挑む森保ジャパンだが、ドイツ、コスタリカ、スペインと同居するグループリーグは過去最高に厳しい組み合わせとなった。強豪相手に如何にして戦うのか注目が集まる。
◇グループステージ 組み分け
【グループA】カタール、 エクアドル、セネガル、オランダ
【グループB】イングランド、イラン、アメリカ、ウェールズ
【グループC】アルゼンチン、サウジアラビア、メキシコ、ポーランド
【グループD】フランス、オーストラリア、デンマーク、チュニジア
【グループE】スペイン、コスタリカ、ドイツ、日本
【グループF】ベルギー、カナダ、モロッコ、クロアチア
【グループG】ブラジル、セルビア、スイス、カメルーン
【グループH】ポルトガル、ガーナ、ウルグアイ、韓国
◇日本戦情報
グループE 第2節 日本 vs コスタリカ
11月27日(日) 日本時間 19時00分 キックオフ
ABEMA LIVE中継 18:00
テレビ朝日系列 LIVE中継 18:40
グループE 第3節 日本 vs スペイン
12月2日(金) 日本時間 4時00分 キックオフ
ABEMA LIVE中継 3:00
フジテレビ系列 LIVE中継 2:00